【犬の皮膚病】膿皮症かな?と思ったら~犬の膿皮症の診断手順まとめ~
新人獣医になって始めに診察を受け持つことになるのが皮膚疾患だと思います。
膿皮症は犬では割とメジャーな病気で、私の病院でも一か月に数十症例は見かけるくらい多い病気だな~と感じます。
新人が真っ先に受け持つことが多い皮膚疾患ですが、実は内臓系の疾患よりも皮膚疾患の方が診断や治療が案外難しいのでは、、、と最近思うようになり、まとめてみる事にしました。
今回は小動物皮膚科専門誌「DERMATOLOGY 2011年11月」の【再発する犬の膿皮症〜背景の評価と治療プランの立て方〜】という記事を見て参考にしました。
皮膚病が難しい理由
①治療期間が長くなりがち
例えば急性の下痢などで来院された時、注射薬に反応があれば翌日にはすっきり治っている事がほとんどです。治っていない場合でも、血液検査や腹部エコーなど追加検査をやっていって鑑別診断を立てていくこともできます。
皮膚病の場合注射薬ですぐに痒みが収まる事もありますが、基本的に1~2週間スパンで再診を取って振り返りながら治療反応を見ていくため、治療経過がゆっくりと進んでいく印象があります。
慢性的なアトピー性皮膚炎などは、1~2か月、それ以上の長期間時間を要します。
翌日にはキレイさっぱりというわけにはいかないのが難しいところです。
②皮膚の変化が地味でわかりずらい
また、皮膚病で反応があるかどうかは痒みの頻度と見た目で確認するのが主ですが、皮膚の状態は一朝一夕では見た目の変化が乏しいことが多いです。
そのため今の治療で良くなっているのかが分かりにくいです。それを飼い主さんに説明しながら、地道に治療していく必要があります。
③基礎疾患が隠れて二重・三重になっている事も多い
膿皮症など、皮膚のバイア機能が失われることで生じる感染性の疾患は、膿皮症単独で起こることは稀で、アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、甲状腺機能低下症やクッシング、寄生虫性疾患、腫瘍など、根底に別の疾患が潜んでいることも少なくありません。
膿皮症の原因が2重、3重と重なることで診断や治療方法が複雑になってしまい混乱してしまうため、皮膚病の治療は難しいです。
膿皮症の診断の立て方は?
膿皮症はブドウ球菌が存在するだけで発症するわけではありません。
必ず宿主側に、感染を引き起こすような原因が存在します。
他の皮膚疾患に合併して起こる事も多く、複数の疾患が同時に見られることも少なくありません。そのため膿皮症の診断は、問題となっている皮疹が単純に膿皮症です!という診断だけではなく「どうして膿皮症になったのか?」発症に至る背景を調べていく必要があります。
膿皮症の診断の流れ
小動物皮膚科専門誌「DERMATOLOGY 2011年11月」の【再発する犬の膿皮症〜背景の評価と治療プランの立て方〜】によると
今の皮膚の状態を評価する
十分な検査を行い寄生虫性疾患を除外する
まずはブドウ球菌をターゲットに抗菌薬の単独投与を行なう
治療によって皮疹と痒みが軽減する→膿皮症と診断する事ができる。
皮疹は軽減するけど痒みが続く→背景にアレルギー性皮膚炎を検討する。
皮疹が改善しない→膿皮症以外の感染症や免疫介在性疾患による非感染性疾患や多剤耐性ブドウ球菌の可能性を検討する。
皮疹と痒みが軽減しても抗生剤を止めてからぶり返す→先天性角化症、本態性脂漏症、内分泌疾患、全身性疾患、栄養学的疾患、自傷などの背景疾患があることを検討する。→つまりアレルギー以外の別の疾患隠れてるんじゃない?と考える。
と記述されています。
ただ治療の進め方は、例えば慢性腎臓病のように重症度に応じて推奨される治療が決まっているわけではなく、飼い主さんと相談してその時々に応じて少しずつ変えていくそうです。
①患者情報を把握する
シグナルメント
皮膚の機能は年齢や犬種によって大きく状態が変わります。
まず飼い主さんから必要な情報を漏れがないように効き出します。
好発年齢
若齢犬や高齢犬→皮膚の免疫力が弱い→膿皮症が起こりやすい
飼い主さんが皮疹に初めて気づいた年齢が若ければ、先天的な要因の可能性が考えられ、高齢であれば内分泌疾患や内臓疾患、全身性疾患などが関与している可能性が高い。
好発犬種
ジャーマンシェパード→先天性角硬化症
シーズー、アメリカンコッカースパニエル、ウエストハイランドホワイトテリア
→本態性脂漏症
パグ、シーズー、シャーペイなどシワシワ犬→膿皮症
避妊・去勢の有無
去勢・避妊手術を受けていない子→性ホルモン失調での皮膚疾患が好発
実際に皮膚の状態を見る前に、患者情報を確認して整理する事で診断がつかみやすくなります。
病変は限局か広範囲か?
皮疹の分布が限局的であれば、自傷や外的刺激など局所的な皮膚バリア機能の異常を考えます。
一方体幹を中心に広範囲に皮疹が広がる場合は、全身性疾患や内分泌疾患を考えます。
また、皮膚疾患の種類によって好発部位も違うため注意が必要です。
食事アレルギーは顔まわりや指間、お腹の他に腰背部にも病変ができることが多いですが、アトピーでは腰背部にはほとんど見られません。
季節性があるかどうか、年齢による皮疹の変化は?
