俺たちに翼はない
どうも、ササクマです。エッセイ書くの楽しいっす。映画評? なにそれ? 食えんの?
ってなわけで、#心に残ったゲーム です。前回に書いたカスタムロボが好感触だった上、まだまだ語り足りないので別のゲームについて書きます。
ジャンルはエロゲー。お上品なnoteユーザーの方は、エロゲーなんてやったことないでしょう?
エロゲーって何?
エロゲーとは、セックスシーンがあるノベルゲームみたいなものです。そのセックス描写さえ除けば、健全な恋愛アドベンチャーゲームへと様変わりします。
ここでエロゲーの歴史を深堀りしても良いですが、そこまでの気力は無いので簡単にだけ説明させてください。
元々、テレビゲームはアクションゲームが主流でした。80年代発売の「スーパーマリオ」、「ドラゴンクエスト」も、ドット絵が動き回っているだけです。姫を救う、魔王を倒す。単純明快な目的を提示し、テキストを絞ることで容量の問題を乗り越えました。
一方、アダルトゲームは脱衣麻雀が人気に。ソフトとしてのゲーム性は皆無に等しく、ただただエロいだけ。また規制する法律も整っていなかったので、社会的に問題視される傾向へ。
しかし、パソコンの性能が向上した1990年代。製作会社のエルフから、『同級生』が発売されます。これは従来のアクションゲームとは一線を画した、ストーリー重視の恋愛シミュレーションゲームでした。
シミュレーションとは、現実のモデルを構築し、観測または実験すること。元々、シミュレーションゲームは軍隊の戦術研究用に開発されたものです。つまり、プレイヤーはゲームを通して、美少女と疑似恋愛を体験できます。
例えば「ドラゴンクエスト」のはい/いいえの選択肢の連続で、物語の結末が大きく変わるのでした。このドラマ性を参考にしたのが「ときめきメモリアル」です。ときめもが大ヒットしたことにより、ゲームにおけるストーリーが重要視されていきます。
この流れを牽引し、一時代を築き上げたジャンルがエロゲー。「リトルバスターズ!」の麻枝准、「真剣で私に恋しなさい!」のタカヒロ、「Fate」の奈須きのこは、現在でも伝説のシナリオライターとして活躍し続けています。
上記に挙げたゲームは、僕も大好きです。しかし! それらの名作を超えて、僕の中でエロゲーNo.1に光り輝いたタイトルがあります!
それは『俺たちに翼はない』です! 通称おれつば。
俺たちに翼はない
いかがでしょうか? 正直、この絵を見て本作を忌避したユーザーもいると思います。ですが、全年齢への移植版では少し修正されてますし、プレイしていくうちに慣れるので問題ありません。
それがこちら。人気の新ヒロインも追加されたので、プレイするなら移植版がおすすめです。
イラストレーターは西又葵。元々は漫画家を目指して同人活動をしていたところ、なんやかんやあって2003年に現在の株式会社オメガビジョンを設立。あきたこまちのパッケージイラストを手がけたことで名前が知られ、ゲーム以外でも多方面の仕事が舞い込むようになります。
シナリオライターは王雀孫(オウジャクソン)。業界屈指の遅筆ライターとして有名ですが、「書けば名作!」と謳われるほど熱心なファンが定着しています。現在も自社のゲーム製作に参加している模様です。
会社内の美少女ゲームブランドが「Navel」。おれつば以降も、「月に寄りそう乙女の作法」などのヒット作が出てますね。2000年代からは一般のゲームでも重厚なストーリーが楽しめるので、アダルトゲーム全体が低迷期に入ってしまいますが、当社は現在でも意欲的に新作を出し続けています。
で、ようやく本作の内容へ。物語は最初、ものすっごく暗い雰囲気からはじまります。なぜなら、主人公の羽田鷹志が高校でイジメられているからです。
友達だと思っているヤンキーからはパシられ、プロレス技の練習台に。クラスの女王からはキモがられ、なぜか目の敵にされます。学校全体で無視される中、家に帰っても妹は素っ気ない態度。
普通なら不登校になるほど可哀想な主人公でしたが、そんな彼にも唯一の癒しがありました。それはヒロインである、渡来明日香の存在です。片想い中の彼女と会うのが楽しみで、彼は学校に通い続けます。
そして、主人公には秘密がありました。なんと彼は異世界の聖騎士だったのです。地球で学生生活を送る傍ら、異世界に召喚されては姫のアスカを救出するのでした。
……ん? どゆこと?
