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心理的契約研究が職場環境をより良くする方法:論文レビュー
こんにちは、原田です。
今回は、専門家が集まり心理的契約研究が職場環境をより良くする方法について議論したワークショップの結果をまとめた論文です。
心理的契約(PC)とは:
個人が雇用関係において、相手(通常は雇用主)との間で相互に果たすべき義務や期待について主観的に認識する、暗黙の交換契約(Rousseau, 1989)。この契約は法的拘束力を持たず、従業員と雇用主の間の信頼関係や期待に基づいて形成される。
心理的契約は社会的交換理論(Social Exchange Theory; Blau, 1964)に基づいており、相互の義務が履行されることで信頼が維持される。しかし、PC違反が発生すると、従業員は不満を抱き、組織へのコミットメントや業績が低下することが示されている。
主要論文:
Rousseau (1989)
心理的契約(PC)を初めて正式に定義し、個人の主観的認識が中心であると提唱Rousseau (1995)
PCの種類(取引的・関係的)と、雇用関係への影響を体系的に整理Morrison & Robinson (1997)
PC違反のプロセスを分析し、従業員の感情や行動への影響を説明Robinson & Rousseau (1994)
PC違反が雇用関係において一般的に発生することを示唆Zhao et al. (2007)
PC違反が従業員の態度・パフォーマンスに与える影響をメタ分析Rousseau & McLean Parks (1993)
PCの形成・維持・変化のメカニズムを理論的に整理
今日の論文
In Pursuit of Impact: How Psychological Contract Research Can Make the Work-World a Better Place
インパクトを求めて:心理的契約研究が職場環境をより良くする方法
Group & Organization Management, 2024, Vol. 49(6), pp. 1425–1453
Johannes M. Kraak, Samantha D. Hansen, Yannick Griep, Sudeshna Bhattacharya, Neva Bojovic, Marjo-Riitta Diehl, Kayla Evans, Jesse Fenneman, Iqra Ishaque Memon, Marion Fortin, Annica Lau, Hugh Lee, Junghyun Lee, Xander Lub, Ines Meyer, Marc Ohana, Pascale Peters, Denise M. Rousseau, René Schalk, Rosalind H. Searle, Ultan Sherman, Amanuel Tekleab
サマリ
本論文は、2023年の「Bi-Annual Psychological Contract (PC) Small Group Conference」において、心理的契約(PC)と持続可能性に関する専門家が集まり、実践との整合性を高めるためのガイダンスを策定した結果をまとめたもの
PC研究の影響は、学術論文の発表にとどまらず、実務家、政策立案者、学生など多様なステークホルダーにも及ぶ
本論文では、PC研究の影響力を高めるために、以下の3つの側面から提案を行う
(1) 研究、(2) 実務と社会、(3) 学生また、PCを「倫理的ケア(ethics of care)」の視点と統合し、持続可能なPCの概念を発展させることも目的としている
方法
世界中のPC研究者が集まり、影響力を高める方法を議論するワークショップを実施
さらに、PC研究が実務や社会にどのように貢献できるかを分析
わかったこと:実践との整合性を高めるための3つの柱
研究(Research)
持続可能な心理的契約(Sustainable PC)の概念を提唱し、長期的な雇用関係の維持を重視
PC研究の影響力を高めるために、地域的・文化的なコンテクストを考慮する重要性を強調
PCの「倫理的ケア(ethics of care)」の視点を導入し、従業員の福祉と組織の責任を統合
実務と社会(Practice & Society)
PC研究を企業や政策立案者に還元するため、産学連携や政策提言を強化
企業と大学の共同研究やワークショップを通じて、実践的なPC管理手法を開発
PCの知見を用いた組織の人材マネジメント戦略の改善を推奨
学生(Students)
PCの概念を教育に取り入れ、学生に雇用関係の理解を深めさせる
事例研究、ロールプレイ、シミュレーションを活用し、PCの実践的な学習機会を提供
学生と教授間のPCを意識し、教育プロセス自体をPCの概念に基づいて設計
論文から得た学び
持続可能な雇用関係を実現するためには、「倫理的ケア(ethics of care)」を取り入れることが重要であることが主張されていました。また、企業が従業員に対して思いやりを持ち、責任ある行動を取ることで、PCの維持・修復が促進されることも主張されています。また、研究者は地域的・文化的背景を考慮し、異なる環境でのPCの影響を分析する必要があることが示唆されています。