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『ことりのレストラン⑨』

午後5時の空は、まだまだ青いままです。
夜の準備をするように、うっすらと透明の月が顔を出していました。
「もうそろそろだ」
みんなの緊張している気持ちと混ざり合って、
しっとりと湿った春の空気が流れました。
一秒も一年に感じられるほど、スピンドンさんを待つ時間が
ゆっくりと過ぎていきます。

「スピンドンさん、こちらです」
「あれ?レストランはツリーさんの所だよね」
二人が話す声が近づいてきました。
パーチクはみんなと目を合わせ、一声さえずりました。

「ルリルリルリルリリリリ、ルリルリルリルリリリリ」

その合図でウサギさんとリスさんの音楽隊が花畑からひょっこり顔を出し、
陽気なジャズの演奏を始めました。
「え?」
そして、それぞれ動物たちが木々や林の陰から一斉に飛び出してきました。
タヌキさんとキツネさんは大きな花に変身して踊ります。

「ようこそ、ことりのレストランへ」
小鳥の兄弟はそろってスピンドンさんをお出迎えです。
「こ、これは一体?」
戸惑うスピンドンさんを、ペーペチが湖のほとりの席に座らせました。
「本日のご予約、スピンドン様です」
「店のリニューアルの相談じゃないのかい?」
「騙すつもりはなかったのです。ごめんなさい。本日は相談ではなく、
 貸し切りパーティーでございます。あちらをご覧ください」
湖岸に目をやるとそこには、力持ちの熊さん親子が掲げた
『スピンドンさん 旅立ち応援パーティー』
と書かれた横断幕がありました。
ツリーさんは、その様子をニコニコしながら眺めていました。

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