バリのヒーラーに風邪を治してもらうついでに理想のパートナーをお願いしたら叶った話①
2012年12月30日の夜、私は神が住む島「バリ島」に向かう飛行機の中にいた。
その日、私は発熱しており、乾燥した機内で咳が止まらない状態。
ひっきりなしに水を飲んでは、ゴホゴホと咳をしていた。
バリは何度も訪れた場所なのに、こんなに心細い旅は初めてだった。
37歳独身の私は、周りの友達が皆結婚しているため、必然的に一人旅。
しかし、いくら旅行好きと言っても、体調不良で海外一人旅は楽しめそうにない。
「1週間の滞在中に治るのだろうか?」と不安がよぎる。
バリ島に到着したのは23時を回っており、もうすぐ大晦日を迎える。
せっかく年越しを南国バリで過ごせるのに、心も体も重たくて、少しもワクワク感がない。
空港に迎えに来てくれた馴染みのドライバーに私は咳き込みながら質問してみた。
「バリ人は風邪をひいた時にはどうやって治すの?」
ドライバーは笑顔でこう答えた。
「ジンジャーティーを飲んで寝るのさ!」
しかし、それぐらいで今回の風邪は治りそうもないと思った私。
「バリ人は病院にはいかないの?」とさらに質問する。
すると「バリ人はね、バリアン(バリのヒーラー、呪医師、呪術師)に診てもらうんだよ」という返事。
その瞬間、私は心が踊るようなワクワクを感じたのだ。
バリアン・・なんだか面白そう!!
せっかくバリで病気したんだから、バリアンに診てもらおう!
健康だったらきっと体験できない何かが、私を待っていると直感した。
私はすぐさまドライバーに、「バリアンに会いたい!」とお願いした。
すると「いいよ!明日の朝10時にホテルに迎えに行くね!」と快諾してくれたのだ。
私は期待に胸を膨らませ、心待ちに次の日を楽しみに待った。
そして迎えた大晦日の朝、私は一晩中咳き込んでいたので、寝不足だった。
ドライバーは元気よく笑顔で約束どおり迎えに来て、有名なバリアンの元へと連れていかれた。
バリアンとは呪医師のことで昔からバリに存在しており、神とコンタクトし病気だけでなく悩みごとまで解決してくれる。
バリ人にとって、とても身近な相談相手なのだ。
バリには有名なバリアンが数名おり、この旅で私がお世話になったのはのは・・・
チョコルド・グデ・ライ
年齢は80歳をゆうに超えており、背が高くスラリとしたおじいちゃんだった。
なんとチョコルド先生は、日本の某首相が何度も治療に通ったという、バリのみならず世界中から患者が集まる凄腕ヒーラー。
噂はかねがね耳にしていたが、こんな簡単に会えることになるとはなんとラッキーなんだろう。
病人なのにウキウキしながらドライバーに案内された場所は、ウブド郊外のヌガリ村にある、チョコルド先生の自宅だった。
治療費は決まっておらず、その人が払える金額を支払うシステム。
全く相場がわからない私は、あらかじめ3000円程度を封筒に詰め込み、チョコルド先生の元へ乗り込んだ。
東屋のような壁のない屋根だけの部屋に通され、そこにはすでに患者が5〜6人並んで座って待っていた。
国籍は様々で、オーストラリア人、日本人、アメリカ人などなど。
さすがは世界に名が轟く有名バリアンだけある。
チョコルド先生は患者に症状を聞いて、小さな杖のようなもので足の裏を押して、体のどこが悪いか探して診察する。
体の悪い場所とリンクしている足裏のツボを押されると、患者は「ううう〜」と痛みに耐えきれず大きな声を思わず出してしまう。
そして、チョコルド先生は素早く病気の原因を診断し、薬を出したり、何らかの処置をする。
すると痛かった足裏のツボを再び押されれると、嘘のように痛みが取れている。どうやら治っているようなのだ。
待つこと1時間ぐらいで、私の番が回ってきた。
たまたまその日、チョコルド先生のもとに頻繁に通っていると言う日本人の女性の通訳がいた。
私が発熱していることや、咳が止まらないことを丁寧に説明してもらった。
するとチョコルド先生は私の肩や首、顔などを触り、例のごとく足裏を杖でグリグリと押してくる。
痛い。ものすごく痛い。声を出さずにいられないほどに痛い!
そしてチョコルド先生が私に下した診断は、意外なものだった。
「暴飲暴食したでしょ?肉をいっぱい食べたね。
胃が炎症を起こしてるよ。
咳が出るからって、たくさん冷たい水を飲んだでしょ?しかもすきっ腹で!
だから胃に水が落ちることで、スチームが発生して、それが原因でまた咳が出るんだよ。」
喉が原因じゃなかったの??
