ルルレモンに学ぶ、顧客とのつながりを育てながら強いブランドに成長させる方法。
みなさんこんにちは。和田康彦です。 新型コロナウイルスの影響で、世界中の健康意識が高まっています。体力がないと命の危険につながると感じる人々が増加し、事態が収束した後も、健康を重視する動きは続くと思われます。 ころでみなさんは「ルルレモンアスレティカ」という会社をご存知ですか。女性にはご存知の方が多いと思いますが、男性にはまだあまり知られていないのではないでしょうか。
ルルレモンは、1998年、チップ・ウィルソンがカナダのバンクーバーで創業したアスレチックウエアのブランドです。レディス向けのヨガパンツの販売からスタート。質の高い商品とヨガブームが相まって、ヨガをライフスタイルに取り入れるヨギー(ヨガ愛好家)の支持を集めて人気ブランドに成長しました。今では、カナダ、アメリカを基点に中国、欧州、日本で約500店超を展開。Eコマースを強化することで業績を拡大しています。
ミッションは、顧客の目標達成をサポートすること
同社のHPでは、ルルレモンのストーリーを以下のように紹介しています。
「1998年にlululemonを創業したチップ・ウィルソンは、カナダ・バンクーバーの海沿いの街Kitsilanoに、昼はデザインスタジオ、夜はヨガスタジオの顔を持つスペースをオープンしました。
そこはただ単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブとして存在しました。そこに訪れるゲストといい関係を築き、彼らが何を求めているのか、どんな風に汗を流すのか、そして彼らの目標達成をサポートすることがチップのストアにとって大切なことでした。ゲストとのつながりを大切にするこの姿勢は、ブランド創設から20年が経ち、世界中で500以上のストア展開をする現在でも、ひとつひとつのlululemonストアに息づいています。」
2020年1月期の売上高は、前年比21%増の39億7929万ドル(約4297億円)、営業利益は前年比26%増の8億8911万円(約960億円)、純利益は前年比33.4%増の6億4559万円(約697億円)と二桁の増収増益を果しています。ちなみに売上に対する営業利益率は22.3%で、低迷する日本のアパレル企業からは想像もできない高い利益率を実現しています。
またコロナ禍の中での2021年1月通期決算は、売上高が前期比10.6%増の44億187万ドル(約4842億円)、営業利益は同7.7%減の8億1998万ドル(約901億円)、純利益は同8.7%減の5億8891万ドル(約647億円)と、パンデミックによる直営店の閉鎖が影響して利益は減少したものの、売り上げは堅調に推移しています。
さらに。2021年5~7月期の連結決算は、売り上げが前年比6割増の14.5億ドル(約1600憶円)、純利益が前年比約2.4倍の2億ドル(約230億円)と好決算を維持しています。
「ファッションスポーツウエア」という新市場を創造
ルルレモンのブランドターゲットは「最高にシェイプな身体を維持するためにヨガをライフスタイルに取り入れている、コンドミニアムを所有する32歳の成功したビジネスウーマン」です。つまり、日ごろはバリバリ働いて高所得を得ているものの、ストレスも多く健康には人一倍気を配っている働く女性」と捉えるとイメージしやすいかもしれません。
アメリカでは、日本と違いスポーツウエアを着たままジムに通い、運動後も汗をかいたウエアのままで自宅まで帰るのがスタンダードです。そこでルルレモンは、機能性を追求したスポーツウエアとファッション性を追求したストリートウエアのどちらも兼ね備えた「ファッションスポーツウエア」という新しい市場を創造します。今でいう「アスレジャースタイル」の先駆者として業績を拡大してきたわけです。
お店は、顧客との体験を共有するつながりの場
また、ルルレモンは、当初から「単にスポーツウェアを売る店でなく、地元のコミュニティが集まり、健康的な生活やマインドフルネスについて語り、可能性に満ちた人生を生きるハブ」として店を位置付けることで、顧客とのつながりを大切にしてきました。
現在では、地元のヨガインストラクターやトレーナー、アスリートなどをアンバサダーに任命。彼女たちに無料で商品を提供する代わりに、店で定期的に開くヨガやランニンググループの講師を務めてもらっています。
ルルレモンの各店では、アンバサダーを招いてのイベントを定期的に開催。顧客にルルレモンの世界観を体感してもらい、ブランドロイヤリティを高めることに成功しています。顧客はイベントに参加することで、アンバサダーや店員、参加した顧客同士の絆が育まれて、ルルレモンのファンになっていくわけです。
SNSで生活の質を高める情報を発信
また、ルルレモンでは、25-35歳のフィットネスに関心を抱いている女性に向けてのSNSにも力を入れています。フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ピンタレスト、ユーチューブを通して、質が高く人びとのライフスタイルに溶け込むコンテンツを発信。ユーチューブでのヨガレッスンをはじめ、インスタグラムではヘルシーな料理を紹介するなど、運動する時間だけでなく生活全体で活用できるコツやテクニックを提供することでミレ二アル世代からの支持を集めています。
EC化率50%を超えるデジタル時代の事業モデル
ルルレモンは、デパートなどに委託販売せず、直営店とECによる販売スタイルで業績を伸ばしてきました。つまり価格やブランディング面で主導権を確保し、ブランドロイヤリティを高めてきたことが成功の背景にあります。
また早くからデジタル化を推進。洗練されたウエブサイトやアプリを提供することで、売上に対するEC比率も50%を実現。またECにおけるフルフィルメントの効率化や個客に対するカスタマイズサービスの提供によって熱心なファンを育てています。
ECでは送料、返品料を無料にすることで、買い物のハードルを低くし、リピーターの獲得にも成功しています。その結果、フィット感に対する不満も減少し返品率を減少させる効果にもつながっています。
売らない接客、店員は「エデュケーター」
さらにルルレモンは、店員に客への売り込みを禁止していることでも有名です。エデュケーターと呼ぶ店員が、商品だけでなくヨガやフィットネスに関する情報を提供。ランニングコースやヨガの上達法も教えます。このように客と一緒にヨガやランニングをすることで、坪当たりの売上は全米トップ10に入っているというから驚きです。つまり売らなくていい、買わなくていいとなると店員もお客様も楽しくなり、結果的に両者の仲が良くなって売れていくのだと思います。
ルルレモン成功の要因には、①新たな市場の創出 ②EC化を推進するデジタルシフト ③アンバサダーによるコミュニティづくり ④ライフスタイルを豊かにするSNSでの情報発信等が考えられます。ただ最も重要なことは、それらの戦略を通して顧客とのつながりを醸成してきたことではないかと思います。