【我々こそビッグブラザー】
Big Brother is watching you
(ビッグブラザーがあなたを見ている)
「1984」/ジョージ・オーウェル著より(注1)
ビッグブラザー(注2)とはイギリスの小説家ジョージ・オーウェルの作品「1984」に登場する架空の指導者のことである。
1940年代に執筆されたこの古典的SFディストピアに登場するこの人物は独裁国家を築き、人々を監視、洗脳しそして自分たちの意にそぐわない
者が出た場合、思想犯として弾圧処刑を行う。
当時の世界に対する著者の危惧が反映されたその世界観は後世の創作のみならず現実世界に多大な影響を与え、現在でも国家権力の国民に対する監視・統制に対して批判的な意図でしばしば引用される。
その引用は基本的に権威主義的な国家や富や情報を独占するデジタル企業を主体として揶揄されることに利用されてきたと私は整理をしている。
実際にオバマ政権時、エドワード・スノーデン氏によるアメリカ政府による同盟国や国民の監視の告発の際やトランプ大統領の就任後にこの「1984」の売り上げが上がり、それぞれに批判的な文脈で引用された。(注3)
「まるでビッグブラザーのようだ」と。
あくまでそういった権力者による批判に利用されてきたビッグブラザーだが、現在の社会こと日本においてはもはや我々こそがビッグブラザーになってしまったのではないだろうか?と私は思ってしまうことがある。
現在のデジタル社会はインプレッション(注4)つまり閲覧数が上がれば上がるほどプラットフォーマーの収益が上がる構造になっている。
GoogleやXやFacebookでは利用者がサイトやアプリにアクセスし投稿を見るほど広告掲載費が入ってくるのだ。
そしてSNSなどのネット上で最も伝搬の早い情報は負の感情、怒りを呼び込むものだ。(注5)
人間には自分の身の危険を早期にキャッチできるようにマイナスな情報を把握拡散しなければいけない思う本能があるからだ。(注6)
つまり怒りを増幅させるニュースに人は飛びつきそれを拡散させていく。そうすることで、XやFacebook等のプラットフォーマーは儲かる構造になっているのだ。
直近ではXにてブロック機能の廃止が行われているが、代表のイーロン・マスクはネット炎上を肯定するような投稿をしている。(注7)
そして日本では暴露による炎上が盛んになってしまった。代表的なのは2022年に動画配信サービスなどで芸能人のスキャンダルを多く取り扱ったガーシーこと東谷氏(注8)だろうか。
また滝沢ガレソ氏(注9)などのような無責任かつ根拠不明な情報を拡散してしまうインフルエンサーも多く誕生してしまった。
週刊文春などの週刊誌によるスキャンダルに関する記事の拡散もその流れに拍車をかけている。
週刊誌やインフルエンサーが暴露を行い、ネットでは人々がその情報に飛びつき、燃え上がり、
勢いが出たタイミングでテレビがそれを取り上げて更に炎上が加速する。
暴露をされた人間はそれが事実であろうとなかろうと誹謗中傷を受け、追い詰められ、死を選ぶ者もいる。炎上を嬉々として盛り上げた人々は手軽に正義の執行人になれるという快楽に満たされるかもしれないが、その精神はどんどん歪み、
結果的にプラットファーマーが利益を得る。
まさに世は大暴露時代であり、人々は他人を叩くネタ目掛け、瞳をドス黒く輝せながら、広大なネットという海へ乗り出し、暗い渦の中に引きずり込まれていく。
我々は気づけばビッグブラザーの眼そのものそしてお互いを監視し合う相互監視社会の一員となってしまったのではないだろうか?
私はこの流れを好ましく思っていない。
醜聞の渦の中で我々の精神ひいては魂は穢され、追い詰められて死を選ぶ人間がこれからもどんどん出かねない状況だと思っているからだ。出来ればこの狂った円環を断ち切りたいと思っている。
シンプルに「ネットをやめればいいのでは?」という意見もあるだろうが、この時代にそれはナンセンスな選択だろう。ネットやSNSがあったからこそ救われた人などもいるはずだし、本質的な解決にはならない。
まだその具体的な対抗手段はわからないが、、、
進み続けなければならないだろう。
(注1)
(注3)
https://japan.cnet.com/article/35095574/
(注4)
https://www.sprocket.bz/blog/20220510-impression.html
(注5)
(注6)
https://forbesjapan.com/articles/detail/29910
(注7)
(注8)
(注9)