きみと8月のすべて ⑨最終話
***
”なかむら”は営業中
真由美は携帯が震えていることに気づきながらも、注文が溜まっていて手が離せない。
ピークが過ぎ常連だけが残り落ち着いた頃、着信を思い出しスマホに目をやると病院からだった。
常連たちは真由美の顔色に気が付き、心配する。
『実は、夏前くらいから母が入院しているのそれで、、』
「はよ行け!!」
常連たちは悦子の入院にもそれを口に出せない真由美にもとっくに気が付いていて真由美を送り出した。
頭も回らないまま病院に急ぐ
病院に着くころには悦子はすでに息を引き取っていた。
病院から説明等を聞くも理解が追い付かない。
考えているような考えていないような真っ白でふわふわしてしまう。
今日はもう遅いので明日また業務的な手続きをすることになった。
帰り道、電話をかける。
旦那の声は疲れているようだが、落ち着いていてしっかり話を聞いてくれた。
「うん。まだよくわからなくて。そう。
・・・・ありがとう。大丈夫。・・・たぶん。
・・・・遅くにごめんなさい。おやすみ」
気が付けば足は家を通り過ぎ涼太の家に向かっていた。
***
『私、なにやってんねやろ。
このために帰ってきたのに、、あほや私。。』
涼太は真由美の様子に悦子の死を理解した。
自身にとって悲しみが襲ってくると同時に真由美を支えた。
『私、あほや!わたしなんて!!』
涼太の胸に顔を埋めたまま胸をたたきまさに胸を借りて泣く真由美
「悦子さんって、ほんまに店が好きでしたよね。
僕ら夏目家もほんまに世話になって。
智那がバイトさせてもらった事もありました。」
「だから、店を守りに来たんですもんね。真由美さんは。」
自分を責めていた真由美が、涼太の話に手を止めた
「僕らの両親が突然居なくった時も悦子さんに、えっちゃんにたくさん支えてもらいました。真由美さんにも。えっちゃんの守りたい店をしっかり守ったんですよ。」
『涼太君、、ごめんね。こんな時間に押しかけてもうて』
「そんなの。全然。むしろ嬉しいっす。」
『ごめん。 Tシャツ、こんなに濡らしちゃった。』
涼太は必死に涙をこらえているが、こんな時にも涙目の真由美がかわいいと思ってしまう
「明日、僕も一緒に行っていいですか」
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翌朝、2人で病院で待ち合わせをした。
やる事は単純ながら二人は忙しく動いた。
葬儀は実家の”なかむら”でひっそりと行ったが、
なかむらの常連や悦子に世話になった人はこの土地には多く
真由美が想像していたよりも多くの人が訪れた。
手が回らないことを察し、参列していた涼太、智那も真由美を手伝った。
日が暮れると夏の終わりが近づいてると感じた
*********
一週間経った頃、”なかむら”は営業再開し、常連たちが多く来店した。
「もうちょっと休んどってもよかったんやで?」
『なんか、店にいるような気がしてね。あんまり休んでると怒られそうで』
「そうか」
「おるやろなー!えっちゃんの大好きな店や!」
「えっちゃんが見てると思ったらまゆみちゃんにちょっかい出されへんな」
『もう、、笑』
翌日、8月の終わりを告げる愛宕祭りには今年も隣町や他県からも多くの人が訪れ賑わった。
”なかむら”では朝早くから仕込みをし、午後から店前にテイクアウトの商品をパック詰めで出した。
海の家にもいつもより人が増え、日が暮れるギリギリまで営業して締めた。
時間は経つ。
一週間であっという間に日常が戻って来ていた。
オレンジの街灯が道をしるす夜道、真っ暗闇から海の音が聞こえてくる
真由美と涼太は肩を並べていた。
「夏って、あっという間よね」
『ほんとですねぇ。今年の夏も凝縮してましたわ』
「うん。そうね。」
『真由美さん、こっちの8月久しぶりだったんちゃいます?』
「2年ぶりかな、、?でも就職してから店に集中することもなかったし
そう考えるとほんまに久しぶりやったかも。」
『夏が終わったら、、、どないするんですか?』
「ああ。会社休業中やから、九州戻らなあかんねん。閉店準備せなな。」
『そう、、なんですね、、また寂しなるな。』
「そんなん言わんでよ。わたしかて寂しいのに。
ここは変わってるようで変わっとらん。ホンマにいい街やわ。
いい街で育った。」
『真由美さ、、 』
「涼太君、そのままでおってね。」
*********
1年後・・・
涼太はピシッとしたタキシードで緊張していた。
隣で美しいドレスを着て緊張する涼太をみて微笑んでいるのは 智那
チャペルのドアが開き参列者の先に智那の彼氏、快が立っている
涼太と智那は息を合わせて歩き出す。
どっちが主役なのかと言うほど号泣の涼太とそのおかげで泣けなくなった
智那が同じ歩幅で歩き、
ゆきやひかる、海の家のメンバーが並ぶ前をゆっくりとすぎていく。
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「ほんまに緊張したーーーーあかんわ!あれは!泣くわ!!!」
と結婚式終わり酔っ払いの涼太たちがぞろぞろと歩いてい通り過ぎるそこは
かつて小料理屋なかむらが建っていた場所だ。
今は誰もそのことを思い出さず、コンビニの前を通りすぎた。
コンビニのディスプレイに紫色の朝顔の描かれた瓶が”大人気地酒”とポップを付けて並んでいる。
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