そういえば・・私はバリにくる前、連日のように忘年会が続いていて、焼肉だのステーキだの、加えて大好きなワインをガブガブ飲んでいたのだ。
そのせいで胃もたれした私は、機内食は全く食べれず、咳を止めるために冷たい水をたくさん飲んでいたのだ。
やばい・・・当たっている。
チョコルド先生は言った。
「胃に優しいものを食べて、ゆっくり体を休めなさい。」
そしておもむろに立ち上がると、庭の木の葉を数枚ちぎって持ってきたかと思ったら、小さなまな板の上で刻み始めた。
どうやらその葉は薬草らしく、真剣な面持ちでゴリゴリとすりつぶし始めた。
するとチョコルド先生は、すりつぶした葉っぱを口の中に全て詰め込んで言った。
「目をつぶりなさい」
え、何・・・・?
すごく嫌な予感はしたけれど、ここまで来て逃げるわけにもいかない。
私が覚悟をして目をつぶった瞬間、チョコルド先生は口から私の喉に向かって薬草をブブッーと勢いよく吐きかけた。
そして首にタオルを巻いて、少なくとも1時間はそのままでいるようにと言った。
この場にいた他の患者は、『自分もこうなるかもしれない』と恐ろしくなったに違いないと思う。
チョコルド先生のありがたい洗礼を受けた私は、なんだかもう全てに置いて吹っ切れた。
バリまで来て、おじいちゃんに薬草と言う名の唾をはきかけられた経験は、私をある意味怖いもの無しにしたのだ。
風邪の治療のついでに、私はとんでもないお願いをしてみたくなった。
というのも今回、海外で体調を崩したことで私はかなり弱気になっていたのだ。
いくら旅行が好きでも、体調が悪いと全然楽しめない。
こんな時、頼りになるパートナーがいてくれたら、安心できるのにと思ったのだ。
37歳になるまでに、何度となく「結婚したい」と思ったことはあったが、この時ほど切実に思ったことはなかった。
そこでまずは、チョコルド先生をよく知る日本人の通訳の方に聞いてみた。
「そろそろ結婚したいので、ベストパートナーに出会う方法を教えてほしんですけど、お願いするのはダメでしょうか?」
他の多くの患者が見ている前で、こんなプライベートな相談をして断られるのはちょっと恥ずかしい。
すると通訳の女性は、目を輝かせて言った。
「それは大切なことよ!絶対に言った方がいいです。
日本人はそういうお願いを恥ずかしがってしないの。
それってすごく勿体無いことなんですよ。ぜひお願いしましょう!」
そう後押しされた私は、チョコルド先生をまっすぐに見つめ、自ら英語でお願いしてみた。
「ベストパートナー」は人にお願いすることではないことは、私だって重々承知している。
でも、その時の私はお願いせずにいられない心境だったのだ。
チョコルだ氏は「う〜ん」と考えて立ち上がると、東屋の屋根に隠してあった小瓶を取り出した。
中身は少し黄色い液体でどうやらオイルのようだ。
「お腹を出しなさい」
チョコルド先生に言われるがまま、私はTシャツをめくりお腹をさらけ出した。
すると先生は小瓶の中のオイルを指先につけると、私のお腹に文字のようなものをサラサラ〜と書いた。
そしてめくったTシャツを元に戻し、ポンポンとお腹を叩いて一言。
私は深々とお礼をし、わずか3ヶ月でベストパートナーに出会えるという予言にちょっとだけ期待しながらホテルへ戻った。
喉にタオルを巻いたままホテルに到着し、部屋の鍵を受付まで取りに行った時に不思議なことが起きた。
それは、受付のバリ人の若い女性スタッフが、私を見るなりこう言ったのだ。
突然そんなことを言われてびっくりした私。
もちろん受付のこの女性に、私は何も相談もしていない。
首のタオルを見て「寝違えたの?」ならわかるが、「もうすぐ素敵な人に出会う」と言うバリ人の第六感に私は驚いた。
なぜそんなことがわかるのかと、私が彼女に尋ねると
「バリ人はね、バリアンに限らず一般人でも直感が鋭いものなの」
と彼女は話してくれた。
何やら私の雰囲気が今朝見たときとは変わったから、すぐにわかったと言うのだ。
当の本人は、首に薬草を吹き付けられ、1時間もシャワーを浴びることを許されず、なんだか凄い経験をしたという気持ちでいっぱい。
正直、恋愛運が上がったような自覚症状は全くない。
その後、私の風邪は少しずつ良くなり、特に恋愛に繋がるような出会いもなく、日本へ帰国した。
さて、私には本当に素敵なベストパートナーが現るのだろうか?
期待するなと言われても、やはり期待せずにはいられない。
しかし、ちょっとウキウキしながら日本に帰った私を待っていたのは、いつもと変わらぬ毎日。
どこにも新しい出会いなどなく、ただただ無情にも時間は過ぎ去っていく。
気がつくと約束の3ヶ月が過ぎようとしている。
この私の「結婚したい」という気持ちは変わっていなかった。
そしてこの3ヶ月をふと振り返って思ったのだ。
私は果たして素敵な彼が現れるような生活をしただろうか?
