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2021年ベストアルバム30

 皆様いかがお過ごしでしょうか、市原(@hara_kuti_)です。この度2021年ベストアルバム30を作成しました。上半期より枚数を減らした理由はずばり、特定のアルバムを集中して聴く機会が下半期多かったからです。そしてそれらがこの紹介する30枚になります。なぜか今回はだ・である調で書き上げてしまいましたが、全く何らかの意図はありません。順位にもそれほど意味は持たせていないので、気軽に楽しんでいただけたらと思います。それでは!

30.『Cruise』 / Ausschuss

 ベルリンを拠点とするサウンドデザイナーLinus Nicholsonの別名義Ausschussの2枚目のアルバム。前作のミニアルバム『Room 1』よりもミニマルかつトライバルなビートに力点が置かれた本作は、Emeka Ogboh『Beyond The Yellow Haze』との共鳴を感じさせなくもない。アンゴランクドゥロ、ラテンデムボウ、アフロカリビアンダブにUKGと要素が盛り沢山にもかかわらず、空間の美学が感じられる。陽気なリズムと陰鬱さの同居する非常事態。これは新世紀のインダストリアル・ダンスホール!

29.『Icons』 / Eli Keszler

 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやローレル・ヘイローの作品に参加したことでも知られるパーカッショニスト/作曲家イーライ・ケスラーの新作。個人的な見解だが、本作こそが最も強くパンデミック下の閉塞感を反映していると思う。本作を内省のアルバムと呼びたくなる気持ちは、たった一聴するだけでも分かるだろう。そしてジャンル(を決めねばならないとしたら)はジャズ。それこそ『Notes With Attachments』とも似ているところがあるように感じる。これをアンビエントと呼ぶのは正しくないだろう。しかし、どう聴こうともコロナ禍はたまた20年代の音楽体験とやらに辿り着かさせられてしまう。光り輝く未来都市の中にある幻影。逃走地としての廃墟。タルコフスキー『ストーカー』の汚染水の画が浮かんだのは、佐々木敦曰く「『Stadium』がグラフィック=図像的だったとしたら『Icons』はイメージ=映像的」だからだろうか。ちなみに渋谷の富ケ丘公園での録音も使用されているそう。

28.『FISICA』 / LAMIEE.

 イタリアはトリノで活動する音楽家Nicholas RemondinoによるソロプロジェクトLAMIEE.。ピエモンテの民間伝承に触発されたアルバムだそうで。古代と現代どちらもの風景を同時に浮かび上がらせてくるのは上の『Icons』とも似ている気がする。さらにインスタグラムから推測すると、LAMIEE.はドラム/パーカッションをメイン楽器としていて、その点も共通するだろう。硬質なのに包み込んでくれるような感覚は極上の音楽体験だ。

27. 『2562. Neon Flames』 / Neo Geodesia

 ポルポト政権から逃れたカンボジア人難民の息子という生い立ちの、現在はロンドンで活動するSaphy Vongの1stアルバム。2019年に突然亡くなった母への喪失感と、かつて存在したクメールという国家への郷愁と憧れが圧倒的なスケールでそびえ立っている。そう、とてつもなく巨大な神殿のように。そこは最も豊かで栄えていて絶えず豪華絢爛な祭りが続く。でもそれも結局は架空の存在であるという。これは私がこのアルバムを聴いて抱いたイメージに過ぎないが、このあたかもVaporwaveを聴いたときのような(よりも?)強烈なノスタルジーは、そのような想像を尽きさせない。ひたすらにエネルギッシュなアルバムのはずなのに、聴き終わるとなぜか胸にぽっかりと穴が空いたような気持ちになってしまう。「最もパーソナルなものこそ最もクリエイティブだ」とはとある映画監督の言葉だが、まさしくそうであることの一例だ。

26.『By The Sea』 / Yolabmi

 東京在住の(!)アンビエント・コラージュ作家の新作。音に溺れるとはまさにこのアルバムを聴く体験だと思う。前作『To Nocturnal Fellows』とは打って変わって、30分の楽曲が2つという構成になっているが、このことが一貫した世界観の確立及び没入感に寄与している一方で、アプローチは依然として多彩。本作にもパーカッションの旨味が凝縮されていて、静謐ながらも眠くなるどころか心地良く覚醒してしまう。ジャケットのアートワークも非常に魅力的で、この音楽を具体的なイメージにするならこれ以外ないだろうな思わさせられる。灰色なのに色鮮やか。コラージュのセンスも素晴らしいと思う。

