子供は「冬将軍」をサンタさん並みに大歓迎するというお話。
2023年1月25日、10年に1度あるかないかの強烈な寒波が、私の住む街にやってきた。
その日の朝、気温はマイナス。
強い風が吹き荒れていたものの、雪はほとんど降っていなかった。
「寒いだけで、雪なんて積もらないかも・・・。」と誰もが思ったと思う。
しかし異例の寒波に備え、8歳の息子の通う小学校からは、午前中のみで授業を切り上げると連絡が入った。
さらに、翌日は休校にするという厳戒態勢。
4歳の娘は、山の上の保育園に通っている。
万が一迎えに行けなくなったら困るので、ちょっと大げさかもと思いつつ休ませてた。
そんな物々しい雰囲気の中、呑気な私はいつものように車で片道40分の職場へと向かった。
午前中、チラホラと雪が降るのを横目に、私は普段通りに仕事をこなした。
「雪は降ってるけど、積もるほどじゃないな。」と安心し切っていた私。
昼ごはんを食べてほんの少しだけ昼寝をした。
1時間にも満たない昼休みが終わり、午後からの仕事に取り掛かろうとしたその時、私は目を疑った・・・。
窓の外が白い。
雪が積もり始めたのだ!
私が家に帰るには必ずバイパスを通る必要がある。
しかしこのバイパス、雪が降るとすぐに通行止になってしまうのだ。
「まずい!家に帰れなくなるかもしれない!!!」
私は慌ててスマホでバイパスの運行状態を調べた。
この表示を見た瞬間、私はニヤリと余裕の笑みを浮かべた。
「今ならバイパスに乗って帰れる!だって今年の私はスタッドレスタイヤを装備してるんだから!!」
私がスタッドレスタイヤを購入した経緯はこちらの記事でどうぞ。
私は上司に交通事情を説明し、早々に帰ることに許可をもらった。
急いで車に乗り込み、まずは1区間だけでも高速道路に乗ろうとしたら時すでに遅し。
「まだ昼の2時なのに、なんてこったい!」
私は渋滞している下道をかき分け、次にバイパス入り口に向かった。
しかし、通行規制中だったはずのバイパスも、すでに全面通行止になっていた。
なんと!まだ道路には雪はたいして積もっていないのに、すでに高速もバイパスも使えなくなるとは。
バイパスが使えなくなった私が、家に帰る道は2つ。
去年までの私なら、間違いなく1番を選んでいた・
しかし、今年の私は違う。
「なんてったってスタッドレスタイヤ!」
私は絶対に普段なら通らない山道を、万全な雪仕様トラックの後に続いて走った。
さすがに普通のタイヤの車は走っていないため、山道はガラガラ。
時折襲ってくる強風と、横殴りの雪にビビリながらも、私は1時間後には無事に帰宅することができた。
一方、仕事に残った同僚は16時半に仕事を終えたが、車で自宅に帰りつかなかったという。
同僚の自宅は職場から車で20分のごくごく普通の道のり。
しかし、上り坂でタイヤが滑りまくり立ち往生。
仕方がないので家族を呼び寄せ、近くの小学校まで車を押して運び入れ、そのまま車は乗り捨てて帰宅したそうだ。
同僚は雪の運転の恐怖で生きた心地がしなかったという。
同じくこの日、私の住む県では道端に車を乗り捨てて歩いて帰る人、車で一晩過ごす人など続出し全国ニュースになった。
だがしかし、子供達はこの冬将軍を大歓迎した。
なぜなら、学校や保育園は休めるし、滅多にできない雪遊びを心ゆくまで楽しむことができるから。
いつもなら眠る20時ごろ、雪にワクワクが止まらない息子と娘。
「散歩に行きたい!」と懇願しだした。
この寒さと雪を肌で、全身で感じるために雪合戦をしたい!
そして、雪だるまを作りたいというのだ。
もともと大学時代はスキー部の主将だったという私の夫。
昔の血が騒ぐのか、子供と一緒になって興奮しだした。
「よし!できる限りの厚着をして、散歩に出かけるぞ!」
8歳と4歳の子供を連れ歩くには遅い時間、しかも外は吹雪。
でも滅多にないチャンスかもしれないと私も思いなおし、家族全員で寒波の真っ只中に散歩に出かけた。
道路はすでに真っ白で、耳にシーンとした雪独特の静けさが響く。
子供達と夫は道端の雪を丸めてぶつけ合い、雪だるまを作りながら歩いた。
それを必死にスマホで録画する私。
当然そんな歩行者など誰もおらず、みんな足早に家路に向かっている。
ご近所をほんの少し散歩するはずだったのが、結局1時間ほど私達は夢中になって遊んでしまった。
そして、ひとしきり遊んで冷えた体を温めようと、財布も持ってないのにご近所のバルへと寄り道までした。
暖かいお店の中で、子供達はジュース、夫はなぜか生ビール、私はサングリアを頼んだ。
ホットコーヒーを頼むつもりだったのに、習慣とは恐ろしいものだ。
「お代は明日持ってきます」と、雪だるまをお店の入り口にプレゼントすると店主はにっこり笑ってくれた。
家に帰ると子供達は心から満足した様子で、すぐにコテっと眠りについた。
この日の夜、多くの大人達が寒波に困惑し、予定が狂って困ったはず。
しかし何の予定もない、自由に生きている子供達は、冬将軍の到来をサンタクロースと同じくらい大歓迎していた。
大人になると雪は楽しものではなく、厄介なものになってしまうのはなぜだろう?
それはきっと、子供にはない義務や責任という見えない何かを背負っているからだろう。
私はたまたま子供達のおかげで、この冬一番の寒波を忘られない楽しい思い出にすることができた。
翌日、予想通りバイパスは通行止め。
私は仕事を1日休んで、朝ご飯前から息子と仁義なき雪合戦を楽しんだ。
しかし、午後にはほとんど雪が溶けてしまい、いつもの日常が戻ってきた。
娘は少なくなった雪をかき集め、愛おしむように「小さな雪だるま」を作って冷凍庫に保管した。
私の住む街は、雪は年に1度積もるか積もらないかの温かい場所だ。
だからこそ、子供達にとって雪の日は特別。
今から雪が積もる日を、すでに首を長くして待っている。