見出し画像

フィードバック・リテラシーのレビュー論文:論文レビュー

こんにちは、原田です。
今回は、フィードバック・リテラシーに関するレビュー論文です。

フィードバック・リテラシー:
学生および教師がフィードバックプロセスから得られる利益を最大化するための「理解力、能力、および態度」を指します。この概念は、個人のスキルとして心理的に測定可能なものとされる一方で、社会文化的文脈において構築される複雑な現象としても議論されています。

  • スキルベースの定義:
    フィードバック・リテラシーを、学習者がフィードバックを受け取り、評価し、自己調整を行うための能力とする(Carless & Boud, 2018)

  • 社会文化的定義:
    フィードバック・リテラシーを、学生や教師が特定の学問的文化や社会的文脈の中で相互作用的に形成されるリテラシーとして理解する(Gravett, 2022)


今日の論文

Feedback literacy: A critical review of an emerging concept
フィードバック・リテラシー:新興概念の批判的レビュー
Higher Education, 2023
Juuso Henrik Nieminen ・ David Carless

サマリ

  • フィードバック実践のシステム的課題は広く議論されており、高等教育の大規模化が教師と学生の継続的な相互作用を阻害している

  • フィードバック・リテラシーという概念は、学生と教師がフィードバックの利点を最大限に活用する能力を表し、この課題への新たな解決策を提供するものとして注目されている

  • 本研究は、フィードバック・リテラシーに関する最初の49件の論文を批判的にレビューし、個人のスキル開発の観点からこのプロセスがどのように再構築されているかを探求

  • この概念は、個人の心理的構造としてフィードバックを捉える一方で、政策レベルの課題を軽視する可能性があると指摘

方法

  • 本研究では、批判的レビューとして、フィードバック・リテラシー研究の基盤となる前提や仮定、またその潜在的影響を分析

  • データはScopusを使用して収集され、49件の関連論文が対象となった

  • それぞれの論文は、学問的リテラシーのフレームワークや「構築」の概念を用いて分析された

わかったこと:

  • 心理的スキルとしてのフィードバック・リテラシー

    • 49本中39本の研究は、フィードバック・リテラシーを個人の内部的能力として定義

    • 学生や教師のフィードバック・リテラシーを測定・追跡可能なスキルとして扱う傾向がある

    • 教育心理学や心理測定の手法が用いられ、「欠如モデル」としてスキル不足を補う必要性を強調

    • デジタルツールやデザインプロセスを活用して、教師と学生がリテラシーを向上させるための手法を提案

  • 社会文化的視点からのフィードバック・リテラシー

    • 20本の研究は、フィードバック・リテラシーを社会的・文化的文脈の中で形成されるものと捉えた

    • 個人ではなく、コミュニティや相互作用に焦点を当てる

    • 「エコロジカルモデル」や「社会的文脈におけるリテラシー」という新しい概念が提案される

    • 学問分野、コース、文化的背景によって異なる形でリテラシーが現れると強調

  • フィードバック・リテラシーの測定と評価

    • 2本の研究が、信頼性の高い定量的スケール(例: Song, 2022; Zhan, 2021)を開発

    • 信頼感や自己効力感、フィードバックへの積極的な姿勢を測定項目に含む

    • これらのスケールは、教育心理学に基づいた測定を可能にし、フィードバック・リテラシーを心理的構造として捉える方向性を強化

  • 批判的・変革的な視点の欠如

    • フィードバック・リテラシー研究の多くは、個人に焦点を当てることで、制度的な課題や不平等に対処しきれていないと指摘

    • 特に、教育政策や広範な社会的文脈の影響を考慮する研究が少ない

  • 学生および教師の役割の新しい捉え方

    • フィードバック・リテラシーは、教師と学生の共同作業やパートナーシップを促進する潜在力を持つ

    • 理想的な「フィードバック・リテラシーを備えた個人」は、自己規律的で主体的な学習者として描かれることが多い

論文から得た学びと活用場面

フィードバック・リテラシーは、高等教育におけるフィードバックプロセスを再構築するための強力な概念です。ただし、この概念を非批判的に使用すると、教育の構造的課題を個人の責任に帰すリスクがあります。研究者は、フィードバック・リテラシーをスキルや社会化の枠組みだけでなく、批判的かつ変革的な視点から探求する必要があります。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集