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ふらっと軽井沢へ

 近々、車で軽井沢に行く必要があり、運転の練習のために軽井沢へ車を走らせた。片道1時間30分以上かかる。おまけに軽井沢は大雨だったので、少し緊張しながらの運転だった。
 軽井沢に行ってすぐ帰るだけでは味気ないので、一応の目的地を軽井沢町追分にある堀辰雄文学記念館とした。堀辰雄は私にとって思い出の作家である。中学時代、堀辰雄の中編小説「風立ちぬ」を教室で読んでいた。主人公の婚約者がサナトリウム(結核療養所)にいるという内容で、「サナトリウムって美味いのか?」と思いながら読み進めたものだ。
 2013年に公開されたジブリ映画の『風立ちぬ』の題名は、この作品に由来している。堀には、この他に「菜穂子」という中編もあり、映画のヒロインの名前はここから来ている。映画で零戦製作に心血を注ぐ主人公は実在の人物、堀越二郎をモデルにしているので、このあたりはえらく錯綜しているが、私がかつて読んだ作品がジブリ作品で取り上げられたことは嬉しかった。

堀辰雄文学記念館敷地内の風景


 堀辰雄は、軽井沢をこよなく愛した作家で、毎年のように訪れていた。代表作「風立ちぬ」もこの地で執筆している。1944年からは、疎開と肺結核の療養のために追分に定住し、1953年5月28日、現在記念館の敷地内にある旧宅で49歳の生涯を閉じた。旧宅のそばには堀が蔵書を収めようと建てた書庫がある。亡くなる10日前に完成したが、本を並べることはできなかった。
 自然豊かな軽井沢で、読書をしながら穏やかに過ごせればどんなによいだろうと堀のことを羨ましく思ったものの、作品を作ることもほとんどできなくなっていた堀にとって、むしろつらい療養生活だったはずだ。最後に安息の地を堀は見つけたのではないだろうか。

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