モーツァルトっぽくないけど、やはりモーツァルト(3分間クラシック#2)
3分間で、カップラーメンが出来上がるのを待つ時間で、クラシック音楽のすそ野を広げることはできるのか?
今回はモーツァルトのピアノ・ソナタを3分間だけ聴いてみる。
モーツァルトのピアノ・ソナタ。
といえば第3楽章に有名な「トルコ行進曲」が含まれる第11番(K.331)が一番有名だろう。
これは第11番なので、もちろん、それ以外にピアノ・ソナタ作品があるのだが、有名な作品はモーツァルトと言えども意外に少数である。
そんなあまり知られていないモーツァルトのピアノ・ソナタからひとつ選んで紹介したい。
モーツァルト/ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332
この作品は、先に書いた「トルコ行進曲」が含まれる第11番のひとつ後の番号であるが、作曲は第11番と同じ時期、モーツァルト27歳の頃(1783年)作られた。
まず、以下30秒から2分20秒にかけて「3分間」弱、ご覧ください。
(第1楽章冒頭)
(ピアノ)フリードリヒ・グルダ
どう、お感じになっただろうか?
私は、この作品を最初に聴いたとき
「モーツァルトっぽくない!」
と驚いたのである。
モーツァルトっぽい。
モーツァルトっぽくない。
説明が難しいのだが、モーツァルトを聴いていると
「これはモーツァルトだね、だって、モーツァルトっぽいもの」
と思うのだ。
モーツァルト特有の楽しさ、明るさ、あっけらかんさ。
そして、たまに、深刻な切羽詰まった感。
ピアノ・ソナタ第12番も、出だしは「ああ、モーツァルトだ、モーツァルトっぽい」軽やかで飛び跳ねるような3拍子の旋律。明るくてポカポカ陽気の中で音楽が流れているかのよう。
やっぱり、モーツァルトは聴いていてウキウキする。
でも途中、55秒あたりからなにやら急に様相が変わる。おひさまポカポカだった空に、突如黒い雲が現れるように、不安げな短調になる。
しかし、すぐに(1分15秒)明るい陽射しが差し込んで一安心。出だしのような明るいモーツァルトが現れた。
と思ったら、1分35秒からまた何か変だ。
特に、ここの部分の「音の変化とリズム」に注目いただきたい。
ピアノが ♪ポンポンポン♪ という調子で刻まれ、長調のまま進むか、と思ったら短調に徐々に転化。1分39秒では強くアクセントが付けられ、和音進行とタイミングを外すようなリズム感になる弾かれ方。
これは、ジャズを聴いているようだ。
というのが一番最初に聴いた感想だった。ジャズのコード進行にこのようなものがあるのかどうかまでは知らないのだが、型にはまらないコードとリズム、即興的にアレンジを加えて演奏されるようなピアノは、ジャズを思い起こさせるものであった。
モーツァルトの、細かい、驚くような変化は、当時聴いた人にも驚きを与えたのではないだろうか。
たった、3分間に満たない、ここまでの部分をの変化を聴くだけで、もし時間が3分間しかないという私でも満足なのである。いつ聴いても、何度聞いても新鮮に思うのである。
この後も、この変化は調を変えてたびたび登場するので、お時間があれば第1楽章だけでも聴いていただきたい。
ちなみに動画のピアニスト「フリードリヒ・グルダ」は、変な帽子被って、グラサンかけて、腕時計キラキラさせて弾いてますが、ちゃんとした、それも超有名なピアニスト。
活躍後年はジャズを弾いたり、クラシックでも変わった演奏をしたりしていた人(動画でもちょっとアレンジを加えたりしている)。
この曲には、ジャズも弾いているピアニストの演奏があっているのかもしれないと思い、敢えて選択してみたが、個人的にはとても好きな演奏である。
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