プレイ中である僕自身も戸惑いながら、物語は進みます。すると今度は主人公が交代し、チャラ男の千歳鷲介が喫茶店で働く話になりました。
わけわからん。鷹志どこ行った? わけわからんけど、マスターとの下ネタトークで爆笑しすぎて、そんな疑問は吹っ飛びます。それに、あの暗い雰囲気は精神的に病む。陽キャとして生きたい。
とか思ってたら、また主人公が交代します。今度はアウトローで、ぶっきらぼうな成田隼人。彼は街の便利屋として依頼をこなす中、カラーギャングの抗争に巻き込まれてしまいます。まるでドラマ版「池袋ウエストゲートパーク」のような世界観。のほほんとした日常から、一気に緊迫とした展開となり、作品が大好きな僕も読み進む手が止まりません。
世界が平和でありますように
で、物語が進む中、とある驚きの事実が判明します。どうせお上品なnoteユーザーの方はエロゲーなんてやらないでしょうからネタバレしますと、なんと主人公は多重人格だったのです。つまりイジメられっ子の鷹志、チャラ男の鷲介、アウトローな隼人の三人は同一人物でした。
おもしろすぎる。
しかし、その設定を知らなかった僕は、とりあえず正ヒロインっぽい明日香のフラグを立てていたせいで、強制的に羽田鷹志ルートへ入ることに。
物語は再び陰鬱な雰囲気へ。根暗な鷹志はギャグセンスが皆無なため、読んでて全くおもしろくない。それどころかイジメはヒートアップする一方で、彼は状況を改善しようとする素振りさえありません。
なぜなら、鷹志の人格は何をされても傷つかない、無敵の聖騎士として作られたからです。そのためイジメを受けても笑っているという、不安定な感情の持ち主となっています。
ただし心の負担は大きいため、その逃避先として異世界の設定を作り上げていました。このままだと現実世界では何も進展しないなぁとか思っていたところ、ようやくヒロインの渡来明日香が鷹志の秘密に気づきます。
実は彼女は名前の通り世渡り上手な性格をしていて、人間関係における観察眼に秀でていました。そんな中、イジメにあっても平気でいられる鷹志を見て、次第に興味を惹きつけられます。周囲のことがよく見えている分、自分のことは見えてなかったりするので、それが恋心だとは自覚できていません。
学級委員長を押し付けられた2人は、クラス内でも浮いている生徒との接触を図ることに。その生徒は針生蔵人という名の男。彼は留年してまで学生生活を続ける変わり者で、明日香の先輩でした。また今は解散した伝説的なバンドのドラマーで、成田隼人の知り合いという複雑な背景があります。
そんなことは知らず、呑気に話しかける鷹志。ですが、針生からは気安く話しかけないでくれと、俺はお前みたいなお人好しが大嫌いだと、軽く脅されます。
針生も明日香も他人から嫉妬されたり、羨望の眼差しで見られることが多く、面倒なトラブルに巻き込まれがちなので、すっかり人間不信に陥っているのでした。誰かを信用して騙されたくないため、人一倍警戒心が強いところ、鷹志は何をされても傷つかない無敵の聖騎士です。また懲りずに何度も話しかけます。
これには戸惑う針生。彼は鷹志の事情を知っていることもあり、意外とすんなり受け入れます。それどころか、どんどん鷹志のことが気に入るのでした。
なぜなら、針生は子どもの夢と、大人の現実との間で葛藤している青年だからです。大人の汚さ、狡さ、嘘を嫌悪しているからこそ、子どものような純粋さ、清らかさ、美しさを愛します。
ゆえに、大人になりゆく自分に嫌気が差す。その感覚は明日香も共有しているらしく、時折子どもっぽい一面を見せることも。例えば、卒業旅行のことを遠足と言い換えたりします。子どもの遊び心を出すことで、大人になりゆく自分に抵抗しているのでした。
だからこそ、鷹志は本物なのです。多重人格であり、それを自覚していない彼は、逆に言えば性格に裏表がありません。真面目で嘘が吐けず、どこまで行ってもお人好しで、異世界では聖騎士という遊び心まで持っています。
鷹志と関わる中で本質に感づいた時、針生も明日香もフレンドリーな態度で接してくるようになります。彼といる間は、自分を偽らなくていい。さっきまで陰鬱だった物語が、途端に優しいぬくもりに包まれました。
とはいえ、おれつばの話の根底にあるのは、飛べない、もしくは飛べなくなった人間たちのストーリーです。翼は才能の象徴。汚い大人社会を回避したいのなら、自分を貫き通せる才能で羽ばたくしかありません。
そう思っていました。しかし、鷹志には何の才能もないです。ただ妄想で異世界に飛ぶだけ。現実はクソ。自分はダメ人間。それでも、世界は受け入れてくれるし、話しかけてくれる人もいます。だから気づいてほしい。みんな自分が傷つきたくなくて、バリヤーを張っているだけだと。
特別な才能なんてあってもなくても、真面目に生きればいい。その生真面目さに、優しさに、救われる人がいます。あなたを信じることができるから、現実でも生きようと思う。
それに、真面目に生きることは、自分を偽ることではありません。気弱な人格、チャラい人格、アウトローな人格、すべて自分です。
物語が進むと、鷹志は別人格時の知り合いから話しかけられます。人格同士での記憶は曖昧なものの、彼は自然に会話することが可能でした。わざわざ誰かに合わせている素振りはありません。
学校ではイジメられている鷹志でしたが、学校の外に出れば大勢の知り合いがいます。事情を知らない彼らは主人公の様子を怪しむものの、景気良く話しかけては元気をくれるのでした。いつもと違う反応を見れるのも楽しい。
この世界が広がる感覚、すっげぇワクワクします。
現実社会は汚くて、嘘に塗れて、ありのままでは生きられないかもしれません。でも、ただ綺麗なだけの人間なんて、おもしろくないと僕は思います。真面目だけど不器用だったり、オタク知識が豊富だったり、誰にでも優しいけど鈍感だったり、いろんな側面がある人間の方が魅力的ではないでしょうか?
だからこそ人との繋がりが広がり、新しい世界を知れるのです。
俺たちに翼はないが、ないこともない。
いただいたお金は、映画評を書く資料集めに使います。目指せ3万円。