中国リオープンとインフレ懸念
ここにきて中国発のグローバル・インフレ懸念に注目が集まっている。昨年11月に発生した中国全土でのデモを経て、中国政府は「ゼロコロナ」政策を急速に解除した。市場は「ゼロコロナの解除は2023年にかけ段階的に行われる」とみていたこともあり、中国の突然の政策転換は投資家に考える暇を与えないまま現実の変化を足下まで突き付けている。
現在、投資家は中国景気の回復ペースが想定以上に速まるリスクを見始めている。原油、鉄鉱石、銅価格はそれぞれ昨年11月~12月にかけて底打ちしている(下図)。原油価格はゼロコロナ解除による人流回復を、鉄鉱石や銅価格は中国政府の不動産抑制策緩和をそれぞれ織り込んでいるとみられる。
こうした資源価格の上昇が、ようやく足下で落ち着きだしたグローバルのインフレに再び火を着け、各国中銀を再度引き締め方向へ走らせるリスクはないだろうか。
まず指摘すべきは、国際商品市場における中国の存在感の違いである。2021年時点で、鉄鉱石、銅、原油の世界輸入における中国のシェアはそれぞれ70%、58%、24%である(下図)。これはそのまま、中国の景気動向と資源価格の感応度の差となる。鉄鉱石価格は中国需要の変化により大きく変動する性質があり、原油価格はそうでもない。鉄鉱石価格のV字回復をそのまま資源全般、特に原油価格に当てはめるべきではない。
次にリオープン後の中国景気の回復ペースであるが、今のところ市場では、1.米国のようなV字回復、2.緩やかなナイキ型の回復、3.緩慢なL字型の回復、という3つが大まかに想定されている。欧米メディアは1を煽る向きもあり、市場は否が応にも警戒を強めざるを得ないところとなっている。1はそのまま、グローバルなインフレをもたらした強すぎる米景気の再来を想起させる。
この点、強すぎる米景気の元凶である「過剰貯蓄」の存在が中国でも指摘され始めている。中国の家計貯蓄額(GDP比)は、米国と比較しても大差ない水準に積みあがっている(下図)。本noteでは「米国では大規模な家計支援が打ち出されたが中国ではそれが無く、家計の購買力増強に差がある」と見てきたが、数字の上では大差ないことが確認された。
それでも、株式や不動産など金融資産・実物資産の増価は米中で天と地ほど差が開いている(下図)。これだけ値動きが違えば消費余力・意欲にも大きな差があると考えるべきだろう。中国リオープン後の消費回復は米国ほどの爆発力はないと考えられる。
加えて、より重要なのは米国ではFIRE層の発生により強烈な賃金上昇圧力が働いた一方、中国にはそのような余裕がない点であろう。さらに、米国ではコロナを機に帰国した外国人労働者も人出不足を助長したが、この点中国では失業率が上昇しており、幸か不幸か働き手は余っている(下図)。米国のような人手不足で困る状況でもなければ、インフレと賃上げがスパイラル的な状況に至る蓋然性も低い。
以上、中国経済の再開はグローバルインフレを再加速させるには力不足であることを述べた。とはいえ、経済再開自体は一部セクターにとって恩恵をもたらすことは間違いないと思われ、この点は米国でのリオープンで何が起きたかを下敷きにして考えればよいだろう。即ち、ロックダウン中の消費は自動車や家具、家電など耐久消費財に向かい、ロックダウン後は人と会うための服飾、靴、バッグ、化粧品などの売れ行きが伸びると考えられる。先週の中国主要指標でも、小売売上高のなかで服飾・帽子・靴や化粧品の売れ行きは激減したが、今後はそうした分野でのリベンジ消費の力強さを探る展開となろう。全体ではなく個別セクターの動きに注目したい。
※本投稿は情報提供を目的としており投資を勧誘する意図はありません。