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ユング心理学で映画『パプリカ』を読み解く①


はじめに

皆さんこんにちは。

このnoteでは、2006年に公開されたアニメ映画、筒井康隆さん原作の『パプリカ』の解説をしていきたいと思います。

この作品、平沢進さんの「パレード」や、登場人物の一人である島所長の発狂シーンなどでアニメファンの間では有名な作品ではありますが、残念ながら内容について言及されている方は非常に少ない印象です。

平沢さんの特徴的な楽曲や、狂気的なシーンがいくつもあることからいわゆるイロモノ、どこかおかしい作品だと思われていますが、それだけで完結させて良いものだとは思いません。内容としてはとてもわかりやすく、私たちの人生の指針を示しているものでもあります。

本稿では、最初にこの作品を読み解くためのヒントとなる
ユング心理学を簡単に説明したのちに、作品の解説に入っていきたいと思います。


1.ユング心理学とは


カール・グスタフ・ユング 
1875-1961

ユング心理学とは、スイスの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユングが提唱した心理学になります。
ユング心理学は、意識や無意識領域を取り扱う深層心理学であり、フロイトが創始した分析心理学とならんで、分析心理学を創始しました。

ユングとフロイトではこの「無意識」をどう扱うかが異なります。フロイトは無意識を性欲の源と考え、自分にとって不都合なものを抑圧したネガティブなものとして捉えたのに対して、ユングは創造的で人格の完成に向かわせるポジティブなものとして捉えています。

簡単に言うと、フロイトは「私」という人間の存在の基盤を意識に求めたのに対して、ユングは意識と無意識を合わせたものであるとし、無意識を高く評価していました。

現代人としては、フロイトの感覚に近いのではないのでしょうか?
このnoteを読んでいる方は、「私」となんだと思いますか?
体、脳、感情、思考、感覚、心…
このように私たちが知覚できる範囲のものは、すべて意識的なものになります。私たちはこれらを私だと思っています。
しかしユングは、本当の「私」とはこれらとは異なる無意識も含んでいるとしました。
次は、ユング心理学における用語の解説に入ります。

2.用語解説(意識・自我・無意識・自己・影)


心の家路 依存症と回復、12ステップのスタディ
「ビッグブックのスタディ(61)解決はある 12」
https://ieji.org/big-book-study/big-book-study-061


まず「意識」とは、一般的に自分の状態や周囲の状態を感知しているこころの状態になります。「何か」を見ている主体とも言えるでしょう。この文章を感知しているのも意識です。

そしてこの意識的な心の中心が「自我」になります。
一言で言うと「私と私以外のものを位置づける心の働き」です。私たちが言語を用いて行っている思考も自我です。「私」と言い換えてもいいでしょう。
ユング派分析家の河合速雄は、自我の働きとして以下を挙げています。

・視覚や聴覚を通じての外界の認知
・自分の内的な欲望や感情の認知
・みずからの意思決定

この文章を視覚で知覚する(見る)のは意識になります。
この文章を読むのは自我になります。

自我は分別する働きを持っています。要は、この文章も含めて、あなたが見ているものすべては、本来何者でもないわけです。
例えば、リンゴもリンゴという存在が何かを知る前は、私たちはリンゴを認識することができません。リンゴが何を指すのかを知って初めて、リンゴが生まれます。

これは「私」という存在もそうで、最初は「私」は存在しません。年齢を重ねていくうちに、赤ちゃんであれば名前を呼ばれることや周りの反応、五感によって自我が形成されていきます。

これらの分別する働きが自我であり、私と私以外のものを位置づけています。

「無意識」とは、人生において私たちが経験したすべてのことが蓄積されている貯蔵庫のようなものになります。
私たちが、個人的な経験をして忘れたものや印象的でないもの、自分自身が受け入れられずに抑圧したものは無意識へと格納されます。

例えば、昔の写真を見た時に、忘れていた記憶を思い出すことは、無意識が意識へとのぼってきたものだと考えられます。

また、自分の性格を変えようと思っても、なかなか変えられないのはこうした小さいころから積み重ねた無意識が意識に影響をもたらしているからです。

今まで経験したことすべて蓄積しているわけですから、無意識は私たちにとても大きな影響力を持ちます。このことから意識は無意識の5-6%でしかないと言われ、氷山の一角とも表現されます。

このことからも、私たちが無意識の影響を大きく受けながら日々を過ごしていることがわかると思います。

そして意識と無意識を理解するうえでの重要な概念が
「自己」になります。自己は意識と無意識を含んだすべての心の中心だとユングは考え、自己には意識と無意識を統合する働き、全体性を回復する機能があるとしました。

通常私たちは、意識と無意識が分かれており、全体性を持っていない状態で生きています。そしてこの意識の中心である自我が私であると思っています。

しかし、心全体で見てみると自我は一部でしかなく、この一部を私と思うことは自分を制限することにもなります。

そして「影」、これは自分の受け入れられないものを無意識の中に抑圧したものです。またこの自分の受け入れられない要素を相手に押し付ける心理機能を「投影」とよびました。

わたしたちは、人生を通してこうした自分の欠点や短所、嫌な部分といった無意識に受け入れて、無意識と意識とを統合していきます。私たちはこれによって全体性を回復させ、自己を実現することができます。
ユングは、こうした心の相補性から全人格の中心は意識的な中心の自我ではなく、無意識と意識を含んだ心の中心である自己としました。

おわりに

以上がユング心理学の簡単な概要になります。
次のnoteでは、以上のユング心理学の概念を用いて物語全体の解説をしていきます。

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