チョコルド先生頼みで、なんの努力もしてない私のところに、素敵な彼などやってくるわけがない。
そこで私は結婚相談所に登録し、真剣に婚活をすることを決意したのだ。
せめて出会う努力をしないと、運命の人がいたとしてもずっとスレ違いに違いない。
私はちょっと意気込みながら、誰かにこの決意を聞いてもらいたいと思った。
そうすれば、なんだが自分の決意がより強固になり、結婚ができそうな気がしたからだ。
60歳を超えても海外旅行を楽しみたいから、ベストパートナーを求めて真剣に婚活する。
これはごく普通の結婚動機に見えるかもしれない。
しかし、私の旅行を生きている限り楽しみたいという熱意は、ただの旅行好きのレベルではない。
というのも、私は海外旅行が大好きすぎて、単なる旅行ではもの足りず、32歳で仕事を1年休んでイギリスに留学したほど。
留学する際に、大学時代の友人には「キャリアダウンになるからやめた方いい」とまで助言されたぐらい私の旅行熱は周囲に理解されなかった。
だから私がどれほど旅好きで、旅なしでは生きていられないかを本当の意味で理解できる人は地球上でレアなのかもしれない。
私と同じ、あるいは私以上に旅が好きな人じゃないと理解不能。
しかし幸運なこととに、私以上に旅が好きな友達が一人だけいた。
「この人の旅行好きにはかなわない」
そう思える友人が、私には1人だけいた。
男友達だった。
彼は15年前にタイの安宿で知り合いった友達の1人。
その安宿には日本人が7名ぐらい宿泊しており、みんなで船をチャーターして遺跡巡りをし、晩御飯をナイトマーケットで食べた仲だった。
一緒に過ごした時間はわずか1日だが、たまたま年齢が一緒だったこともあり、観光の間にたくさん話をした。
そして、帰国後も年賀状のやり取りをするようになった。
その後、彼とは日本であったことはほとんどなく、私がイギリス留学をしたのも先に留学していた彼に影響されてのこと。
私が留学時代にお世話になった人の1人である。
最後にあったのは5年前だったが、私は思い切って久しぶりに電話をした。
「私、真剣に婚活します!結婚相談所に入るの!」
それを聞いた彼は一言。
「マジで?お金いくらかかるの?」
驚くことに婚活する理由を聞く前に、かかる費用を聞かれた。
私はいかに自分の決意が固いかを表明するために、はっきりと宣言した。
「私は本気で結婚しようと思ってるの。だから今回は20万円ぐらい入会にかかるところに入る予定!」
すると私以上に旅行好きな彼は、こう言った。
「え〜20万円も?もったいないよ。そのお金があれば1回海外旅行が楽しめちゃうよ。」
そんなことはわかっている。
でも60歳までに、一緒に旅行に行ってくれる人を見つけたいのだ!
私がバリでの一連の出来事を洗いざらい彼に話すと、思いがけない提案をされた。
「わかった。でもとりあえず、結婚相談所に入る前に、僕にあったほうがいいよ。」
実は彼も独身だったのだ。
お互い自分の好きなことをし続け、気がつけば周りはどんどん結婚して行く。
彼は海外で長く生活していたが、数年前に日本に帰国し、今後の人生をどこでどう生きるか模索している途中だったのだ。
この電話を切って、1週間後に彼は私の住む街にやってきた。
彼が住んでいた場所は、私の住む場所から飛行機で1時間半もかかる場所なのにだ。
彼は私の住む街に10日ほど滞在し、この短い時間で就職を決め、次の月から住み始めてしまった。
彼が移住してきたのは、私との結婚を見据えてに違いない。
でも5年ぶりにあった友達と、「お互い独身だから結婚しましょう」というのはいかがなものかと思う。
ここまで彼がしてくれることに対しても、申し訳ない気持ちにもなった。
私の本音を言えば、そもそも彼に恋愛感情を抱いていなかった。
なんというか、彼は私にとって気の合う友達で異性を感じさせない人だった。
しかし、一緒にいるとありのままの自分でいられた。
自分を良く見せる必要もないし、何よりもあっちこっち週末に小旅行に行くのが楽しかった。
気がつくと凄いスピードで、でもとてつもなく自然な流れで私達の結婚は決まった。
思い返してみれば、夫となる彼がやってきたのは、チョコルド先生とあってちょうど3ヶ月が過ぎたころだった。
ベストパートナーは予言どおり、期待を手放した時に現れた。
そして、出会ってから半年もたたないうちに結婚がとんとん拍子に決まった。
嘘のような話だけど、本当のことなのだ。
結婚が決まった私達は、チョコルド先生にお礼をいうためにバリに向かった。
再び私がチョコルド先生を訪ねたのは、治療を受けたあの日からちょうど1年経った、2013年12月31日の大晦日のことだった。
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