2021年上半期ベストアルバム50
今年発表されたアルバムで好きだった作品を50枚ほど。いわゆる新譜を追い始めたのは去年からですが、それにしても今年は豊作だったといえると思います。それでは...。
50. REFLECTION / Loraine James
Hyperdubより、北ロンドンの新鋭Loraine Jamesの2枚目。ひたすらに洗練されたビートに、UKドリル等から歌心のあるポップさが組み合わさったエレクトロニック・ミュージック。それこそ職人の作ったお手本のようでありながら、どこか情念的でもある、そんなアルバムです。
49. Butterfly 3000 / King Gizzard and The Lizard Wizard
多作かつその内容もカメレオンであることで有名なオーストラリアのサイケデリックロックバンド、通称キンギザの通算18枚目となるアルバム。今回はどこかアジアンテイストなドリームポップに!多幸感溢れるそのサウンドに聴き惚れてしまいます。
48. basement, etc... / downstairs J
NYのInciensoレーベルからdownstairs Jのデビューアルバム。レイト90'sからゼロ年代初期の電子音楽の旨味を凝縮したようなサウンド。Boards of Canada、Autechre、Portisheadらの名が同時に思い浮かびました。ミニマリズムなアプローチ。90年代音楽のファンには堪らないのではないでしょうか。
47. Breathing / Jeon Jin Hee
韓国のピアニスト、Jeon Jin Heeの新作。この人はSpotifyのアルゴリズムによって出会えたミュージシャンの一人で、前作『Our love was summer』も大好きなアルバムなのにも拘わらず、素性はよく分からない、というよりアーティスト名とアルバム名ではほぼ何の情報にもアクセス出来ません。サティやドビュッシーに匹敵する、と言ってしまいたくなるほどのあまりのピアノの美しさには陶酔不可避です。
46. Romantican / Yonatan Daskal
イスラエルジャズといえばこのレーベル、みんな大好きRaw Tapes Recordsから最高の新譜が...!とはいえButtering TrioやRejoicerの作品にみられるようなHip HopやR&Bからの影響や次世代ネオソウルの手触りはほぼ無く、それこそクラシックへの造詣とシンセ愛によってこのアルバムは作られているように思います。最初に思い浮かんだのは冨田勲で、その新しさと古さの同居ぶりが聴いていてひたすらに楽しかったです。
45. Indoor Plant Life / Ki Oni
ロサンゼルスで活動するアーティストChuck Soo-Hooによる変名プロジェクトKi Oni。ベッドルームアンビエントとでもいえばいいのでしょうか。ジャケットに反してそこまでニューエイジ色は強くなく、とにかく優しい音です。私自身ある程度の枚数のアンビエントアルバムを好んで聴いてきたと思っていますが、その中でもこの心地良さはトップクラスなのではないかと思います。棘の無いアンビエント、溶けましょう。
44. 夢醒記 / 貳伍吸菸所
台湾のインディーバンド貳伍吸菸所(Smoking Area 25)のセカンドアルバム。極上のポストロックを聞かせてくれます。やはり初期モグワイを強く感じますね。私事ですが、台湾のポストロックバンドといえば甜梅號『腦海群島』なんかもフェイバリットです。
43. When Smoke Rises / Mustafa
彼についてはリリックから語るべきことが多いと思いますが、あくまでサウンドに関して、やはりMoses Sumneyやserpentwithfeetと共鳴するようなアンビエンス具合が堪りません。このデビューアルバムも大好きですが、個人的に次のアルバムがめちゃくちゃ楽しみなミュージシャンの一人です。
42. PROSTHETIC BOOMBOX / Cola Boyy
ポップさだったら文句無しで今年ナンバーワン。全曲がこの夏のキラーチューンになり得るかのよう。きらびやかで爽快というのは西海岸のお家芸でしょうか。マイケル・フランクス『The Art Of Tea』がさりげなく置いてあるのにも納得してしまいます。これまたカリフォルニアの海風を感じる一作でした。
41. Peace Or Love / Kings of Convenience
