MVVなき独断は失敗につながる
松下翁の仰る会社の伝統、方針とは、理念やミッション、フィロソフィー、或いは、ビジョンや戦略と言い換えていいのではないでしょうか。
企業組織にとって最も重要なことは、MOSTやMVVをいかに共有できているかであると私は考えています。「MOST」とは、Mission、Objectives、Strategy、Tacticsのことです。そして、「MVV」とは、Mission、Vision、Valueのことです。「Mission」とは、中長期的な視点においてその企業が社会の中で存続するための使命のことです。経営理念やフィロソフィーと置き換えてもいいものです。「Objectives」とは、イコール「Vision」のことであり、Missionを元に、組織が中期的にどのような行動を取るのかを示したもののことです。更に、「Strategy」とは戦略のことであり、Visionに具体性を持たせた行動指針のことです。加えて、「Tactics」とは戦術のことであり、戦略をより現場レベルで細分化した指針や技術のことです。最後に、「Value」とは、Mission、Visionにより社会にどのような付加価値を提供できるのかということです。
この中で、Mission、Objectives(Vision)というものは、組織における中心軸となるものであり、経営トップから新入社員の一人ひとりまでが共有しておかなければなりません。ここに「独断」は許されません。そもそもこの中心軸の共有が出来ないのであれば、その組織に属する意味はありません。中心軸が合わないのであれば、入社すべきではありませんし別の組織に行った方がいいものです。それを止める経営者は誰一人としていないでしょう。
次に、Strategyですが、これは企業組織の規模にもよりますが、大きい組織であればあるほど事業部門ごとで異なってくることも多々あります。その際は、中心軸を一にする事業部長レベルでの「独裁」は許されると言えるでしょう。
そして、Tacticsについては、部よりも更に小さな課のレベルで、これもまた言うまでもなく中心軸を一にする社員ならば、「独裁」が許されると言えます。
企業組織の強さというものは、異なる人々が集まりながらも同じ中心軸を共有していることにあり、これが組織の背後に流れる大きな力であり、つながりであるとも言えます。組織においては、この中心軸があってこそ自己を生かすことができます。
他方で、組織の指導者に求められるのは、「独裁」であると言えます。「独断」ではなく、「独裁」です。一つの決断をする際には、様々な人々に話を聞き、衆知を集めるが、決断する時は自らの責任で行うということです。多くに諮って議論をするが、最終的には独りで決裁するという意味の「衆議独裁」とも換言できます。問題を起こす組織に多く、組織にとって最も良くないのは「会して議せず、議して決せず、決して行われず」という小田原評定になってしまうことです。
ここで、「独断」と「独裁」の定義付けに対する補足を加えておきます。どちらも負の意味を含む言葉であり、私自身も混同して使用してしまっていたことがありますので、私が使用する「独断」と「独裁」の定義付けを明示しておきます。
翻って、中国紀元前、戦国時代の遊説の士の言説を纏めた書物である戦国策の中には、「独裁」や「衆議独裁」という言葉の調子を強めた以下の言葉があります。
大きな仕事を成し遂げる者は、いちいち下の者に相談なんかしない。決断すべきときには自らの責任において断固決断するという意味です。
自分勝手に周りの意見も聞かずに「独断」するというよりも、最終判断は上の者が責任を持って決断すると理解した方が妥当でしょう。
上記の戦国策の言葉を使用する際は、併せて貞観政要にある以下の言葉を心得た方がいいでしょう。
明君の明君たるゆえんは、広く臣下の意見に耳を傾けるところにあるのだ。また、暗君の暗君たるゆえんは、お気に入りの臣下の言うことしか信じないところにあるのだ。という意味です。
改めて、指導者が企業を正しい方向に導く為には、狭い視点や狭い視野に陥らない為にも、部下や周りの意見にはじっくりと耳を傾け、聞くべきは聞いた上で、決断を求められる場面では、自らの責任をもって決断を下すことが求められるのであると私は考えます。