一年 ~詩六篇~
1 残照
桜散って咲く花水木
紋白蝶舞う菜の花畑
黄色い花に天道虫
そよぐ風 微笑む君
君が作った弁当
暖かな陽の光
時は一瞬で
時は永遠だった
いつしか夕暮れ
誰もいなくなった菜の花畑
紋白蝶も姿を消し
朱い西に紺の東
時は一瞬で
時は永遠だった
そよぐ風 微笑む君
陽は沈み 残照が残っていた
2 夏祭り
綿飴射的金魚掬い
紺の浴衣に咲く花火
結い上げた髪 白い首
長い睫毛 朱い唇
夏祭りの道を離れ
満月輝く公園へ
虫の音 風の音 君の声
花火が夜空を彩った
同じ色だと浴衣を指差し
笑顔の君見て笑顔で返す
時は一瞬で
時は永遠だった
祭りは終り 静まる公園
高鳴る虫の音 秋の気配
帰ろうと言った君の顔は
影になって見えなかった
3 銀杏
そうだ私が悪かった
秋風に晒された銀杏並木
黄色い道を一人歩く
君の声 君の微笑み
君の気配 君との縁
すべては風に吹き飛ばされていく
舞い散る無数の銀杏の葉
視界は黄色に染まり何も見えない
舞い散る無数の葉の音で
君の声はもう聞こえない
一人立ち尽くす
そうだ私が悪かった
4 雪降る月夜
風なく雪降る月の夜
田んぼに立って空を見る
白い月に白い雪
私も雪が積もって白くなる
白い月光 光る世界
私も雪で光って白くなる
遠く離れたあの人や
遠くへ行ったあの人が
浮かんで消えて涙する
溢れた涙は光って落ちる
積もった雪に落ちていく
白い月光 積もる雪
私も雪に埋まってしまおう
それより白い光に溶かされて
この世界を照らそうか
風なく雪降る月の夜
田んぼに立って空を見る
5 林檎咲く丘
桜散って林檎咲く
林檎畑の丘の上
君を想って空仰ぐ
夕暮れ前の青空に
大きな雲が浮かんでる
いつまでこうしていられるかな
いつまでもこうしていられるかな
君の声が蘇る
どこかで雀が鳴いている
燕が横切り木に止まる
鳶が高く回ってる
木々の下は一面に蒲公英
林檎咲く丘の上
空は朱く染まってく
君がいない空仰ぐ
夕暮れ色の丘の上
君を想って独り立つ
6 旅立つ
もうここには来ないから
だからしっかり掃除をしよう
もうここには来ないから
だから関わりは薄くしておこう
この美しい空
この煌めく星
季節と共に移りゆく花々
苦しい辛いことが多いこの世界
束の間訪れる幸福
どうせ次は忘れるんだろうけど
しっかり胸に刻んでいこう
もうここには来ないから
だから大きく息を吸っていよう
もうここには来ないから
だからあなたの笑い声を聞いていよう