彼らの代表曲であった『Misread』をアルバム単位に拡大したような、彼らにとっては実は12年ぶりにもなる作品。今回はまさに海が見えるような爽やかさで、40年後のベン・ワット『North Marine Drive』とも言いたくなってしまう。昼下がりに海沿いをドライブしながら聴きたいですね。
40. DEACON / serpentwithfeet
まさにジャケットがすべてを表しています。無償の愛。なるほど、彼のことをゴスペルアーティストと称していたメディアがあったのも納得です。ファーストアルバム『soil』から更にジェームス・ブレイク的なアンビエンスが増加したことにより、とても神聖な仕上がりになっています。ただ単に癒やしのアルバムとは言いたくない、自分にとっては心地のよい違和感のある一作でした。
39. All Those Estranged Things I Have Created, Look At Me / Grand Inc
ドイツを拠点とするアーティストGrand Inc。これまた全然情報が無い...。彼らのインスタグラムを覗いてみるとbrainjazzという言葉が使われていますが、音楽性はその言葉から想起できるようなものに近いかもしれません。ドローンを主体に、サム・ゲンデルのようなことをしてみせれば、ぎりぎりポストロックといえるようなアプローチもしている。勿論ポスト・クラシカル的ではあるのですが、確かにこれはジャズと言うのが良いのでしょう。とにかくこの新しいサウンドからは目も耳も離せません!
38. Don’t Go Tellin’ Your Momma / Topaz Jones
ありそうで無かった形で、70'sソウルやファンクへの愛をいっぱいに表している作品だと思います。目新しい音なのだけれども懐かしさを感じる。この感覚はSAULTの新作を聴いたときに得たものと似ている気がします。言わずもがなTopaz Jonesのラップが素晴らしく良いです。
37. Vauville / Ryan Van Haesendonck
ベルギーはブリュッセルより、若き天才のデビューアルバムが...!最高の質感を持ったアンビエント作品です。ノルマンディーに旅行に行き、静かな浜辺で海、風、自然の音を聞いた際にこの作品の着想が浮かんだそうで。発表直前には映像作品も作り上げたらしいです。今後のキャリアが気になります。
36. Back of My Mind / H.E.R.
1時間19分という長尺ぶりとあまりにも濃密なチューンの数々からは、このアルバムで今世紀入ってからのR&Bの数々を総括してしまおうというような気概すら感じます。それこそトラップ以後の世界における、『Mama's Gun』やジル・スコット1st、なんなら『Voodoo』にも似た様式美と身体性があるのではないでしょうか。Summer Walker『Over It』なんかと聴き比べてみても面白いかもしれません。
35. Love Or (I Heard You Like Heartbreak) / Prequel
デトロイトテクノの、いやムーディーマンの特にメロウな部分のみを真っ黒な釜でじっくりと煮詰めたような、いやぁ、大好物です。そんなアルバムがやはりこれまたロンドンから出現するとは。流石はRhythm Section。Prequelはこれまでのシングル及びEPの、ひたすらにディープでミニマルな路線も大好きだったのですが、新譜もまた別に最高でした...!
34. Beyond The Yellow Haze/ Emeka Ogboh
ナイジェリアのアーティスト。アフロビーツmeetsアンビエントテクノともいえよう異色のサウンド。M1『Lekki Aiah Freeway』の無機質な響きが五臓六腑に染みわたります。詳しくはele-kingの文章を読んでみてほしいです。http://www.ele-king.net/review/album/008031/
33. Rows / Blanket Swimming
このミュージシャンはとても多作で、今年ももう5枚もアルバムを出している(Spotifyで確認できる限り)のですが、その中でもこのアルバムはかなり気に入っています。素朴で飾り気のないアンビエントで、だからこそ音の良さがストレートに伝わってくる。M3 『Fragment 25』の水の音なんかが最高です。
32. OWN °C / Jap Kasai
ミュージック・マガジン2021年7月号でこのアルバムが取り上げられるようで、音楽好き達にこのミュージシャンが知られるのも時間の問題なわけですが、いやぁ、ワクワクしますね。どんな音楽なのかって?それは聴いてみてのお楽しみです!
