【皮膚病】アポキル≠かゆみ止め?先輩獣医に注意された話
痒みを繰り返す犬
痒みのひどい犬が来院しました。
顔周りと、背側から腹側にかけて数か所脱毛、発疹がややあり掻いているという主訴です。
かぶれは無く発疹部位はドライでやや色素沈着あり、膿皮症に特有のホットスポットなどはありませんでした。
1歳で数か月前から痒みを繰り返している、フードを変えたりはしていないそう。室内飼いで散歩以外で外には出ず、外部寄生虫のお薬は投薬済みとのこと。
細菌感染? アレルギー?
どっちかかなあ。。。。と疑った私は、内服で抗生剤とアポキルの内服を一週間分処方して再診をとりました。
細菌感染かもしれないから抗生剤は使いたい。
でもアレルギーの疑いも強いしとにかく痒みを取ってあげたいからステロイドは使おう。。。。
そんな理由からの事でした。
ただここで私は、新人あるある?な良くない失敗をしてしまっていたのです(´;ω;`)
かゆみがなくなってほしい一心は良くない
そのあと、先輩獣医にアポキルを出したのはどうして?と聞かれました。
「かゆみが酷いみたいなので、かゆみ止めのつもりで使いました。。」
すると、「かゆみ止め=アポキルって考えちゃダメ!!!!!」
とこっぴどく怒られてしまいました泣
失敗原因その1:原因精査をしていなかった
いつも炎症が酷い皮膚炎の子が来た時は、スライドガラスを押し付けてスタンプ標本をつくって検査をしていました。
しかし今回の子は病変部位が湿っておらず、わずかなフケ・脱毛・色素沈着のみだったため、病変が採取出来ないだろう。。と勝手に判断し、検査を怠ってしまいました。
ただ、私の勉強不足なだけで、考えてみれば毛を何本かむしり取る被毛試験や皮膚を少しはぎとる皮膚搔把試験だってできたはず。ウッド灯で見れば真菌を除外できました。
病変が軽くても検査をすれば、細菌やマラセチア感染の有無を確認できたかもしれません。
基本の基本、鑑別診断をせず、何も除外できないまま内服をだしてしまったのです。
失敗原因その2:いきなり抗生剤とステロイドを両方だした
細菌感染を疑うなら、抗菌薬を使用し炎症が収まるのか様子を確認し、かゆみが収まっていれば治療的診断として感染症と診断できます。
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎なら抗炎症作用のあるステロイドを出し抗炎症作用の結果かゆみが収まるのかを確認することで治療的診断が可能です。
じゃあ、抗生剤とステロイドをダブルで使ったら?
治っても治ってなくても、何が原因で治ったのか、何が原因で治らなかったのかが判別が付かないため、次回の治療に活かせない。。。!!!!!
結局抗生剤とステロイド、どっちが効いたの?という問題に発展するというわけです。
失敗原因その3:アポキル使用目的を単なる「痒み止め」と勘違い
アポキルの作用を調べてみました。
いつもお世話になってるぽちたま薬局で調べると、アトピー性皮膚炎およびアレルギー性皮膚炎の治療薬と書いていました。
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害剤により痒みのシグナルを遮断すことで痒みを抑え、副作用として免疫抑制作用があります。
後で知ったことですが、アポキルはステロイドじゃなかった!!!
ステロイドだと思ってた!!!(>_<)
けど副作用に免疫抑制作用があるからステロイドにとても似ていました。
最終的な目的は「かゆみが止まる事」ですが、大事なのはどうやって痒みを抑えるのか。
アレルギーやアトピー性皮膚炎を疑ったうえで「アレルギー性なら強い抗炎症作用によって炎症反応を抑制してかゆみを止める」のが大切でした。
そのため、ただしくはアポキルの作用目的=抗炎症作用が正しい使用目的でした。
アレルギーか感染かで迷ったら
まず稟告を聞き、発生時期、犬種、病変部位、痒みの程度など細かく確認。
一通りの皮膚の検査をして除外できる寄生虫性疾患を全て除外する。そしてどのくらい細菌感染が起こっているのかを評価する事。
痒みの程度や症状が酷くないのであれば、治療的診断を兼ねてまず細菌感染を疑って抗菌薬を使用する。
これでもかゆみや皮膚症状が治らなければアレルギーを疑いアポキルやステロイドで抗炎症効果を狙って使用する。
最初からアレルギーの方を強く疑うなら副作用の少ないアポキルやステロイドの内服を使用する。
そしてアポキルやステロイドを使用しても症状の改善が無い場合は使用量が適切かを確認する。
使用量が十分にもかかわらず症状が治らないならまた振り出しに戻り、アレルギー以外の疾患をもう一度疑う。
という結論に至りました。
痒みがひどいけど、感染かアレルギーがいまいちわからない子は?
ステロイドによる皮下注射で即効性に一度痒みを取ってあげた後で、治療的診断をするために抗菌薬に絞って作用が軽減するか一週間見てみる。
それで感染が原因とはっきりすれば抗菌薬ベースの治療、アレルギーと分ればアレルゲンを調べながら治療をしていく。
という考えに至りました。
皮膚病はほかの病気に比べると命に係わる危険度は小さくて簡単に見えるけど、実はものすごく奥が深い病気なのでは。。。。
さいごに
皮膚病については、まだまだ分らない事ばかり。
でも、先輩に言われたアポキル≠かゆみ止めの意味は理解し、大反省。
まだまだ修行が足りないと思った出来事でした。おわり。