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分散型リーダーシップと従業員の主体性:論文レビュー

こんにちは、原田です。
今回は、分散型リーダーシップと従業員の主体性に関する論文です。

分散型リーダーシップ (Distributed Leadership, DL) とは:
組織内でリーダーシップタスクを複数のメンバーが共有し、リーダーとフォロワーが固定的な役割に縛られず、協力し合ってリーダーシップ機能を発揮する仕組み。Gronn (2000, 2002) の研究によると、DLは組織の資源利用、意思決定、目標設定を共同で行うプロセスとして定義されています。

今日の論文

Distributed Leadership in Health Care: The Role of Formal Leadership Styles and Organizational Efficacy
医療における分散型リーダーシップ: 公式なリーダーシップスタイルと組織効力の役割
Leadership, 2018年
Franziska Günzel-Jensen, Ajay K Jain, Anne Mette Kjeldsen

サマリ

  • 分散型リーダーシップ (Distributed Leadership, DL) における従業員の主体性 (agency) に対する、公式リーダーシップスタイル(変革型、取引型、エンパワーメント型)の影響を調査

  • また、この関係が組織効力の認識によって媒介されるかを分析する。北欧の大規模公立病院を対象とした調査(N=1,147)に基づき、公式リーダーシップスタイルは全て従業員のDL主体性にプラスの影響を及ぼすことが示された

  • 一方で、組織効力はDL主体性と負の関連を示し、媒介効果は確認されなかった

方法

  • 本研究は、北欧の大規模公立病院において1,147名の従業員を対象に行われた大規模アンケート調査に基づく

  • 変革型、取引型、エンパワーメント型リーダーシップは、従来のスケールを用いて測定され、DLの主体性は新たに開発された尺度を用いた

  • 組織効力は、協力、使命感、回復力の3次元で評価された

分散型リーダーシップ (Distributed Leadership, DL) と シェアド・リーダーシップ (Shared Leadership) の違い

itzsimons et al. (2011) の定義を引用し、以下の4つの主要な違いが挙げられている。分散型リーダーシップは組織全体を対象とし、文脈と相互作用に重点を置く一方で、シェアド・リーダーシップは特にチームレベルでの水平的なリーダーシップに重点を置いている。

  1. リーダーシップの出発点

    • シェアド・リーダーシップ: 指定されたリーダーと他のグループメンバーがリーダーシップの役割を共有することから始まる

    • 分散型リーダーシップ: 組織内の複数の個人によって自然に実行される

  2. リーダーシップの形態

    • シェアド・リーダーシップ: 個々のメンバーが自らをリードし、他者にリードされることを許容する

    • 分散型リーダーシップ: リーダーとフォロワーの相互作用、および組織的文脈によって形成される

  3. 認知の範囲

    • シェアド・リーダーシップ: 認知はグループ内のメンバー間で共有される

    • 分散型リーダーシップ: 認知は「人間の行動者と彼らが置かれている文脈の両方にまたがる」とされる

  4. 適用範囲

    • シェアド・リーダーシップ: チームやグループレベルで、集団的な影響を通じて発揮される

    • 分散型リーダーシップ: 組織のあらゆるレベルで、協調的行動や共同エージェンシーを通じて実践される​

参考文献:

  • Gronn, P. (2000). "Distributed properties: A new architecture of leadership." Educational Management and Administration, 28(3), 317–338.

  • Spillane, J. P., Halverson, R., & Diamond, J. B. (2004). "Towards a theory of leadership practice: A distributed perspective." Journal of Curriculum Studies, 36(1), 3–34.

  • Pearce, C. L., & Sims, H. P. (2002). "Vertical versus shared leadership as predictors of the effectiveness of change management teams." Group Dynamics: Theory, Research, and Practice, 6(2), 172–197.

わかったこと:

  • リーダーシップスタイル: 変革型、取引型、エンパワーメント型

  • 分散型リーダーシップ(DL)における従業員の主体性

  • 組織効力(Organizational Efficacy): 協力、使命感、回復力

  • 変革型リーダーシップ

    • 分散型リーダーシップへの主体性に対し、強い正の影響を与えることが確認された

    • 組織効力(特に「使命感」と「回復力」の次元)を媒介する効果は見られなかった

  • 取引型リーダーシップ

    • 分散型リーダーシップへの主体性に対し、弱い正の影響を与える

    • 他のスタイルと比較して影響は限定的だが、一定の関連性が示された

  • エンパワーメント型リーダーシップ

    • 最も強い正の影響を示し、分散型リーダーシップにおける従業員の主体性を促進することが確認された

    • 従業員に自主性を与え、自己効力感を向上させることが大きな要因として作用

  • 組織効力の役割

    • 「協力」の次元は、分散型リーダーシップの主体性に対して負の影響を示した

    • 一方、「使命感」や「回復力」の次元は、主体性に有意な影響を与えなかった

  • リーダーシップスタイルの比較(仮説H4a、H4bの検証)

    • エンパワーメント型リーダーシップ > 変革型リーダーシップ > 取引型リーダーシップの順で、分散型リーダーシップへの影響が強いことが確認された

論文から得た学び

  • エンパワーメント型リーダーシップは、分散型リーダーシップの促進において最も効果的である

  • 組織効力の影響は予想に反して限定的で、特に「協力」の次元が負の関連を持つ点が注目される

  • 分散型リーダーシップを実現するには、状況に応じたリーダーシップスタイルの選択が重要である

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