25. 『Rings』 / Nikolaienko

 2021年上半期ベストアルバム50でも紹介した作品。前述した通りなによりもアナログテープの質感が最高で、時間を忘れられるような音楽体験を提供してくれる。フレッシュな音でありながら同時に電子音楽黎明期の作家たちの顔が浮かぶような音楽。アルバムのリリースより前の演奏にはなるが、使用機材などが分かるこの動画も一見の価値あり。https://youtu.be/KMuWLDarNOY

24. 『Bishintai』 / UNKNOWN ME

 こちらも紹介済みの名盤。半年経っても依然として魅力は薄れず。今後このアルバムがニューエイジのクラシックになることに間違いはないだろうし、日本の音楽を代表する存在にも位置付けられていくと思う。「ニューエイジこそが日本の最後のレアグルーヴである」とリリース時の対談で述べられていたが、1人でも多くの音楽ラヴァーズに"発見"されるのみならず、私自身ニューエイジファンとしてはこの素晴らしいジャンルが更新され続けられたらこの上なく嬉しく思う。そしてそれを担うのがUNKNOWN MEだと確信している。

23. 『之/ OF』 / LI YILEI

 Twitterの音楽ファンが特に話題に挙げていた新作アルバムの1つであろう。本作に関してはただこの極上のアンビエント体験を浴びるように味わってほしいと思うばかりなのだが、そこに用いられている多様な技術を意識しながら諦聴すると更に奥深い。ele-kingでの本作の紹介記事で、無時間的な感覚についての言及が為されていたが、その逆接的な悠久はあたかも侯孝賢の映画から感じられるそれと同じような趣であると私は思う。リリースは冥丁や7FOも所属するMétron Records。また同じく中国の電子音楽家Howie Lee(『Birdy Island』も素晴らしい今年リリースのアルバム!)と併せて目が離せない存在だ。

22. 『Still Lives』 / Marja Ahti

 とにかくその洗練されたジャケットに目が奪われる、フィンランド在住Marja Ahtiの3作目。もちろん内容も素晴らしく、フィールドレコーディングに様々な技術を用い合わせて独特の音世界を作り上げている。しかしそれは単に音とのみ呼ぶのも憚られるほどに実験的で、前衛芸術の分野で活躍した往年の実験音楽家たちの功績を思い出さざるを得ない。とはいえ小難しいことは考えずに聴き通しても非常に魅力的で、静謐ながらもエキサイティング。至高の音楽体験。

21. 『Honest Labour』 / Space Afrika

 ele-kingの本作紹介ページに「その名前のように、ある種のアフロフューチャリズム的な世界観はそこにはあるが、しかしそれはPファンクのようなぶっ飛んだ宇宙探訪ではなく、インナースペースへと突き進んでいくタイプのものだ」とあったが、まさしくそうであろう。彼らが自らの音楽を21世紀の黒人音楽と語りその地平を拓いていく様子は、Mustafaがポスト・ダブステップの影響を隠さずにフォークギターと共にストリートを吟じるのと重なって見える。とにかく両者とも非常にUKマナーなミュージシャンなのであり、Space Afrikaは本作でAndy StottやBurial、Dean Bluntらの影響を受けながら、ダブ・テクノ、アンビエント・ダブの臨界点をやすやすと突破してしまっている(さらには本作は非常に幻想的なトリップ・ホップとも言うことができよう!)。一歩間違えたら向こうの世界に行ってしまうような魅惑の危険性を孕んだこのアルバムを、私は一生聴き続けるのだと思う。

20. 『Isso É Coisa de Baile』 / Walmir Borges

 静謐な(?)アルバムが続くなかであまりにも軽快なリズムが聞こえてくるものだから自分でリストを選んでおきながら驚いてしまったが、文句無しの大推薦盤。サンバ・ソウルの帝王Walmir Borgesの3年ぶりのアルバム。そして本作こそが現代MPBの最高傑作だと言ってしまおう。前作のUSマナーなネオソウル色は薄まり、よりブラジル音楽伝統の要素が強まっている。それでいて私が最も本作に似ていると思ったのがシュガー・ベイブ『SONGS』なのだが、あの作品に通ずる溢れるほどのポップネスがこれでもかと詰め込まれている。ふと気がつくと体が動き出してしまうような、多幸感に満ちた素晴らしいアルバムだ。

