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風と荒波

今日は風が強い。

ここのところ、ろくなことがなかった。
気分は、ドロドロに落ち込んでる。

そうだ、海を見に行こう。

かなり荒れた天気になりそうな予感。

海に着いた時、見慣れた景色が激変していた。
静かで時に優しさまで感じた海が、暴れていた。

轟轟と鳴る風と一緒にダイナミックに波が躍っていた。

海の色は黒く、波頭は白く激しく猛っていた。

岩場のほうを見ると、轟音とともに大波が巨岩に激突し派手に水しぶきをあげている。

顔にシャワーのように水が飛んでくる。

空には奔る雲と、風に翻弄される海鳥が数羽見える。

雲に日光は時々遮られ、海岸は明暗を繰り返す。

恐怖を感じるような風景だが、轟音と強風と海水を浴びているうちに心がウズウズしてきた。

全身ずぶ流れで、震えているのに、気分がいい。

風と荒波は仲のいい飲んだくれの荒くれのように暴れ回っている。

気分よく、鼻歌でも歌いながら喧嘩してるようだ。
あっちでぶつかり、こっちでひっくり返る。

ちっぽけなことでしかめっ面している小さい奴を笑っていやがる。

見ているうちに叫びたくなった。

大声を出してみたが、全く響かない。

荒波に笑われた気がした。

そんなもんかと言われた気がした。

バッカヤロー!  喉が裂けるほど叫んでみた。

こんな時にこんな場所で笑いながら大声を出している。

体も風に押されてふらつきながら思った。

いいぞ、いいぞ。今日は気分がいいぞ。

大波に飛び込みたい衝動を抑えながら笑った。



絵 マシュー・カサイ「風と荒波」水彩・ペン

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