本好きのための読書感想文攻略法

 今日、塾の授業の合間に、自習に来ていた中3から、次のような質問を受けました。

「読書感想文って、どうやって書いたらいいんですか? 本を読むのは好きだけど、読んで、あー面白かった、ってなって、感想文を書くほどの感想、ないんですけど

 わ、わかる~~~~~~~~~~~!!!!!! 君は中学生のころの僕か!!!!!!!!!!!!!



 というわけで、“そういうタイプの”中高生に向けて、読書感想文の書き方についてまとめてみました。空きコマに40分ぐらいでダーッと書いたものなんで、いろいろ荒いですが、ひとまずここに公開しておきます。

1.読書感想文とは

 はじめに、よくある誤解を解いておこう。
 読書感想文とは、「読んだ本について」書く作文ではない。
 そうではなくて、「本を読んだ感想」について書く作文である。
 これは、さらにいえば、「他でもないその本を読んで、他の誰かとは違う感想を抱いた自分とはどういう人間か」について書く作文だということだ。
 読書感想文を書くとき、本の内容はもちろんのこと、自分の内面にも意識を向ける必要がある。
 読書感想文は「自分について」の作文だ。だから、本のあらすじをだらだらと書くのはよくない。本の内容に関する話は多くて全体の2/3まで、できれば半分程度に留めたい。
 ただ、書きはじめるまえに、内容をしっかりと読み込む必要がある。では、内容を読み込むとは、何をしたらよいのか。

2.ステップ①「読む」

 小説について、早稲田大学の教授で国文学者の石原千秋さんは、次のように書いている。

 小説は、たとえていえば粘土のようなものである。作者から僕たち読者に手渡されるのは、まだ形のない粘土なのである。この時、粘土は無限の可能性を秘めていて、どんな形にでも変えることができる。この可能性を秘めた粘土が小説だ。ところが年度はひとたび子供(読者)の手に渡ると、魚になったりライオンになったりする。子供は粘土を「変形」させて、好みの作品を作る。この作品が僕の言う物語に相当する。
 「小説にはいくつもの物語がびっしり詰まっていて、読者がそこから好みの物語を引き出すのが、読書というものだ」というイメージでもいいかもしれない。つまり、読書とは、さまざまな可能性を孕(はら)んだ小説からたった一つの物語を選ぶような創造行為なのである。
(石原千秋『小説入門のための高校入試国語』2002年、日本放送出版協会)

 同じ小説を読んでも、その小説がどんな物語だったのかについて、人によって説明が異なってしまうことがある。これが「読書」という行為であり、同じ小説からどんな物語を読み取るのかが、他ならない「自分」の個性である。
 では、「自分なりの物語」を見つけるためには、何をしたらいいのか。石原さんはこう言う。

 自分なりの小説の読み方を把握するために、小説から取り出した物語を一文に要約する練習をしておくといい。これは、フランスの批評家ロラン・バルトの「物語は一つの文である」という立場にならって、僕が大学の授業でも実践している方法である。これを繰り返すと、学生たちはめきめき力を付ける。君たちも、数回もやればコツがつかめるだろう。
 基本型は二つある。一つは「~が~をする物語」という型。これは主人公の行動をまとめたもので、太宰治『走れメロス』を例にするなら、「メロスが約束を守る物語」とでもなる。もっと高級には、「人と人とが信頼を回復する物語」でもいい。もう一つは「~が、~になる物語」という型。これは主人公の変化をまとめたもので、「メロスが花婿になる物語」とか「メロスが一家の主人として自立する物語」といったものになる。これらを物語文と呼んでおこう。
(『小説入門のための高校入試国語』)

 どうだろうか。メロスは花婿にはなっていないと思うけれど、それはともかく、小説を読んで読書感想文を書く場合、この「物語文」を作ることが第一歩となる。
 物語文を作るときのコツのひとつは、「主人公の変化に着目する」ということだ。小説の冒頭部分からクライマックスを経て最後のページになったとき、主人公は、何を成し遂げただろうか。あるいは、どんな人間からどんな人間に変化しただろうか。それをひとことで表現する言葉を見つけたとき、物語文はほとんど完成したと言ってよい。
 けれど、物語文を作って終わりにしてしまってはいけない。次は、細部を読んでいく必要がある。

 物語文を作ることは、別の言い方をすれば小説の「全体」の流れを読むということだ。しかし、小説は物語だけでできているわけではない。それに肉付けをする、さまざまな細部を持っている。
 またまた石原千秋さんの言葉を引用すれば、「小説テクストでは、ほんの細部にこそ(…)テクストの可能性が秘められている」(石原千秋『テクストはまちがわない』2004年、筑摩書房)のである。
 そこで、読書感想文を書くまえに、二ヶ所の「細部」を見つけ出してみてほしい。その二ヶ所とは、「物語にとって重要な意味を持つ箇所」と、「自分にとって大きな意味を持つ(別の言い方をすれば、心に刺さった)箇所」のことだ。両者が一致していても構わない。
 再確認になるが、読書感想文は「自分について」の作文だから、どちらかというと、後者を軸に作文を書いていくことになる。

