マーケティング4.0時代に求められるデザイナーとは
松下幸之助 一日一話
10月26日 良品を世に送る努力
どんなによい製品をつくっても、それを世の人びとに知ってもらわなければ意味がありません。つくった良品をより早く社会にお知らせし、人びとの生活に役立ててもらうという意味で、宣伝広告というものは、欠くべからざるものと言えるでしょう。
しかし、その一方で、そういった宣伝がなくても、良い評判を受け、大いに信用をかち得ている製品があります。これは、良品はみずから声を放たず、これを求めた人びとによって広く社会に伝えられたということに他なりません。そういう宣伝に頼る必要のない、ほんとうにすぐれた品質の製品を生み出し、世に送る努力を常に忘れてはならないと思うのです。
https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より
松下翁の仰る通りで、良品を世に送る努力は決して忘れてはいけないことだと思います。しかし、市場における消費者ニーズが大きくパラダイム・シフトした現状においては、良品をつくれば必ず売れるというプロダクトアウトの時代ではなくなったのもまた事実であると言えます。先に、潜在的な消費者ニーズがありそのニーズにマッチした良品を生み出すことが出来たケースにおいては、宣伝に頼ることなく社会に広まっていきます。つまりはマーケットインの時代であるということです。
具体的には、消費者ニーズが十人一色でモダンマーケティングが通用していた時代においては、製品を利用することで中の上のテクノロジーなどを得ることがニーズの大半となっていましたが、十人十色、更には一人十色へと変化した現状においては、消費者個人で異なる感性や本質的な購買行動を重視したポストモダンマーケティングによる製品開発が求められていると言えます。
経営学者であるフィリップ・コトラーの提唱するマーケティング理論に当てはめるならば、良品を生み出しそれを世に浸透させていくとは、マーケティング1.0の段階でしかありません。製品ありきの考え方であると言えます。しかし、時代はマーケティング4.0の時代へと変化し、消費者ニーズありきで考えることが求めれられています。マーケティング4.0とは、消費者の自己実現欲求を満たす製品やサービスが求められている段階であるということです。消費者の自己実現欲求を満たす製品やサービスを生み出すためには、先ず消費者が求めている自己実現欲求とは何かというニーズの把握から始まります。この目に見えない自己実現欲求を明確にする為の一つとして、インサイト調査などが必要になります。
インサイトとは、簡単に述べるのであれば、消費者の潜在的なニーズや本音と言い換えていいものです。仮に、日本においてアンケート調査などを行うと、本音の回答ではなく、体裁のいい建て前の意見しか集まらないということが、マーケティングの世界では知られています。アンケート調査の場合、質問の仕方や選択肢の有無によっても大きな影響を受けますし、アンケート実施者と回答者の間に信頼がない場合は、本音など答えるはずもありません。
例えば、マクドナルドのアンケート調査事例では以下のようなものがあります。店舗の店頭などで、担当者がお客様にアンケートを実施すると、もっとサラダのようなヘルシーな商品が欲しいという意見が多く集まります。そこで、アンケート結果の通りにサラダ関連の商品を充実させても、実際に売れるのは、クォーターパウンダーやビックマックといった、肉肉しいボリュームのある商品であり、アンケート結果とは異なる結果が出てきます。これは、消費者のインサイトではなく、建て前の回答を掴んでしまった悪例とも言えます。
インサイトについて更に述べるのであれば、インサイトにはポジティブなインサイトとネガティブなインサイトが存在しています。ここで注目すべきは、ネガティブなインサイトです。所謂、苦情やクレームと言ったものに近いものがあります。苦情やクレームというのは、消費者が建前ではなく本音で伝えてくるケースが多いものですが、ネガティブインサイトとは、言葉として直接伝わってこない不平や不満のことであるとも言えます。
更に、ネガティブインサイトに対して、ファンクショナルバリューやエモーショナルバリューを新たに加えることで、製品やサービスに消費者が潜在的に求めるニーズをマッチさせることが可能になります。
ネガティブインサイトに対してファンクショナルバリューを加えるとは、例えば、ある製品のここに取っ手がなく不便というインサイトがあったならば、新たに取っ手を付ければ直ぐに改善可能であり消費者のニーズを満たすことが可能になるということです。更には、感性型消費の時代である現状においては、ネガティブインサイトに対してどのようなエモーショナルバリューを加えるかが重要となります。このバリューにこそ、消費者の心を捉える新製品や新サービスを生み出すために必要となる多くの種が存在しています。
かつてのデザイナーのお仕事とは、マーケティング1.0における製品ありきから始まるニーズに対して、製品の外観を良くするためのデザインでしかありませんでした。しかし、素晴らしいデザインの製品を生み出したとしても、それを求めるニーズや売るための市場自体が無くなってしまったらどうなるでしょう。例えどんなに素晴らしいデザインの製品であろうとも、全くの価値を持たない製品となってしまいます。つまりは、消費者のニーズや市場自体を発展させることに繋がるデザインが求められている時代であるという訳です。市場自体を発展させるためには、消費者のインサイト把握が欠かせません。そのためには、モノや技術を中心に考えるかつてのデザインではなく、人を中心に考えるデザイン思考が必要になります。更には、モノから市場を考えるのではなく、市場からモノへと逆算して考えること。具体的には、ICTの進化・発展によって、消費者の購買行動モデルはAIDMAからAIDEESに変化したと言われています。AIDEESにおいては、Experience(経験)からEnthusiasm(熱中・心酔)を経て、Sharingされるような製品やサービスが市場では求められています。
これらの複雑な要素を満たす良品をデザインする能力を有する高度デザイン人材こそが、現状において求められているデザイナーであると私は考えています。
※記事:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ 2016年10月27日付 を読みやすいように補足・修正を加え再編集したものです。
中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp
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