Vol.289 バルト三国視察報告 その1(2014/10/2)
2014年9月20日から28日まで、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)とベラルーシを訪問した。大前研一氏が主催する企業経営者等の合同勉強会である。
関空から空路フランクフルトへ、そしてエストニアの首都、タリンへと向かった。タリンから最終訪問国のベラルーシの首都ミンスクまでは、1200キロの長距離バス移動となった。当初はバルト三国と言われても、どこにあるのか、またそれぞれの国名すら定かでない状態だったが、現地の視察と研修から多くの事を学んだ。順次紹介していく。
今回の初めの学びと感動は、エストニアの電子政府と国民の気概である。
政府のCIO・コッカ氏によると、エストニアでは2000年から電子政府を導入したそうである。国民の一人一人のIDを、スマートフォンのSIMカードの中に入れ、それで本人証明やサインが出来るようにした。電子投票システムは地方選挙では2005年から、国会の選挙でも2007年から導入し、海外にいるエストニア人もこのシステムを使い投票できる。閣議も国民が全て覗ける。
また電子教育も進んでいて、クラウドに生徒の成績や出欠などの情報を上げて保護者、本人、先生も、みんなが見られる。
つまり、情報をそれぞれの管轄機関がバラバラに管理するのではなく、一つに統括しているのだ。日本のように、市町村や多くの機関、組織でのバラバラ管理ではないのである。国の代表はITの専門家であり、多くの壁を乗り越えて、世界初の統一を成し遂げた。
私は中学校教育の世界に長年いたが、生徒の正確な情報を把握し、個別の対応と教育オーダーメイドで展開したいと思っていた。小学校から上がってくる情報だけでは足りないのである。また、生徒が転校する際にも提供できる情報が少なく、転校先での教育にタイムラグが生じる。
そのような経験から、情報を一括管理し、生涯に渡り有益な情報を個人から許可された人が共有し、理想の個別教育を展開したいと長年、考えている。個人情報保護、また情報漏えいの危惧等はあるが、今のようなバラバラ管理のままでは、個別教育の最適化は進まない。これについては私も挑戦していきたいと思っている。
エストニアの人口は130万人であり、御存知の通り、近隣のロシアより何度も侵攻や迫害を受け、今もその危機を身近に感じると話しておられた。
今の我々、日本人にはピンとこない危機感である。
世界中の重要な人々や希望者に、エストニアの特点・利点を使えるカードを配り、望めば国民に認定する。そしてその数を1000万人に増やし、他国が侵害にくい、攻撃できないような状況を作り国を守る、と語っておられた。プレゼンの最中に、ご家族の写真を提示し、家族と国を守り抜くために、この1000万人計画を完遂する。と目に涙を浮かべて語られた。
多くの参加者は、彼の愛国心と家族への愛情に心を熱くした。平素は平和に浸りきっている私たちだが、目の覚める思いであった。危機感がないと、改革はなし遂げられないのだろうか。危機感を喚起して改革を進めて行けばいいのだろうか。危機感無しの今の状態で、エストニアの様な途方もないシステムや国づくりをするためには、どうすればいいのだろうか。それらに思いを馳せて、視察旅行は始まった。
(次回に続く)
(感謝・原田隆史)2014年10月2日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。