19. 『Anna Agenda』 / Pilgrim Raid

 ベトナム・ハノイを拠点にするデュオPilgrim Raidのデビューアルバム。ベトナムで過ごした幼少期へのノスタルジー満ちたこの作品は、"青春の記憶を閉じ込めたサウンドトラック"として、Parannoul『To See the Next Part of the Dream』ともジャンルは違えど似ているのではないかと思う。"過剰さ"のアルバムであっても様式美を感じるし、非常にメロが優れている。M2のEDMパートが特に素晴らしい。様々な青春の音がサンプリングされているわけだが、なかには私たちも聴いて懐かしくなるようなものがあって、それらに耳を傾けるだけでも楽しい。それにしても今年のベトナム勢は凄かった。『Ngủ Ngày Ngay Ngày Tận Thế』/ Rắn Cạp Đuôi『Came』/ Tran Uy Duc『 Quyển trời 』/ Quyếchも併せて聴きたいところ。

18. 『古風Ⅱ』 / 冥丁

 「日本情緒に誘い込むのでございます。」-----『LOST JAPANESE MOOD』を掲げ独自の世界観を作り上げてきた冥丁の4thアルバム。前作『古風』のために作り上げたトラックが47曲あることに気付き、昨年に引き続き制作されたという背景があるのだが、それにしてもなんと完成度の高いことよ。個人的には本作こそが冥丁の最高傑作であると思う。従来の情緒深さやノスタルジックさはそのままに、これまで以上に深化した冥丁ismが感じられる。懐古趣味な古い音源のサンプリングをしながらも同時に現代的でハイファイな電子音楽としても成立させているあたりが、真にノスタルジーを抱かせる作品は過去を詰め込むだけでは成立しないことを気づかせてくれる。

17. 『Annulus』 / Koeosaeme

 日本にもファンが多い先鋭レーベルOrange Milkから、東京を拠点に活動するKoeosaemeの新作。東南アジアの音楽からの影響を強く受けながらも同時にまたどこか無国籍的な、ジョン・ハッセルの言う「第4世界」を思わせるような響きが果てしなく美しく儚い。しかしこれはまた、音楽においてはYMO以来不毛だった日本のテクノオリエンタリズムの地平を拓く存在でもある気がしてならない。Asa Tone『Live at Net Forms』との共鳴も感じさせるが、おそらく両者は似て非なるものであろう。どちらも本当に素晴らしいが、私は本作の呪術的な妖しさにてことんやられてしまった。ところでジャケットの写真はSHIBUYAMELTDOWNだろうか。

16. 『Bubblegum』 / Woulg

 チェコはプラハのレーベルYukuからWoulgのアルバム。これまでの作品よりもインダストリアル味を増した、しかしアンビエント的に聴くこともできる本作は、それこそテン年代の電子音楽の文脈上に居ながらも20年代的なものを感じさせる。メタルDUNE氏が言っていた「Eartheaterにみるデコンストラクテッド性と表裏に位置するAmnesia Scannerとも違う「ハードドラムとしてのグリッチ」を提示した傑作」が言い得て妙。たしかに往年のIDM作品のような懐かしさを感じる作品でもある。

15. 『Sounds of the Unborn』 / Luca Yupanqui

 「胎児が作り出した震動をMIDIに変換しシンセサイザーに流し込み、世界で初めて胎児が制作した」というエピソードだけで興味が尽きないが、その実験的な側面にとどまらず、アンビエント・ダブアルバムとしてひたすらに味わい深い。個人的にはこれまたIDMの旗手Boards of Canadaの作品に似た感触を得た。『アロエ その不思議なサウンド』が今年再び脚光を浴びたことが記憶に新しいが、本当に"誰でも"音楽が作れる時代が到来しているのかもしれない。

14.『An Afternoon Whine』 / Claire Rousay, More Eaze

 こちらも今年リリース『a softer focus』(この作品に関してはこの記事が本当に素晴らしいのでそちらをご参照の上→https://note.com/yorosz/n/ne8fdee725e80?s=09)のClaire RousayがMore Eazeと共作したアルバム。2人は自分たちの音楽のことを"エモアンビエント"と呼んでおり、アンビエントR&Bやクラウドラップからの影響も公言している。アンビエントのジャンル付けをされるようなインスト楽曲のアルバムにもかかわらず、異常なほどにポップさが滲み出ているのはそういうわけだろう。一般的に、近年のアンビエント作品はいわゆるアンビエントR&Bとの折衷には向かわなかったように思う。それは本質的なアンビエントを志向すればするほど相容れないからなのか、はたまたアングラカルチャー(?)としての矜持があるからなのかは分からないが、少なくとも真にアンビエント作品であるといえるアンビエントR&B作品はテン年代の間には生まれなかったと主張するのは間違いではないだろう(だからこそ最近のフランク・オーシャンの動向が気になって仕方がない)。そんな中でアンビエント側からいわゆる"ポップ"の側へ躊躇なく向かっていったこの作品は新鮮だ。それはおそらくClaire Rousayがそこまでアンビエント制作を意図していなかったから(上記記事参照)な気がするが、とにかく目新しいものが面白いのはいつの時代も同じだろう。1人の音楽ラヴァーとしては今後の"エモアンビエント"の隆盛がひたすらに楽しみだ。

