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チームワークの科学の40年の進展:論文レビュー
こんにちは、原田です。
今回は、チームワークの科学の40年の進展をまとめた論文です。
こちらで取り上げた内容はほんの一部です。気になる方はぜひ原文をご確認いただくことをおすすめします…!(面白かった…!)
今日の論文
The Science (and Practice) of Teamwork: A Commentary on Forty Years of Progress
チームワークの科学(と実践):40年の進展に関するコメント
Small Group Research, 2024年
Eduardo Salas, Rylee Linhardt, Gabriela Fernández Castillo
サマリ
40年前、Dyerはチーム科学の研究を総括し、多くの領域で理論的裏付けや経験的証拠が不足していると指摘
この論文では、その後の40年間の進展を振り返り、チームトレーニング研究の大幅な改善や、未だに不足している縦断的研究の必要性を論じている
方法
過去のメタ分析やレビュー研究に基づいて、チームワークの理論、測定、影響、および実践の進展を批判的に分析し、現在の知見を整理
わかったこと①:チーム理論の進展
理論的基盤の強化: 40年前には、チーム行動に関する包括的な理論が不足していたが、現在では多くの理論が発展し、チーム行動を説明するための枠組みが大幅に強化された
I-P-Oモデルの拡張: 1960年代に提唱された「Input-Process-Output (I-P-O) モデル」が基礎となり、チームワークは単なる個々の作業の集積ではなく、コンテキストや行動、結果に影響される複雑なプロセスであるという理解が広まった。これが後に「Input-Mediator-Output-Input (IMOI) モデル」に発展した
チームワークの動的理解: Marksら(2001年)の研究により、チームは時間の経過とともに複数の目標を同時に追求し、プロセスが変化することが明らかにされた。これにより、チームワークは静的なものではなく、動的であるという理解が進んだ
多次元的アプローチの確立: チーム行動やパフォーマンスを説明する理論は、かつては単一の要因に焦点を当てていたが、現在では、チームの行動、環境、個人の特性が複雑に絡み合う多次元的なアプローチが主流となった
心理的安全性の導入: チーム内での心理的安全性が、チームメンバー間の自由なコミュニケーションや学習を促進し、チームの効果的なパフォーマンスを引き出す重要な要因として位置づけられた
現代の複雑なチーム理論: Mathieuら(2017年)は、単純なI-P-Oモデルから進化し、チームのメンバーの中央性、意思決定、信頼、バーチャルチームなど、チームプロセスに影響を与える多くの概念が組み込まれた複雑なチーム理論が登場していることを示した
実践的応用可能な理論: 理論は、単に学術的な枠組みに留まらず、現実のチーム運営やトレーニングに応用可能なものとなっており、チーム効果を向上させるための実践的なガイドラインとして活用されている
理論の継続的な進化: チーム理論は多層的かつ時間的な観点からますます複雑化しており、環境の変化や時間の経過とともにどのようにチームが機能するかをより深く理解するための研究が進んでいる
わかったこと②:チームトレーニングの改善
チームトレーニング理論の発展: チームトレーニングは、チーム内の知識、スキル、態度(Knowledge, Skills, and Attitudes, KSAs)を向上させるための理論的枠組みを基盤としており、特に共有メンタルモデルやグループ学習理論に基づいて発展した。これにより、チームメンバーが協力して効果的に作業できるようにするトレーニング設計が重視されるようになった
メタ分析による効果の確認: 多くのメタ分析研究(例: Salasら, 2008)により、チームトレーニングはチームのパフォーマンスを大幅に向上させることが確認されており、その効果はさまざまなフィールドで実証されている
クロストレーニングの導入: チームメンバーが他のメンバーのタスクを理解し、相互に補完するクロストレーニングの効果が確認されており、これによりチームの共有メンタルモデルが強化され、協力作業が円滑に進むことが示されている(Marksら, 2002)
シミュレーションベースのトレーニング(SBT)の発展: 軍事や航空、医療分野でのシミュレーションベースのトレーニングが広まり、実際の環境に近い条件での実践的なトレーニングが効果的であることが確認された。これにより、実践に近い経験を積むことで、チームの反応や適応力が向上することがわかった
フィードバックとデブリーフィングの重要性: チームトレーニングの効果を最大化するために、トレーニング後のフィードバックやデブリーフィング(振り返り)が非常に重要とされている。具体的には、チームがトレーニングから学んだことを振り返ることで、将来のパフォーマンスが向上することが明らかになっている(Tannenbaum & Cerasoli, 2013)
心理的安全性の役割: チームトレーニングが効果を発揮するためには、チームメンバーが心理的に安全だと感じられる環境が不可欠であることが明らかになった(Edmondson, 1999)。心理的安全性が確保されたチームでは、トレーニング中にメンバーが自由に意見を述べ、互いにフィードバックを与えることが促進され、学習効果が向上する
アダプティブトレーニングの効果: 適応的なチームトレーニング(adaptive team training)は、チームが変化する状況や課題に対応できる能力を高めるためのトレーニング手法として評価されており、特に調整力や適応力の向上に有効であることがわかっている(Salasら, 2007)
産業全体での導入と普及: 軍事や航空、医療、宇宙探索などの分野で、チームトレーニングが広く採用されており、それぞれの分野での失敗を防ぐための有効な手段として認識されている。これにより、チームトレーニングが特定の分野に限定されず、さまざまな組織や業界で導入が進んでいる(Bisbeyら, 2019)
個別化されたトレーニングの強調: チームトレーニングの効果を最大化するために、個々のチームや組織のニーズに合わせた「トレーニングのニーズ分析」が重要視されており、トレーニングの前にチームの目標やコンディションを評価し、それに基づいて最適なトレーニングが設計されるようになっている(Lacerenzaら, 2018)
論文から得た学びと感想
チームワークは静的ではなく、時間と共に変化する多面的なプロセスであることが確認され、チームワークの動的理解が進んでいるそうです。
個人的には、これから先チームの境界線がより曖昧に可変的になると考えているので、メンバーの流動性が高いチームについてもっと知りたいです…!