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不妊治療に専念するために、休職/退職したほうがいいですか?

皆様、お久しぶりです。はらメディカルクリニック院長の宮崎です。

「不妊治療に専念するために、休職/退職したほうがいいですか?」という質問を時々いただきます。
これはとても難しい問題ですね。しかし、仕事か治療かという究極の選択が頭を悩ますこと自体とても苦しい状況がうかがえます。
実際のところ、文献的には今までどのような報告がなされているのか、調べてみました。

ここでは主な4つの論文を紹介します。

1.不妊治療を受ける女性は高いレベルの不安と抑うつを経験し、それが生活の質に悪影響を及ぼします。特に仕事と治療の両立が難しい場合、ストレスがさらに増加する可能性があります。「Anxiety, Depression, and Quality of Life Among Infertile Women: A Case-Control Study」

2.心理的支援が不妊治療の成功率に寄与することが示されています。仕事のストレスを軽減するために休職することは、治療の成功にプラスの影響を与える可能性があります。「Effectiveness of mindful self-compassion therapy on psychopathology symptoms, psychological distress and life expectancy in infertile women treated with in vitro fertilization」

3.仕事や日常生活のストレスが治療の中断の原因となることが示されています。休職することで治療に専念でき、中断のリスクを減らすことができます。「Infertility-related stress, quality of life, and reasons for fertility treatment discontinuation among US women: A secondary analysis of a cross-sectional study」

4.強固なサポートネットワークと適切な対処戦略が、治療中のストレス管理に重要であることが示されています。休職してサポートを受けやすい環境を整えることが有益です。「A pathway study of factors influencing quality of fertility life」

これらを総合して考えると、文献的には仕事が主なストレス要因である場合、休職が有効、ということになるようです。仕事で多大なるストレスを感じている場合、それ自体が不妊治療の成功率に影響を与える可能性がありますし、治療の中断の原因ともなりえます。
一方で休職や退職による収入減少は免れず、新たなストレスを生む可能性も十分に考えられますので、一概に休職や退職が良いという回答にもならないと私は思います。また、仕事自体はご本人が積み重ねてきた重要なアイデンティティの一つであるため、不妊治療を理由に失って欲しくないという思いも個人的にはあります。
もちろん両立自体が苦しく、自分らしさが保てなくなっている場合は休職や退職を選択せざるを得ないケースはあると思います。しかしまずは、悪いことをしている訳ではないので、職場の理解を得て、どうしたら両立できるかどうか、時短やリモート対応など相談する勇気を持ってほしいと思います。
そして大変な治療と仕事を両立しようと考える自分を責めることなく、自分の頑張りに自信を持ってください。医療者としては不妊治療の大変さや、仕事との両立が社会のためにもなることを発信し、働き方の多様性に寛容な社会になるようお手伝いをしていきたいと考えています。
 
また最近では『不妊治療連絡カード』というものもあります(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30b.pdf)。このようなものも活用しつつ、周りの協力を得ることに罪悪感を持つことなく、仕事と両立しながら治療を継続して欲しいと思います。
すべての治療中の方の頑張りに敬意を表します。

#不妊治療 #体外受精 #はらメディカルクリニック #ストレス #仕事

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