13.『Perelline』 / Sinnway

 ブダペストのレーベルEXILESより、Sinnwayの2ndアルバム。懐かしい響きながらも、従来のどの電子音楽とも微妙に似ていない(初期のAutechreに似ている気もしなくはないが)独特の音世界が魅力。雹のように硬質な音が飛びかかってくるがどれもが魔法ヴェールに包まれていてそれらは体の中に水のように溶けていく、というのが私にできる限りの比喩表現だが、一体それが相応しい表現なのかは聴いて確かめてみてほしい。世界規模での発見が望まれる1枚。

12. 『Wants a Diamond Pivot Bright』 / M.Sage

 牧歌的アンビエントという言葉がこれほどまでに相応しいアルバムはこの作品のほかにないと思う。本作はシカゴのアンビエント作家M.Sageが指名した16人の音楽家たち(その中には畠山地平や先に紹介したClaire Rousayもいる!それにしても今年はSam Gendelの年であるとともにClaire Rousayの年でもあったと言えよう)との共作なのだが、その音の心地良さは他のアンビエントアルバムと比べても群を抜いている。そもそも私はアンビエントのみならず作品に癒しを求めないのだが、それでもこの作品を聴くと自然とヒーリングを受けたような感覚になってしまう。それほどに美しく柔らかく、晴れた午後の日に白いレースカーテンから漏れる陽の光ののような温かさがある。これぞレコードで味わいたいアルバムであろう。

11.『Head Gone Wrong by Noise』 / Madteo

 日本でも人気が高いNYのカルト的アイコンMadteoの新作。ロウ・ハウス?マシーン・ファンク?いや、これは呪術的グルーヴの悪魔であろう。煙の充満した地下最深部で止むことなく鳴り続けるマシーンの呻き。デトロイト・テクノを真っ黒に焦げつくまで煮つめたような無機質な汗の匂い。これは事件だと思う。とにかく一聴を。

10. 『health』 /sv1

 テキサスを拠点に活動するsv1のデビューアルバム。「健康」と名付けられたこの作品は、たしかにキンキンに冷えた清涼飲料水の如く潤いを与えてくれる。まさしくジャケットのイメージ。IDMの様式美と(意識しながらもあえて回避しているように思える)Hyperpopの不在との間にあるプールを満たしてくれるような作品はそう多くもないだろう。この音色で全くニューエイジに接近しなかったのも面白い(アーティストプレイリストには『環境音楽』が入っているが)。今後の活躍が楽しみな電子音楽家の1人だ。

9.『Fresh Bread』 / Sam Gendel

 音楽界の今年の顔Sam Gendelの言わずとしれた超大作。その実は2012年~2020年の間にホームレコーディングした未発表曲(一部はライブ音源)をかき集めたアンソロジー的なものなわけだが、私は一体どれほどこのアルバムを聴いたことだろう。2021年上半期ベストアルバム50では「いわば非現実的なSF装置を用いて人生の本質を示唆してくれるような、バタフライ・エフェクトを題材にした映画作品とも似たような儚さがある」と評させてもらった。"予測できる単純なモチーフが反復するのにも関わらず全く同じものが再現されない"というこの作品の魅力は、サム・ゲンデルの独特のサックスの音色とともに今後一般的になっていくのだろう。果たして10年後20年後にこのアルバムにどのような評価がなされるのかは分からないが、少なくともこの2021年という年がSam Gendel の年であったことに間違いない。

8. 『Timekeeper』 / Celia Hollander

 そういえばこのアルバムも非常にSam Gendel的な作品だった(実際彼がリミックスを担当している)。ロサンゼルス拠点の、パフォーマンスやインスタレーションも行っているアーティスト兼ミュージシャンのCelia Hollanderの最新作。やはりSam Gendel諸作や『Notes With Attachments』との共鳴が強く感じられるのだが、この作品はそれらのニューエイジ解釈といえるだろう。聴けば聴くほど吉村弘がそこにはいるし、それらの愛を包み隠さない姿勢には好印象。ふと気がつくと聴いている、そんなアルバム。

