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Vol.102 スポーツ活動で自立した人を育てる2 (2010/11/25)

Vol.101に引き続き、今回もスポーツ活動を通して自立した人を育てることについてお話を進めていきます。

前回は午前中に行ったバスケットボール実技授業についてお話しました。
今回は午後の部で行った「ペースランニング」の授業についてお話します。
ペースランニングは、平たく言えば長距離走です。一般的に、長距離走授業の目的は、「長い距離を早く走ること」にあります。
皆さんの長距離走授業の思い出はいかがですか。「しんどかった」「きつかった」「いやだった」「苦手だった」という方も多くおられるのではないでしょうか。

前回の話と重複しますが、限られた授業数の中で、全ての生徒に「長い距離を早く走る」という目的を達成させることはなかなか難しい事です。
今回、私は、長距離走の目的を別の所に置くことにしました。それは「出来るだけ長い距離を、自分で決めたペースを守り走ること」です。これが「ペースランニング」です。
マラソンの試合などを見ていても、5キロごとのラップタイムが表示されます。つまり、最後まで自分に合った、自分で計画したペースで走ることが重要なのです。この「同じラップを刻む」というコンセプトを、学校のグランド1周150メートルのトラックで実践していきます。

私の体育授業の目的は『わかる、できる、教え合う』の喜びを、全ての生徒に感じさせ、成功体験を積ませることにあります。その主体的な成功体験を通して自立型人間を育成すること。これが唯一無二の、私の体育授業の一貫した目的です。

このことをペースランニング授業にあてはめると、以下のようになります。

1.ペアワークで、協力しながら、自分に合ったペースを見つける。
2.ペアワークでお互いのラップタイムを計測し、ペースを守りながらできるだけ長い距離を走ることができるように助け合う。
3.ランニングの科学的な作用(有酸素運動、脈拍と運動の関係など)を知り、自分の体と対話しながら走る。
4.自分で決めたラップタイムを守り、「らく~ややきつい」脈拍を保ちながら、10周完走を目指す。

今回の私のペースランニングの授業では、ただ走るのが早くて、体力のある生徒だけがいい評価を得るということはありません。たとえ150メートル走るのに60秒かかったとしても、自分にとって「らく~ややきつい」という自分のペースでラップタイムを守りながら、10周走りきる生徒が輝くのです。つまりそれは「わかる、できる、教え合う」を実践した生徒、ということになります。
たとえば、ある生徒が1周を45秒で走ると決めます。1周目、44秒で走りました。OKです。ところが2周目、40秒で走りました。この瞬間、アウトです。
自分で決めた45秒からプラスマイナス3秒までを合格ラインとしています。だから45秒と決めたのに40秒で走ってしまったからアウトなのです。
ペースが乱れないように、ペアが声をかけ、本人は自分の体と対話しながら走り、ペースを守ってどこまで距離を延ばすことができるか。これが今回の私の授業の醍醐味です。長距離の本質的な楽しさは「自分のペースを知り、走り続ける楽しさ」。この楽しさを感じることができるということです。

その生徒にとって「らく~ややきつい」運動になっているかどうかは、脈拍を見ればわかります。走り終わった後の脈拍が180や200になっているようでは、これはかなり無理をして走っていたと言うことになります。
また、80や90の脈拍であれば、これは随分と楽な状態で走っていたと言うことです。この脈拍は、だいたいの感覚ではなく、科学的に検証されたデータをもとに計算式を用いて算出します。

数周走る、脈を測る。タイムを考えてまた走る。脈を測る。次はもう少し走ってみる。ペアで相談する。
こうやって最初は、実験と検証を繰り返します。そうやって、全員が自分にもっとも合っているタイムを見つけるのです。誰かとの競争ではありません。まさに「自分との対話」です。

ペースランニングの授業では、実際にさまざまなドラマが生まれました。
運動が苦手で走るのが遅いある男子生徒は、長距離が嫌いでした。ところが、私のペースランニングの授業を受けて考え方が変わったのです。彼は、嬉々として体育の授業に参加し、自分で決めたタイムを守ってだんだん走る距離を伸ばしていきました。
授業の最後は、10周トライアルです。走るのが苦手だったその生徒が、同じペースを守りながらついに10周走りきった時は、クラスのみんなが一緒に喜び、彼は達成感から大粒の涙を流しました。走っている時の仲間の応援も素晴らしいものでした。
その彼は、卒業するときの作文に次のように書いてくれました。
「ぼくが、3年間で一番印象に残っているのは、1年生のときに体育でならったペースランニングの授業です。あの授業で、ぼくの人生は変わりました。すごい達成感と、やればできるという自信を得ることができました。とても感謝しています。」

いまは、空前のランニングブームです。ランニング初心者の皆さんは、このペースランニングの考え方にならい、まずは、自分にとっての「最適なペース」を見つけることをおすすめします。マラソン選手のように、スタスタと足取り軽く走れるようになれば確かに格好良いですが、最初からそんなふうにはなれません。
そこに自分の理想のイメージを置きながら、今の自分と素直に対話し、体と会話する楽しさを知ってもらいたいと思います。

長距離走やマラソンは、長く苦しいものではありません。
自分で決めた速さで、自分で決めたところを目指して走る、自立的で本当に楽しいスポーツです。
それは、人生やビジネスでの自立の過程に似ています。昨今のブームもこのあたりに理由があると思います。スポーツで人生が変わる。スポーツを通して、人生の自立体験が出来る。素晴らしいことですね。
弊社はこれからも、スポーツ活動を支援し、人の自立の普及に努めてまいります。一緒に体を動かし、健康も手に入れましょう。

なお、水泳や柔道、バレーボールの授業についても、是非公開授業をしてほしいというリクエストをいただいています。
時間とタイミングが合えば、将来必ず開催したいと考えています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
                               
(感謝・原田 隆史)2010年11月25日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。

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