31. Vide / Emptiness
またまたベルギーより。とにかく暗い。暗いぶん美しい。耽美的な魅力を秘めた、このブラックメタルを通過した異様なポスト・パンクは、なによりも聴いたことのない音です。非常に重々しいのに、激しく歪んだギターはほとんど用いられていないのが面白いです。
30. Static Journeys / Michal Turtle, Suso Saiz
スペインのニューエイジ・ミュージックのパイオニアSuso Saizと、これまたニューエイジファンなら知らない人はいないだろうレーベル Music From Memoryに発見されたUKのマルチインストゥルメンタル奏者Michal Turtleの共同制作!このアルバムも情報が著しく少なくて困ってしまうのですが、丁度良い湯加減のニューエイジなアンビエントサウンドが非常に気持ち良いです!必聴!!
29. Rare Backwards / Spivak
キプロスより。陰鬱なアンビエントとキラキラしたエレクトロポップの塩梅が絶妙。とにかく聞こえてくる音全てが最高で、いわば音の"正解"を投げつけられているような気分になります。魅惑のサイケデリア。これはクセになる!
28. Never The Right Time / Andy Stott
案の定私はAndy Stottが大好きなのですが、意外とこのアルバムについて何か言おうとすると難しい!まぁ、巷で言われているようにポップになった印象は確かにあるけれども、だからといって様式美や難解さに由来する魅力が損なわれることなどは全く無く、この新作もテン年代の作品に劣らず傑作だと思います...!
27. Melodies In The Sand / Irena & Vojtěch Havlovi
チェコのモダン・クラシック作家の夫婦の作品。クラシカルなアンビエントが沁みます。作品自体はコンピレーションアルバムで、80年代以降活動してきた彼らの録音が、Suzanne KraftやJonny Nashらアーティストで有名なMelody As Truthからの発表されています。個人的に、この作品と『Passive Aggressive』との類似について考えたりしました。
26. Queen of the In Between / K.C. Jones
アルバム前半は特に、いわゆるロックンロールじゃなくてロックと呼ばれる60年代後半の音楽の空気感をモロに再現していて驚きました。あまりにも良質なサイケデリック・ロック。後半はカントリーを主に、様々なオールドタイムミュージックへの愛を表しているのだけれども、純然たるアメリカーナとは一線を画すそのクセに見事にやられてしまいました。同じく今年リリースのEPでは様々なジャズスタンダードが彼女流にアレンジされていて、そちらも併せて聴きたいところです。
25. Promises / Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra
あまりにも盛大な引き算の美学。正直テン年代らしくもないし、はたまたこれからの音という感じでもない。その浮遊感覚というのが本作の説明し難い魅力な気がします。非常に映画体験に近い音楽体験だなと思いました。
24. times / SG Lewis
テン年代の80'sリバイバルを学習し尽くして作られた、人を絶対に踊らせる為のアルバム。SG Lewisはディスコミュージックを極めたに違いない。80'sの旨味は完璧に、尚かつUKマナーとして90'sクラブカルチャーも忘れないあたりがナウ。『Future Nostalgia』でもそうだったけれども、ジャミロクワイ風ストリングスは昨今の流行りなのでしょうか。全ての収録曲が最高に踊れるキラーチューンとして後世に残りうる圧倒的クオリティの高さ。脱帽です。
23. Birdy Island / Howie Lee
