忘れられないお客様
閉店時間となり、看板をクローズにして店内に戻ろうとしたときだった。
「すみません…お店おしまいですよね?…白いバラが1本欲しいんです…」
横断歩道の信号を青になった瞬間に走ったけれどお店の時間に間に合わなかった。ダメならいいんです…
とそのお客様は息を切らしながらも申し訳なさそうにいう。
もちろん私は、
「大丈夫ですよ、どうぞ」
と店内に案内した。
店内にあった白バラは1種類
こちらでよろしいですか?
と尋ねたら
「はいっ!」
とそれは美しい笑顔だったので、私も嬉しくなる。贈り物とのことだったので、どなたに贈るのですか?と聞くと
「実は…とても尊敬して、ずっと大好きだった歳上の男性がいて。想いが叶ってお付き合い出来るようになって、今日で1年なんです。これから会うので、花を贈りたくて。白バラ1本の意味が、尊敬なんです。」
と、はにかみながらもとても幸せそうな表情で話す彼女がとても素敵で。1本の花で贈る側も包む側もこんなにも幸せになれるって、なんだか胸が熱くなる想いだった。
白いバラと深い緑が映えるようにシックな色合いで包んで、群青色のリボンで結んで。
受け取った彼女は頭のてっぺんが見えるくらい深くお辞儀しながら、
「ありがとうございます!きっと彼も絶対喜びます!」
とお店を出るまで何度も振り返って笑顔で挨拶してくれた。
と思った。
その時の白バラの名前が
アムール ブラン
アムールは愛 ブランは白
この時のためにこの瞬間このバラがあったのではないかというくらいの偶然
白いバラの花言葉
正直、花屋に勤めていると花言葉に振り回されることもある。花によっては本やサイトによって全然違う意味のこともあるので、誰かに花を贈るならその季節、1番旬の美しい花を。とも思う。
でも、このお客様の相手を思う気持ちのこもった表情を思い出すたび、花贈りっていいなぁ。とあらためて思ったのだ。
ありがとう よう