MVVなき独断は失敗につながる
松下幸之助 一日一話
10月18日 独断は失敗につながる
仕事でお互いが注意すべきことは、会社の伝統、方針を無視した自分ひとりの考えで行動しないということです。人ひとりの知恵は、いかにすぐれていても、伝統もかえりみず、方針を等閑視して、せまい自分の主観から生まれてくる判断で行動すれば、かえって会社をマイナスに導きます。
私たちはとかく、ものの一面にとらわれて自己の考えのみを主張していると、その背後に流れる大きな力を見忘れてしまうものです。そこから大きな失敗が表われてきます。常に自己の背後にある流れ、つながりを見通す目、心を培い、その中で自己を生かすよう訓練していかなければなりません。
https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より
松下翁の仰る会社の伝統、方針とは、理念やミッション、フィロソフィー、或いは、ビジョンや戦略と言い換えていいのではないでしょうか。
企業組織にとって最も重要なことは、MOSTやMVVをいかに共有できているかであると私は考えています。「MOST」とは、Mission、Objectives、Strategy、Tacticsのことです。そして、「MVV」とは、Mission、Vision、Valueのことです。「Mission」とは、中長期的な視点においてその企業が社会の中で存続するための使命のことです。経営理念やフィロソフィーと置き換えてもいいものです。「Objectives」とは、イコール「Vision」のことであり、Missionを元に、組織が中期的にどのような行動を取るのかを示したもののことです。更に、「Strategy」とは戦略のことであり、Visionに具体性を持たせた行動指針のことです。加えて、「Tactics」とは戦術のことであり、戦略をより現場レベルで細分化した指針や技術のことです。最後に、「Value」とは、Mission、Visionにより社会にどのような付加価値を提供できるのかということです。
この中で、Mission、Objectives(Vision)というものは、組織における中心軸となるものであり、経営トップから新入社員の一人ひとりまでが共有しておかなければなりません。ここに独断は許されません。そもそもこの中心軸の共有が出来ないのであれば、その組織に属する意味はありません。中心軸が合わないのであれば、入社すべきではありませんし別の組織に行った方がいいものです。それを止める経営者は誰一人としていないでしょう。
次に、Strategyですが、これは企業組織の規模にもよりますが、大きい組織であればあるほど事業部門ごとで異なってくることも多々あります。その際は、中心軸を一にする事業部長レベルでの独断は許されると言えるでしょう。
そして、Tacticsについては、部よりも更に小さな課のレベルで、これもまた言うまでもなく中心軸を一にする社員ならば、独断が許されると言えます。
企業組織の強さというものは、異なる人々が集まりながらも同じ中心軸を共有していることにあり、これが組織の背後に流れる大きな力であり、つながりであるとも言えます。組織においては、この中心軸があってこそ自己を生かすことができます。
他方で、組織の指導者に求められるのは、独断であると言えます。独裁ではなく、独断です。一つの決断をする際には、様々な人々に話を聞き、衆知を集めるが、決する時は自らの責任で独りで行うということです。多くに諮って議論をするが、最終的には独りで決裁するという意味の「衆議独裁」とも換言できます。組織にとって最も良くないのが問題を起こす組織に多くある「会して議せず、議して決せず、決して行われず」という小田原評定になってしまうことです。
中国紀元前、戦国時代の遊説の士の言説を纏めた書物である戦国策の中には、「独断」や「衆議独裁」という言葉の調子を強めた以下の言葉があります。
「大功(たいこう)を成す者は衆(しゅう)に謀(はか)らず」(戦国策)
大きな仕事を成し遂げる者は、いちいち下の者に相談なんかしない。決断すべきときには自らの責任において断固決断するという意味です。
上記の戦国策の言葉を使用する際は、併せて貞観政要にある以下の言葉を心得る必要があると言えます。
「君の明らかなる所以の者は、兼聴すればなり。其の暗き所以の者は、偏信すればなり」(貞観政要)
明君の明君たるゆえんは、広く臣下の意見に耳を傾けるところにあるのだ。また、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下の言うことしか信じないところにあるのだ。という意味です。
指導者にとっては、この両輪なくしてどちから一方では負の側面が際立ってしまい、企業を正しい方向に導くことは難しくなってしまうのであると私は考えます。
中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp