新人戦とひとり立ち。試合中もどしゃ降りでビチャビチャ。
試合の季節がやってきた
ピチピチの1回生ばかりが出ている
秋の新人戦の前に
1つ地方戦があった
その試合の特徴はとにかくエントリー数が多いこと
シューティングラインはギチギチだ
赤福くらいギチギチに詰まっている
少しでも横に振れれば隣の人の弓具に当たってしまう
気を遣いながら射つ
他大学のデカい男子に挟まれて射つ
しかも右側の人は左射ちだった
立ち位置が反対になる
つまり向かい合わせになる
u音で話せばキスしそうなくらい近い
矢筒から矢を取る時も何度か手があたる
き…きまずい
しかも試合後半に豪雨になる
雷が鳴らない限り中断はない
当たり前だが傘はさせない
なぜかみんなレインコートもあまり着ない
ビチャビチャになりなんとか射ち終えた
入賞は出来なかった
初めての公式戦だった
アローケースに着替えを2セット用意していた
同期女子で多分持ってこない子がいると思ったら
案の定1人震えていた
「コレ着て帰り。冷えるとアカンから。
カップ付きのインナーも入ってるから全部着替えておいで」
「ありがとう」ガチガチ震えながら更衣室へ行った
夏も終わりだという季節だというのに真冬のようだった
男子部の方が優勝と2位を出していた
いいなぁ…
同期はみんなライバル
入部した頃に言われた言葉を思い出す
「おめでとう」とは言うが私だってもっと点数取りたいと言う気持ちは常に持っていた
負けたくない
*
現地解散になり帰り道でだんだんと悔しくなってきた
大学に戻りシャワー室で温まってから弓具の手入れをする弦が濡れたら痛むしリムが錆びたら恥だ
試合後の反省文を書き帰宅する
嫌なことはさっさと済ませる
はぁ…次は秋の新人戦かぁ…
部室の畳に大の字に寝そべって溜め息をはく
嫌だなぁ
*
憂鬱だった
自分の出来なさが点数化される
部内でいい線行ってても関西の中では弱小
言えないけど試合が怖いと思っていた
新人戦の当日、始発に近い電車で会場に向かう
応援で先輩たちも来てくれる
「疲れないように荷物貸しなー」と持ってくれる
期待されると辛い
けど先輩たちもこの日は特別なのだ
自分が教えた後輩がどこまで伸びたかワクワクする
私も来年、授業参観気分でサポート役に回ることになる
*
試合が始まった
射っても的に刺さってない
サイトは合ってるよな?!
なんで?スコープで確認しても矢がどこにもない
え?何が悪かった?
分からないけどとりあえず制限時間がある
もう黄色の旗が上がっている
3本射たなければいけない
結局3本芝生に滑走していた
最悪の思い出だ
スコアに「M .M .M」と記載される
のちに「ドM」とイジられる
※M=miss shot
先輩がすぐ弓具を見てくれる
弦が上下逆に張られていた
これじゃ当たるわけない
アホの子だ
なんで気が付かなかったの?
と責められることなく
「切り替えろ」「まだ取り戻せるぞ」
と励ましてくれる
次はちゃんと当たった
白の1点に辛うじて刺さっていた
ホッとする
50mと30mを無事に射ち終わる
同期、誰も入賞出来ない試合になった
円陣で反省を言う時に
「弓具の不備に気が付かず何本も打ち損じをしました、今まで付きっきりで面倒見てもらったのにすみません」
すかさずペアの先輩が「緊張しているのに気がついてやれなくて可哀想なことしました。ごめんな。」と言われて何度も謝るしかなかった
この試合を境に1人で練習場を使う許可が出る
情けないひとり立ちになった
*
ペアの先輩とは練習場で一緒になると自然と隣に移動するし、隣に来てくれる
面倒見のいい先輩が大好きだった
この半年で完全に懐いていた
合宿で布団を踏んできたあの人だ
この頃には名字での呼び捨てではなく下の名前を呼び捨てにされていた
私たちも先輩のことを〇〇さんと下の名前で呼んでいた
次は春のリーグに向けて練習だ
練習試合はあるものの比較的平和な練習が日常になった
ちゃんと授業にも出ていた
練習着で講義室に行くことも全く抵抗がなかった
空き時間には練習場で射つか図書館で自習していた
バイトがない日はそんな感じでのんびり大学生をしていた
図書館ではずっと弓のことを調べていた
季刊誌の専門雑誌も置いてあり穴が開くほど読んだ
*
冬から春リーグ向けて練習試合が増えていく
試合の前日には「調整」という試合形式の点数付けがある
それを参考にメンバーが決まる
スタメンは5人だ
私はいつも6番手で補欠だった
5番目の先輩は調整点の割に試合では点が取れなかった
でも試合では何が起こるか分からない
だからこの時の違和感をスルーした
でもやっぱり気になってしまった
1番信頼してるペアの先輩に何の気無しに話した
「気のせいだったらごめんない。△△先輩…調整の点数、ちょっとおかしくないですか?」
先輩が立ち止まりこっちを見る
「うん。他の子に絶対に言うなよ。」
「私もおかしいと思ってる、でも決め手がない」
「だから次の調整である方法で調べることになってる」
「絶対に誰にも言うなよ」
気迫に押されてたじろぐ
「分かりました」
どうしよう
どうにもならない
いらん事言った
多分、先輩の同期たちもみんな気がついている様子だ
後輩まで気がついたとなったらもう調べるしかなくなってしまう
もし本当に点数を誤魔化していたとしたら
どうなってしまうんだろう
ぐるぐると最悪の展開が頭がまわった
誰かに言いたかった
それはグッと飲み込んだ
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無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。