"鳥と先祖代々の魂が住むテーマパーク"というコンセプトを基に制作されたアルバムで、とにかくファンタジック。ゲーム音楽ぽくもあるし、また、日本の80'sのニューエイジ名盤よりかは、竹村延和の作品などに似ている気がします。中国古来の楽器がたくさん使われたエレクトロニックミュージックで、音が非常にフレッシュ。
22. Gyropedie / Anne Guthrie
フレンチ・ホルン奏者でサウンド・アーティストのAnne Guthrieの新作。他の大好きなアンビエントアルバムと比べても、このアルバムは本当に一瞬で終わってしまう。前作『Brass Orchids』よりもプリミティブさが増し、フィールドレコーディングの持ち味が活きているように思います。
21. Chemtrails Over The Country Club / Lana Del Rey
はじめて聴いたとき、このアルバムはSufjan Stevens『Illinois』に似ているなと思いました。歌われているのは紛れもないアメリカについてで、BLM以降の白人の苦悩や# metoo運動で明らかになったもの、さらには陰謀論など、正直私にはあまり身近であるとは言い難い。でも、このノスタルジックなサウンドと彼女の優しく耳を撫でるような声を聴いているだけでもなにか伝わってくるものがあるの思うのです。20年代にアメリカーナを作るとき、アメリカを唄うとき、このアルバムと前作『Norman Fucking Rockwell!』のことを考えずにそうすることは出来なくなったのではないでしょうか。大傑作でした。
20. Salos / merope
リトアニアの3人組バンドmeropeの新作。まさにこの森のジャケットのような音がします。神秘的で荘厳。伝統的なフォークソングがアンビエンスたっぷりに奏でられていて、もはやクラシックな宗教音楽の域。ボーカルの祈りのような歌声はJulianna Barwickに似ていて、なんならフィッシュマンズ『LONG SEASON』とも似たなにかを感じました。最高です。
19. Gal Go Grey / Gal Go, Tom Grey
King Kruleでサックスを吹いているアルゼンチン人のGal Goと、その友人のトラックメイカーTom Greyによる作品。UKジャズ×『Clube Da Esquina』のアンビエンス×サム・ゲンデルといえるようなサウンドが魅力的です。静謐な音楽だけれどもどこか攻撃的なのはKing Crule、特にArchy Marshall名義の『A New Place 2 Drone』なんかとも似ているかもしれません。
18. Rings / Nikolaienko
ウクライナ出身、エストニアを拠点に活動する電子音楽家Nikolaienkoの新作。とにかくアナログテープの質感の良さが尋常じゃないです。終始魔法をかけられているような、はたまた洗いたてのタオルに顔をうずめているかのような。まさしく浮遊体験です。これは是非とも聴いてほしい...!
17. Conc / Onsy
電子音楽通なら知ってるかもしれない、2017年の傑作『Freq 255』のOnsyの新作。これまた情報が皆無で困ってしまうのですが、どうやらカイロを拠点に活動しているようです。硬派なテン年代IDMとして、ひたすらにクール。前作以上に様々なアプローチが用いられた、この非常にソフィスティケイテッドなアルバムは是非一聴を...!
16. CALL ME IF YOU GET LOST / Tyler, The Creator
みんな大好きなタイラー・ザ・クリエイターの新作。リリース間もないですが、好きすぎてもう10回は聴きました。巷で言われているように、Odd Future時代の凶暴さと、近年のジャジーサンプリング・マエストロとしての持ち味が高次元に融合されているのが素晴らしいです。90'sのブーンバップ黄金期のサウンド及び懐かしのR&Bの音、はたまたUKGぽさもあればボサノヴァやレゲエのトラックをも乗りこなしています。個人的には白眉はM10『SWEET/I THOUGHT...』でしょうと言い切りたいところですが、フェイバリットが人によって全然異なるというのもこのアルバムの凄さでしょう(Twitterを見ていて)。タイラーのアルバムの10曲目のマジックについては、もう少し研究したいところです。
