見出し画像

冷たい雨

気分が落ち込んだ日は、雨でいい。

部屋にいては、ますます気が滅入る。

傘だけ持って外へ飛び出す。

暗く、激しい雨の中を歩く。

ガンガン歩く。

自分が嫌になったら、自分をいじめればいい。

冷たい雨の中、濡れながら歩けば気分にぴったりだ。

どうせ、傘と雨で人から顔は見えない。

自分をののしりながら、髪も服も靴も濡れながら歩く。

空を見上げれば黒い雨雲と、顔を叩き、目に染みる雨粒だけが見える。

街の明かりも、車のヘッドライトも滲んで泣いているようだ。

震えながら歩いていれば、やっと自分に対する怒りも小さくなってくる。

代わりに諦めの気持ちが大きくなってくる。

しょうがない,所詮、この程度の奴なんだと。

もっと若いころは、頭を木にぶつけたり壁を殴ったりして体を痛めつけた。

度重なると、自分の体を傷つけるのは馬鹿げたことだと納得した。

そのあとの手当てや、後遺症にさらに腹を立てるからだ。

喜怒哀楽と言うが、怒と哀ばかりが多く感じる。

このままでは、喜びと楽しみが少なすぎる。

人生これじゃ   嫌だな。

考え方を変えるしかない。

歩き疲れて、憑き物が落ちたようにとぼとぼと帰る。

こんな格好じゃどこにも行けないし、店にも入れない。

とりあえず、帰って火傷しそうな熱いシャワーだ。

バスルームで、冷たい缶ビールも飲んでやる。

熱いシャワーと冷たいビール攻撃でこの腑抜けの脳味噌をびっくりさせてやる。

それで、「ああ気持ちがいい。今日は最高だ!」とでも、叫んでやろう。

ざまあみろ。人生。


絵 マシュー・カサイ「冷たい雨」 水彩・ペン



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?