環境抗原が原因のアトピー性皮膚炎は、季節性に皮疹ができることも多いです。夏の高温多湿は、膿皮症の発症要因として重要です。
一方、食事アレルギー性皮膚炎は季節性はありません。逆にフードを変えた経緯があったり突然発症することもあります。
犬アトピー性皮膚炎は通常1〜3歳の若齢で発症して、加齢とともに悪化しやすいです。
②十分な検査をして寄生虫性疾患を除外する
患者さんの情報をざっと把握したら、次に皮膚の検査をおこなっていきます。
スタンプ試験
病変部にスライドガラスをペタペタ押し付け染色します。
細菌やマラセチア、炎症性細胞、腫瘍細胞の有無の確認が目的です。
皮膚掻爬試験
皮膚の一部を削り取り、顕微鏡で観察します。疥癬(かいせん)やニキビダニ(毛包中)などの寄生虫の存在を確認します。
主に皮膚や毛穴の内部に寄生する寄生虫の除外が目的です。
抜毛検査
病変部の毛を抜いて、顕微鏡に診断します。真菌や毛包虫、の確認、毛周期の確認をします。
主に外部寄生虫の除外が目的です。
ウッド灯検査
皮膚糸状菌症の診断に使う検査です。
紫外線を照射することで、皮膚糸状菌が存在していれば白く発光して見えます。
③まずは抗菌薬の単独投与からスタート
ステロイドと抗生剤の併用は避ける
アレルギー性皮膚炎と診断して、アポキルやステロイドと抗生剤を併用することは多くありますが、使いようでは膿皮症の治療を複雑にしてしまいます。
膿皮症の多くは痒みを伴いますが、痒み止めとしてステロイドの全身投与や外用薬を最初から併用するのは危険です。
ステロイドの投与により一時的に皮膚炎は軽減しますが、その抗炎症作用によりブドウ球菌に対する免疫反応を抑制してしまう可能性があるからです。
ステロイドの長期使用は医原性のクッシングや糖尿病を引き起こすリスクもあります。
またステロイド外用薬は全身的な作用は弱いですが、使いすぎると皮膚の菲薄化や紫斑、発赤などを生じてしまい余計皮膚症状が悪化してしまう可能性があります。
でも実際は、飼い主さんが長期的に治療についてきてくれなかったりで、全症例でひとつづつ順番に治療してくのって難しい印象もあります。
良くないけど、個人的には即効性の痒み止めを狙ってステロイドつい注射したり使っちゃってる事は多いかもしれません、、、
めちゃくちゃ痒そうにしてる子に、抗菌剤だけ出して一週間後再診をとっても、根底にアレルギーがある子は特に痒みをすぐには取ってあげられない事も多い。
抗生剤が効かない事を覚悟して初診で出会う飼い主さんに説得して一週間、二週間と通い続けてもらうのもハードルが高いと感じてしまうから難しいなあと感じます。
最初からアレルギーも疑ってステロイドをガッツリ使ってあげるのか、効かないかもと思いつつも1つずつ順番に治療的診断をしていった方が正しいのはわかるけど、、そのバランスが難しい。
抗菌薬での治療方法は?
膿皮症の治療は抗菌薬による全身療法と、薬用シャンプーによる外用療法があります。
内服薬だけでも良いと思いますが、外用薬は直接患部に抗菌薬を浸透させる事ができるため非常に効果的です。
そのため抗菌薬の内服と抗菌薬入りのシャンプーを併用するのがおすすめです。
ブドウ球菌はペニシリンに耐性を持っていることが多く、第一選択薬の抗菌薬はセファロスポリン系が多いです。
セファロスポリン系
殺菌性の抗菌薬
細胞壁の生合成を抑制する。
リレキシペット
セファクリア
シンプリセフ
コンベニア(sc)
しかし、最近ではβラクタム系抗菌薬に対して抵抗を示すメチシリン耐性S.pseudintermedius(MRSP)が増えているという報告もあり、抗生剤の使い方は複雑になってきています。
とはいえ、基本的に気をつけている事としては、
最初からキノロン系の抗生剤を使わないようにする
抗菌薬の反応が乏しければ飼い主さんと相談してすぐに細菌培養検査に出す
といった感覚的なところにとどまるかな、、と思います。
かなり厳重に病院内で耐性菌に対するマニュアルを作っているわけでもなく、個人の感覚で各々気をつけているといったところです。
抗菌シャンプー
マラセブシャンプー
ノルバサンシャンプー
クロルヘキシジンなど
このように抗菌薬を使用して感染を抑えながら、かゆみの程度や皮疹の変化を細かく確認していきながら根本的な原因は何か探っていきます。
その後は治療反応を確認しながら、食物アレルギーが1番疑われるなら除去食試験や抗原のアレルギー検査、アトピーが疑われればアポキルやステロイドなどで炎症を抑えていって反応が出るか進めていきます。
また甲状腺機能低下症やクッシングなどの内分泌系の疾患が疑われる場合は血液検査を行います。
まとめ
初診で来た子ならまだしも、転院症例でどんな治療を受けたかわからない子や、治りが悪い子の鑑別診断をしていくのはすごく難しいな、、と思います。
まだまだ勉強中のため、その都度まとめて学んだ情報をアップデートしていきます!