15. Pilled Up on a Couple of Doves / PDP Ⅲ
イギリスのチェロ奏者Lucy Railton、アンダーグラウンド・アンビエントの騎手Huerco SとNYのサウンド・アーティストBritton Powell3人の共作。都市の喧騒と静寂が幻想的に織りなされていて、このヴァーチャルなサウンドスケープには目眩がします。ここはどこなのか?どこでもないだろうが、でもこの感覚は知っている。そんなアルバムです。
14. Notes With Attachments / Pino Palladino, Blake Mills
今年はこのアルバムとSam Gendel『Fresh Bread』のことをずっと考えていたように思います。おそらくこれこそが次世代のジャズの形だと言えるかもしれません。しかし、そもそも既に完全にジャンルなどは無意味であることをこのアルバムは象徴してしまっています。いや、深いことは考えずに、ただひたすらに心地良さに溺れればいいのかもしれません。音楽性は90年前後の細野晴臣に似ているかもなんて思いましたが、どうなんでしょうか。NPRでのセッションは今年No.1ライブ映像です。https://youtu.be/a-V77_moZYw
13. Sturle Dagsland / Sturle Dagsland
今年聴いた音楽の中で最も"20年代の音"を予感させるサウンドなのに、ニューエイジやハイパーポップの匂いが全くしない凄さ。ノルウェーのユニットとのことで、いわゆるビョークやヨンシーなどの北欧のミュージシャンと同じ系譜に位置付けられると思うのですが、"静"の美しさ以上に"動"のあまりのエネルギー量に驚かさせられました。暴力性の創出のための80年代の参照がバッキバキのインダストリアルではなく、芸能山城組のようなサウンドだったのも面白いと思います。これはライブ映像で更にその凄さが分かるのではないでしょうか。https://youtu.be/fOkKVQrVMvk
12. Pavel Milyakov & Bendik Giske/ Pavel Milyakov, Bendik Giske
どこかで「奇怪なロシア系アブストラクトテクノと最高な現代サックスの邂逅」とこのアルバムが称されているのを見ましたが、まさにこの言葉の通りだと思います。ジャズ専門レーベルからのリリースですが、ジャズにしてはあまりにも異質で、終始刺々しい音が鳴らされているのに、でも気持ち良いという。モジュラーの規則性がツボを突いてきます。
11. Stay Indoors And Swim / Ki Oni
47位にもでてきたKi Oniが2作目のランクイン!こちらはジャケットから想像できるようなまんまのニューエイジ、もしくはポストヴェイパーウェイヴ的ともいえようサウンドで、とにかくその純度が素晴らしいです。安心して身を任せることができるアンビエント。いつなんどき聴いても癒やされます。それにしても上半期アルバムベストに同じアーティストから2作品選ばれるとは。もう大ファンですね。
10. Athenian Primitivism / Christos Chondropoulos
ギリシャはアテネを拠点とするパーカッショニストChristos Chondropoulosの作品。「古代ギリシャのフォークロアや伝統音楽をテーマに、ポスト・ヒューマンの調和のとれたロボット社会を未来派の視点で描写する、優美でエキゾチックな音世界」とのことで、ニューエイジを基調に持ち味の豊富なリズムが美味しい仕上がりとなっています。リリースはグラスゴーの12th Isleからで、これまた昨年出た大傑作Vague Imaginaires『L'île D'or』との共鳴も感じられます。独特のエキゾ・トライバル・サウンドは最高に踊らせてくれます。やはり全体的に80年代からの影響が強く、未来派フォークロアとのことですが、これは清水靖晃のサウンドを経由した『未来派野郎』へのアンサーなんじゃないかと思ったり。先程紹介したHowie Lee『Birdy Island』との相違を考えると面白いです。
