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鶏の唐揚げが人生で最高のご馳走だと思っている人間のレシピ迷走記。

個人的にはまーったく実感が湧かないのですが、暦の上では完全に年末モードに突入しているようですね。自分の場合今年の暮れはあいにく仕事があまり巡ってこず、これまでデフォルトだった「貧乏暇なし」から何にも修飾語がつかないプレーンの「貧乏」になってしまったので、ただ無闇に時間の余裕だけはあり、キーボードの冷たさに指先を凍てつかせながら、久々にnoteをせっせとしたためています。

するとどういうアルゴリズムか、先日のお好み焼きについての記事がびっくりするぐらい大勢の人に読んでいただけたようで、びっくりしています(何このアホな文章)。こんな取るに足らないささいなことであっても自分が得た経験や何らかの学びを他の人たちにシェアできたら、書き手にとってこれ以上の喜びはありません。しかもフォロワー様も2400人を突破。ありがたやー、ありがたやー。

さて、今回は鶏の唐揚げというBIGタイトルに挑みます。実は個人的に鶏の唐揚げが大好物で、あらゆる肉料理の中でいちばん好きです。何ならすべての料理の中でも頂点かもしれない。あまりに好きすぎて、仕事先でもランチを選ぶとき若い子に「原さん、絶対唐揚げでしょ」とからかわれる始末。

いやだって、たとえば熱々ジューシーな唐揚げにほかほか白ごはん、あるいは冷たいビールの組み合わせ、どう考えても至高じゃないですか。もはや合法ドラッグ。鶏なのに飛べます。

今回はそんな唐揚げ偏愛者が、どうすれば理想の唐揚げにたどり着けるか、あれこれ迷走してきた遍歴をくどくどしく語ります。胸焼け要注意。

最初に「好きかも」と自覚したのは18歳。

字ばっかりで退屈なので自家製唐揚げの写真を載せときます。
後述する薄衣バージョンの唐揚げです。

まず自分の数十年にわたる唐揚げLOVEの始まりをひもとくと、それは大学に合格して、都会でひとり暮らしを始めたときだったと思う。その頃から料理すること自体に抵抗はなく、越してきた部屋はそこそこまともなキッチンがある1Kだったので、それなりに自炊をして節約しようと思っていた。我が家はごく小規模だけれどもコメ農家。白ごはんさえ炊けば何とかなると思っていた。

けれども、あいにく大きな問題が立ちはだかった。確か引っ越してきた初日の晩、鼻歌まじりに実家から持参したコメを炊いたところ、ただならぬ事態が発生。炊飯器の蓋を開けるとたちどころにケミカルな臭みが漂ってきたのだ。原因は水道水のニオイ。今は改善されたかもしれないけれど、自分の住むその街の水道水は当時、料理や飲用にそのまま使うには正直キビシイ代物だったのである。何か混ぜ物が入っているのか、お風呂にしても水を張るとなぜか透明ではなく、うっすら青色がかっている始末。限りなく透明に近いブルー。ゆうてる場合か。

とにかく、出鼻をくじかれたかたちで自炊計画はにわかに頓挫した。今の自分ならチャーハンにするとか、何かしら対策を講じたに違いない。しかし原青年は情けないくらいに若かったのである。甘ちゃんのふにゃふにゃ坊やだったのである。水道水が臭い、それぐらいのことですぐ挫けて放り出してしまったのである。

そんな甘々の自分が空腹に耐えきれずに飛び込んだのが、駅前にあるホカ弁屋さんだった。なけなしのお金で唐揚げ弁当を買った。

今にして思えば、それが恋の始まりだった。特に意識もせず選んだ鶏唐弁当。たしかごはん大盛りで460円ぐらいだったように思う。中身はというと、唐揚げ4個と、こんもり白ごはんwithごま塩&カリカリ小梅。あとは申し訳程度の業務用ポテサラと、ピンク色をした正体不明のお漬物、唐揚げの下にはほぼ味のしないふにゃふにゃパスタ。それだけ。

我が青春の唐揚げ弁当。フリー素材をいじって再現しました。
まあ大体こういう感じです。わあ懐かしー。ひとりだけ勝手にエモい。

お店には失礼だけど、今にして思えばまあそれほどのご馳走とは言えないかもしれない。しかし、慣れない都会に単身乗り込んできて、その日の空腹を満たす術も失ったひ弱な青年には、ほっかほかの唐揚げとごはんはあまりに沁みたのだった。実際には鶏もも肉を包むぼってりめの衣は湿気を吸ってやわらかく、かなりジャンキーな味がする。ごはんは逆にやや乾いてしまいパサパサしている。でもそれでも温かいものを口に運ぶだけで、独り暮らしの不安な夜をいくらか慰めることができた。

掛け値なしにうまい、と感じた。

そこから、唐揚げは自分の淋しさと無力感を紛らわす最良の夕食となったのだった。

ってか飾らずに言うと、便利だしおいしいからめっちゃハマった。ただそれだけ。カッコつけてごめんなさい。

それから幾星霜、チキン南蛮に傾倒した中年期も経て、いまだにずっと鶏を揚げたものが好きでしかたない。

で。ここからがやっと本題。自宅で揚げる唐揚げのレシピで、自分がハマったものの遍歴について書いていこうと思う。たかが唐揚げと言っても好みや気分でレシピを使い分けたいほど、かなり仕上がりに差異が出るのだ。よろしければもう少し、おつきあい願いたい。