7.『Eternal Home』 / Fire-Toolz

 間違いなく今年Twitter上で最も話題になっていたアルバムであろう。正直この作品に関してはTwitterで検索をかけたら面白い意見がたくさん見つかるし、是非ともそうしてほしいのだけれども一言だけ。過剰さをウリにする音楽ほど実は引き算の美学が大事なのではないか。そしてこのアルバムは完璧にそれに成功していると思う。この作品で語るべきところはそこではない気がするが、いずれにせよ恐るべき完成度のアルバムだ。

6. 『Last Afternoon』 / 渡邊琢磨

 このような素晴らしいアルバムをリアルタイムで聴けることがひたすらに感慨深い。本作は数々の映画音楽を手がけてきた電子音楽家の、非常に"シネマティックな"(雄大でありながら閉鎖的でもある)音世界の到達点であると思う。決して現実には溶け込まない確固たるもの。それは一体音楽になにが出来るかを教えてくれる。2021年に壮大な叙事詩が1つ終わったような。大好きなテオ・アンゲロプロス『エレニの旅』のラストシーンを思い出した。

5. 『Gyropedie』 / Anne Guthrie

 フレンチ・ホルン奏者のAnne Guthrieの最新作。2018年の『Brass Orchids』も素晴らしいが、今作のフィールドレコーディングと魔術的なサウンドの融合は驚異。アンビエント的ではあるものの、よりアグレッシブに前衛的音響の世界へと誘われている気がしてしまうのはこの作品の鑑賞が一筋縄ではいかない証拠だろう。フィールドレコーディングの可能性を拡大する1枚。

4.『Un Hiver En Plein Été』 / Félicia Atkinson,Jefre Cantu-Ledesma

 フランスのアンビエント作家Félicia Atkinsonとアメリカのノイズ・アンビエント・アーティストJefre Cantu-Ledesmaによる共同制作。二者のコラボは以前にも行われていていずれも名アンビエント盤なのだが、本作はその最新作ということになる。過去作との違いはずばり構造までもが真にアンビエント的であるということだと思う。ブライアン・イーノを通り越してジョン・ケージへ、さらにはエリック・サティの実験精神とも共鳴するような集中的聴取への対抗としての手段のアンビエントを私はこの作品から感じる。アンビエント豊作の年だった2021年の締めくくりに相応しい強度を持つアンビエント盤を作り上げるのが、テン年代を代表するアンビエント作家2人だったのはもはや自明だと言えるだろう。

3.『Viridescens』 / Francesco Cavaliere, Tomoko Sauvage

 これまた共作アンビエント。水、ガラス、粘土、竹の木琴、鉄琴、シンセサイザーを組み合わせた自作楽器で作り上げられる幽玄な音世界は非常に日本的ながらも、あまりニューエイジに接近しているようには聞こえないのが面白い。聴覚での音楽鑑賞のはずなのに、あたかも東京都現代美術館でのインスタレーションを味わっているような感覚。ジャケットのとおり水の芸術だ。個人的に音の使い方に冥丁の諸作との類似を感じるのだが、実は両作品ともアプローチは違えど(この作品がそれを意図しているかは不明だが)古き善き日本を描くことに成功しているのかもしれない。

2.『Pavel Milyakov & Bendik Giske』 / Pavel Milyakov, Bendik Giske

 きわめて実験的なアヴァンギャルド・ジャズの傑作。8月に出たBendik Giskeの新作も素晴らしかったが、この破壊力はちょっと凄すぎる。それにしてもこの人のサックスも一聴で分かる個性を持っていることよ。規則的なモジュラーと即興演奏の有機的な溶け合いはリモート制作の賜物な気もしなくはない。生み落とされたミュータントは奇しくも自ら時代の音を象徴するようになっていくのだろう。この妖しい魅力には抗えない。

1.『Notes With Attachments』 / Pino Palladino, Blake Mills

 もはや説明不要かもしれない、文句無しの今年を代表するアルバムでしょう。2021年の、いや今後の音楽の方向性を決定してしまった(それでいてもう完成しているのがニクい)お化け作品。M1『Just Wrong』の冒頭のサックスを聴くだけで10秒後には流れ出すメロディーに鳥肌が立つし、実は存在感のあるサブベースには畏敬の念さえ抱く。これは絶対に超えられないし、超えなくていいアルバムなのだろう。一生モノの作品だ。

 いかがだったでしょうか?こんなに素晴らしいアルバムたちをリアルタイムで聴けることをこの上なく幸せに思います。来年も色々と勉強しながら聴き続けていくので、温かく見守っていただけたら嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました!

https://open.spotify.com/playlist/03vl8JSmyRbBxfBhxE8Ezm?si=5gbM-nRQTcuIXtpysGa_gQ&utm_source=copy-link

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