9. Sandbox / Obay Alsharani
最高のLo-Fiアンビエントがスウェーデンはストックホルムより!リリースはイギリスのHive Mind Recordsから(ハイライフの巨匠Chief Stephen Osita Osadabeのアルバムをリイシューしたりなど、アーティストラインナップが非常に魅力的なレーベルです)。テープ加工好きには堪らない音色で、ノイジーなのに非常にうまくまとまっている印象があります。緩い傾斜くらいな展開が心地良く、よく練られているなぁと。ジャケットもそうですが、どこかヴェイパーウェイヴ的な強い郷愁が感じられるサウンドです。ドローン/アンビエント作品に関しては、こういう小品のほうがなんだかんだよく聴いている気がします。ディグの耳休めに聴きたくなるような、個人的にはそんな高級寿司屋のガリのようなアルバムです。大好き。
8. Blutt / Patrick Belaga
イタリアのチェリストPatrick Belagaのデビューアルバム。ジャケットはあたかもハードロックのそれのようですが、実際には静謐なポスト・クラシカル作品です。ただし、そう一筋縄にジャンル分けさせてくれるようなアルバムではありません。近年、Lucy Railtonらチェリストのエクスペリメンタル作品が目立ちますが、その中でも特にこの作品は"危うい"。様々な場所に落とし穴があって、気づいたら深いところまで落ちてしまっていそうな。そんな妖しい魅力をこの作品は秘めています。サウンドがめちゃくちゃ新しいというわけではないのだけれども、なにか方法論に目新しさを感じる。その意味でも、この作品はいわゆる"20年代的な"音を鳴らしていると思います。必聴です。
7. Sophia Chablau e Uma Enorme Perda De Tempo / Sophia Chablau e Uma Enorme Perda De Tempo
ブラジルはサンパウロの4人組バンドSophia Chablau e Uma Enorme Perda De Tempoのデビューアルバム!Ana Frango Elétricoがプロデュースとのことで、サウンドはどことなく彼女と似ているところがあるのだけれども、現代MPBやゆるーいポストパンクを主に、とにかく22分の尺で様々なジャンルの音楽がバンド演奏されていて面白いです。カーディガンズのようなキュートなロックチューンを掻き鳴らしたと思ったら、その次のトラックでは青葉市子のようなサウンドを披露してくれる。お次はスローでメロウなドリームポップで、Bon Iver風のinterludeを挟んだら次はキュアーですか。なんでしょう、その魅力は同郷のArthur Velocaiの大名盤『Arthur Velocai』の普遍的なそれにも似ているような。結局天才が音楽を作れば、どんなジャンルでも素晴らしい楽曲が出来上がってしまうことを痛感させられました。音楽大国ブラジルの真の才能を見た気がします。
6. Amb / Area 3
カナダはエドモントンを拠点に活動しているプロデューサー、Dylan Khotin-Footeによるソロ・プロジェクトKhotinの別プロジェクトArea 3による、良質のドローン・アンビエントアルバム!素晴らしいサウンドなのに情報が全く無いなと思っていたら、変名でしたね。もちろんKhotin名義の作品も好きですが、実は一番好きなのはこのアルバムかもしれません。M3『April』ではBoards of Canada風なIDMが展開されていて、やはりそこは名義が違くても共通する彼の手癖なのかなと思いました。4〜8分のトラックが6つと、丁度良いスケールで様々なアプローチの良質なドローン・アンビエントを聞かせてくれるのが最高です!