玉子と片栗粉の厚衣。飯島奈美先生の唐揚げ。

まずご紹介したいのが、長年にわたって我が家で唐揚げといえばこれ、と決めていたレシピである。それは飯島奈美先生が著書「LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん」で記していたもの。

詳しくは著書を読んでいただくとして、僭越ながらかいつまんで説明させていただくと、あらかじめお肉に下味をつけた後、玉子と片栗粉の衣をまとわせて二度揚げする、というもの。本のタイトルにある通り、そのものズバリ「なんでもない日」を大切にしたくなる、ド直球のレシピである。

特徴としてはさっくり厚めだが玉子を用いることで軽めに仕上がったフリッター寄りの衣。味付けはもちろん個人差があるけれど、基本的にどこまでもナチュラルで素直。ある意味究極の味わいで、もはや他のレシピになど頼る必要がない、と長年確信していた。

しかし人は哀しいくらい浮気性な生き物で(主語をいたずらに大きくしてみた)、生きている間に他の唐揚げも味わってみたい、と思うようになる。

お子さんも大好き、山本ゆり先生のレジ横チキン。

一、二年前、我々夫婦の前に彗星のように現れたのが、「DAIGOも台所」金曜担当でお馴染み、山本ゆり先生の「レジ横チキン」である。

これはけっこう飯島先生のレシピとは対角をなすガッツリ系の味付けで、その名の通りコンビニの「レジ横」にあるホットスナックのチキンをオマージュしている。肉自体にもニンニク、生姜、醤油でがっつり味をもみ込ませる他、最大の特徴がガリガリ食感の「ダブル衣」。鶏肉を漬け込んだ調味液をそのまま小麦粉でもみ込んでベースの衣をつくった後、その上から片栗粉をまぶしてガリガリ要素とする、という離れ業。

これにも年甲斐もなくハマった。鶏もも肉でぶん殴られたような強烈な味のインパクト。ガリっとした衣の中にしっかり味付けのジューシーチキン。そりゃあもう、ビールがいくらあっても足りない。

そして、これら厚い衣こそ至高、という時期を経て今大きな揺り戻しが来ている。そう、対極に位置する薄衣への回帰だ。

唐揚げ協会会長オススメ、有段者の薄衣。

ずっと分厚い衣一辺倒で来た自分だったが、地上波の番組「うさぎとかめ」を何気なく見て知ったレシピがあまりにも達人技すぎて度肝を抜かれた。

上記リンクのピンク色の画像のレシピなのだが、びっくりするぐらいノーガード戦法というか、「え、たったそれだけなのになんでそんなに強い(おいしい)の?」という、まるで武道の達人が指先一本で巨漢をひっくり返すぐらい何が起きているかわからない、鮮やかな「一本!」のレシピなのである。以下、僭越ながら模倣した画像と共にご説明します。

まず驚きなのが初手。水道水で鶏肉をジャバジャバ洗う。マジか。
こうすることで臭みや不純物を取り除くらしい。
洗った後は水気をキッチンペーパーなどでよく拭き取り、
続いて塩を分量もみ込んで、味の通り道をつくる
ほんで味付けは濃縮のめんつゆのみという潔さ。
ここにニンニク・生姜・コショウなどをお好みで入れてもいいけど、
まずいっぺんプレーンでお試しを。これで十分だと思い知ります。
で、たっぷりの片栗粉をまぶした後、ザルで余分な粉を極力落とす
この工程にも驚き。
我が家では粉を片栗粉:米粉=1:1でさらにサクサク感UPしています。
あとは3分間揚げたあと、バットに上げて余熱で火を通しつつ、団扇でよくあおぐ
表面の水分を飛ばすことで衣が湿気るのを防ぎ、よりサクサク衣に仕上げるのだそう。

たらーん、完成! いやすごくない? え、水で洗うんだ? とか、え、え、塩とめんつゆだけでいいんだ、とか、えええ、ザルで衣を落とすんだ、とか、ええええ、うちわであおぐんだ、とか、何もかもが予想外。

こう見ても、肉が透けるくらいの薄衣ですね。
でもきっちりうまい。書いてるそばからもう食べたい。

かくのごとく工程が驚きの連続で、簡単かつスピーディ、なのにきっちりおいしいというからもう完敗。衣はさっくり薄衣、でも物足りなくないし、中身の鶏肉は水分と旨みをきっちり閉じ込めて、プリップリのジューシー食感を実現。さすが唐揚げ協会の会長だけあって、さまざまな試行錯誤の末にこの製法にたどり着いたのだろうと唸らざるをえない。

結論。これからも唐揚げと生きてゆく。

何もしなかった無為な一日も、締めくくりに大好きな料理があればそれだけで充実感。
明日からも笑顔で生きていける。

ここまで書いた3通りのレシピのどれがいちばんだとかいうつもりはなくて、この3つを知り得たからこそ、今日はどっち寄りの唐揚げにしてみようとか楽しめるようになったことがやっぱり収穫としてはいちばん大きい。

競べることは無意味。だって鶏の唐揚げがそこにあるということ、それだけでもう掛け値なしに最高なんだから。スーパーのお惣菜の冷めて湿った唐揚げだって愛しい。

週一、いや週二でいけるな。何なら毎日いける。
チキンカツとチキン南蛮、鶏天のローテなら無限にいける。

幸い鶏インフルとか業界に大打撃が起きていなくて、鶏もも肉がここ数ヶ月ずっと安いのも嬉しいです。これからもずっと唐揚げを愛し、口中にほおばって、飲み物のように飲み込んで、腹いっぱい食べて、そのおいしさを心の底から喜べるように、せいぜい健康でいたいと思います。

ごちそうさまでした。



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