3.ステップ②「自分について考える」

 ここからが読書感想文の重要なところだ。
 ステップ①で、自分なりの物語と、自分にとって重要な細部を見つけ出すことはできた。
 では、自分はなぜその小説を、他のどんな物語ではなくその物語として読んだのだろう。自分が気になった細部は、自分にとってなぜ・どのように重要な意味を持つのだろう。このことを、時間をかけて考えてほしい。しつこく確認するが、この二点こそが、読書感想文のメインの内容になるのである。
 ためしに、第64回青少年全国読書感想文コンクールの優秀作品の一部を読んでみよう。

 悠太と同じ吃音症のぼくは、読み進めるうちにどんどん悠太になっていき、共に学校生活を送っていた。「僕は上手にしゃべれない」というストレートすぎる題名と同じくらい、ここまでリアルに吃音を表現し、吃音者の持つ生きにくさを描いている本は初めてだった。
 言葉が出ない苦しさ、もどかしさ。人前で吃音をさらした後の辛い時間。常に言い替えの言葉を探していること……。悠太の悩みは手に取るようによく分かる。心の痛みまでも。
(「僕も上手にしゃべれない」 茨城県常総市立水海道小学校 6年 野村洋介)
 私はクリスチャンだ。だから、物語を読み進める上で、エルナンドに恋をしたマリアの気持ちが、家族の中で孤独も感じたはずのエルナンドの母の気持ちが、胸につき刺さってきた。私が自分の事をクリスチャンであるとここに書く事で、これを読む人は私に何を思うのだろうと考えると怖い。胸を張って言えない現実は末だに、確かにある。平和な日本に、そして現代に生きる私なのに。
(「目指す先にある世界」 福島大学附属中学校 1年 橋本花帆)
 かつての戦争の悲惨さを知りながら、私は、当然のように「日常」に流されている。いつもの夏と同じようにテレビを眺めている。私は、戸田と同じなのだろうか。戸田と同じように他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。
 それが罪なのかどうか私にはわからない。まして、誰が、私に罰を与えるというのだろう。それでもなお、海のように私を飲み込み、当たり前のように過ぎる「日常」が恐ろしいものに見えてくる。
(「日常の罪について」 山梨県立都留高等学校 2年 木下夢実)

 読んだ本の内容と関連させつつ、うまく「自分」について表現できているのがわかるはずだ。

4.ステップ③「作文の構成を考える」

 書く内容が決まったからといって、ノープランで作文を書きはじめるのは愚の骨頂。まずは、どこに何を書くのかという作文の「設計図」を作る必要がある。
 大まかに書けば、読書感想文の構成は、次のようにすればよい。

(1) 書き出し(導入)
(2) 物語文の紹介(多少、あらすじをつけ足してわかりやすくしてもよい)
(3) 自分にとって重要な細部を紹介しながら、感想を述べる
(4) その部分が自分にとって重要だった理由を述べる
(5) まとめ

 (2)~(4)についてはすでにステップ①と②で説明したから、ここでは(1)と(5)について書いておく。
 まずは(1)の書き出しについて。読書感想文はコンクールに送るための作文だから、多少は読者を「おっ」と思わせる書き出しを意識した方がいいだろう。よく用いられる効果的な方法はいくつかある。

・自分の一番の感想から書く
例:主人公が出会ったのがこんなにあたたかい人たちでよかった、と思った。
・作中で印象的な台詞から書く
例:「そりゃいいや。ずっとやってりゃ、なかまがふえて、全員びりになるぜ。」(岡田淳『びりっかすの神様』)
・その本を読んだきっかけから書く
例:図書館で偶然手に取った本。しかし、それはとても素敵な一冊だった。
・内容についての「問い」から始める
例:王ディオニスはなぜ、途中で妨害などしておきながら、メロスの姿を見て改心したのだろう。

 いずれも、自分の感想とつながるように書くこと。冒頭だけが浮いてしまってはいけない。

 (5)のまとめについて。これは、本を読むまえと読んだあとでの「自分の変化」について書くパターンが王道だ。理由はいくつかあるが、いちばんの理由は「学校の先生やコンクールの審査員にウケる」ということ。わざと大人におもねった作文を書くのは苦痛に感じるかもしれないけれど、ものは「学校の宿題」である。もちろん、何かしらの変化を自分の中に見つけることができればそれに越したことはないが、そうでない場合、「それらしく整える」ことも重要かもしれない。大人たちには、心の中で舌を出しておけばよい。

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