5. Riddled With Absence / Dalibor Cruz
"Muslimgauze jamming with Regis & Adrian Sherwood" と評されるとのことで、これはまさしく"20年代の音"。歴代のトライバルでプリミティブなエレクトロミュージックの旨味を全て凝縮して1枚のアルバムに詰め込んだら、きっとこのアルバムが完成するのでしょう。それにしても濃い。何回聴いても凄すぎて啞然としてしまうのですが、それはきっと私だけではないはず。捨て曲はおろか、冗長だと感じさせられる瞬間も全くありません。ホンジュラス出身の父親から譲り受けたサルサ、クンビア、プンタに至る多国籍リズム感覚というのがいかにもですが、時代はここまで来たんですね...。
4. ROCINHA / Mbé
リオデジャネイロの実験音楽家Luan Correiaの1stアルバム。ジャケットがもう示唆的ですが、この作品はサウンドコラージュをベースに、ブラジルの黒人の歴史的、政治的、美学的なエッセーがなぞられています。日本語の記事は無く、その歴史的背景を詳細に理解することは現時点では困難なのですが、ポルトガル語のそれによると、コラージュされているのは黒人活動家のスピーチやアフリカのピグミー族の歌、日本人音楽家の前衛的なサウンドアートなど、さまざまなものが有機的に結び付けられていて、その意図するものは分からなくても、ただひたすらにそれらから織りなされる独特の音響が美しい。かなり飛躍してしまう気もしますが、個人的にはタルコフスキー『鏡』にも通じるような"祈り"の意識を感じました。断片的なイメージ(≒記憶)の数々と、それらが一つに織りなされることによって生まれる温もり。"抽象芸術"の音楽として、この上なく自分好みなものでした。
3. Nafs at Peace / Jaubi
パキスタンの5人組バンド。北インドの伝統音楽(ヒンドゥスターニー・クラシカル・ミュージック)とスピリチュアル・ジャズをフュージョンさせた音楽を奏でているのですが、そこにはポストロックの風味もあり、その耽美的で静謐な様式美と圧倒的躍動の両方が同時に存在していて最高にクール。ロンドンのマルチプレイヤーTenderloniousが現地を訪れたことにより生まれたアルバムのようで、ひたすらにオリエンタルなサウンドながらも、欧米のスピリチュアル・ジャズとも問題なく接続できるようなそれでもあるのが新感覚。タブラとトゥンビの音が癖になります。
2. BISHINTAI / UNKNOWN ME
やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI、大澤悠大の4人によるアンビエントプロジェクトによる新作。テン年代ニューエイジ・リバイバルの極致ともいえようサウンドであるとともに、その枠のみにとどまらず、20年代ニューエイジ/アンビエントにおけるオーパーツとなることも予感させます。極めて日本的な音であることによって(言葉を足すと、世界どこを探してもそこにしかない音であることによって)評価ないし"再発見"されてきた、いわゆる広義的に和モノと言われる名盤らと似た様相をこの作品は呈していると思います。もはやその世界的な"発見"を数十年後まで待つ必要もないでしょうが、日本の音楽史に残るような(いや、そこには国籍などという概念は必要ないもしくは存在しないに違いない)この素晴らしいアルバムに出会えたことがただひたすらに感慨深いです。
1. Fresh Bread / Sam Gendel
2021年ベスト。いや、人生ベストかもしれません。その異様な存在感と、4時間近いその異常ともいえる長さが相まって、各音楽メディアもその真意を捉えられていない気がしますが、間違いなく自分にとって一生涯にわたり聴き続けるであろうアルバムです。その魅力を言葉にするならば(決してそれは簡潔に述べられるようなものではないですが)、予測できる単純なモチーフが反復するのにも関わらず、全く同じものが再現されない心地良さであると思います。いわば非現実的なSF装置を用いて人生の本質を示唆してくれるような、バタフライ・エフェクトを題材にした映画作品とも似たような儚さがあります。音楽では誰も挑戦しなかった境地における到達点であることに間違いはないでしょう...!
番外 To See the Next Part of the Dream / parannoul
順位付けられなかったです...。バイト帰りに一番よく聴いたアルバムなのかなと思います。これほどまでに淡く青色をした"若さ"の音を聴いたことはありませんでした。彼らの引用は主にゼロ年代からで、でも良い意味でそれらしさは無くて、そのどこにも辿り着かない強烈な哀愁こそエモやシューゲイザーの醍醐味だと考えると、本当に全てが完璧ですね。また、アジアの正体不明覆面バンドがこのようなサウンドを鳴らすことによって、Pitchforkはじめ欧米の音楽メディアで評価されているのも興味深かったと思います。sonhos tomam conta、Asian Glowと併せて引き続き注目していきたいです。
以上、2021年上半期ベストアルバム50でした。いかがだったでしょうか。今後とも、素敵な音楽をたくさん見つけていきたいと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました!
50+1枚のプレイリスト↓
https://open.spotify.com/playlist/69KsX4XV6uHQu3eG0znRCM?si=_dx_oktrQy2-pR5EvYYZzA&utm_source=copy-link&dl_branch=1
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