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小説「夏眠」:サマー・ハイバネーション[1]序章
何か飲みたい気もする…でも、体が重い。
サイドテーブルにペットボトルの水があったかもしれないけど、手が伸ばせない。
何か面倒くさい。すべてにおいて面倒くさい。息するのも、トイレも風呂も会社も...ああ、もう ぜんぶ、面倒だ。
まあ、いいか。6月初旬の真夏でもないのに脱水でこのまま干からびてしまうのも、それも運命ってことで。
きのう、電話で芽衣子が言っていた。私は、どうやら「前世で色々やらかしちまったらしい」って。
彼女が最近の近況を聞いてきたので、私は上司にパワハラを受けてナーバスブレイクダウンして仕事にもろくに行けていない。
そして、昨年末に15年遠距離介護していたポイズンマザーが逝って色々とあと始末をやっと終えた。
と思ったらなんと20年ぶりに連絡をした姉が海外の移住先の香港から追い出されて銀行凍結で帰国するにも金がないとか何とかでヘルプし~うんぬんをつい話してしまったのだった。
芽衣子は言った。
「まあっ!葉菜ちゃん、それってカルマ、カルマよ!あなたって何だか業が深いのね。今のあなたの状況って前世のカルマを解消してるってことよ。大変だろうけど仕方ないわ。頑張ってね」
カルマかあ。仕方ないのか。頑張るのか。何を頑張ればいいのやら。
何が嬉しいのか、いやに芽衣子ったら活き活きと「カルマ」について語っていたなあ。カルマって何かブームなんだっけ?
とにかく、気力もない。体力もない。金もない。
ナイナイづくしって言葉聞いたことがあるけれど、それって私のこの状況のようなことを言うのだろうとこんな状態になって初めて腹に落ちた気がする。
この物語はそんな「ないないづくし」のアラフィフの冬眠に憧れてやまない海野葉菜(うみのはな)という女のストーリーである。