
秋の夜長に。「丘の上の本屋さん」
私は「日常」を描く映画やドラマを好んでよく見ます。
ちょとした人と人の会話や風景を通して、深く共感をし、心を温かくし、時にせつなく、やるせなく、悲しく…といった感情で心を揺さぶられるのに、十分すぎるドラマや物語が、「日常」の中にあるからです。
だからこそ、その当たり前の「日常」がとても丁寧に描かれていて、そんな風に私も丁寧に「日常」を過ごしたいと思ったりするのです。
さて、この作品は、イタリアの風光明媚な丘陵地帯を見下ろす丘の上にある、小さな古書店の店主リベロとそこに足しげく通う移民の少年エシエンとのやりとりがお話しの中心になっています。
本を買うお金がないエシエンに、店主は1冊貸してあげるところから、ふたりの交流がはじまります。
最初は、漫画が好きだと言ったエシエンに好きなものを選ばせます。
その後、エシエンの「本を読む」楽しさが膨らんでいくのを店主リベロも楽しむように、一冊ずつ、選んで渡していきます。
そして、一冊読み終えるごとに読後の感想について、二人は話しをします。
「本は2度読むんだよ。」
そう、リベロが教える通り、エシエンは1冊読み終えるごとに、本から感じること、考えることが深まっていく様子に、こちらもワクワクしました。
一方で、この二人のやりとりともうひとつ、並行して流れる物語があります。それは、店主リベロが読む、常連のお客さんが拾ってきた、「日記」です。
日記は、若い女性が書いたもので、パートナーとの恋愛で揺れる気持ちや故郷を捨てアメリカに渡る気持ちなどがつづられています。
この日記を読むとき、リベロが必ず、手元のオルゴールをBGMにするのですが、この時間がリベロにとって特別な時間なんだと感じさせてくれました。
私も、まるで本を読んでいるのと同じような感覚になり、この女性の人物像や人生に想像を巡らせながら、リベロの心の声の朗読に聞き入り楽しめました。
ほかにも、この本屋さんには、ユニークなお客さんがたくさん訪れます。
探している本から、その人の考え方や思考、趣味、そして「人」が見えます。
そんな様々な「本」を中心に描かれるシーンから、「本」そのものが持つ、奥深さと魅力を感じます。
人物のやりとりの合間合間の、“イタリアの最も美しい村”のひとつ、チヴィテッラ・デル・トロントのすばらしい景色や、石造りの歴史ある街並みの映像が、物語をファンタスティックに演出していて、作品全体が芸術的です。
100人いれば100通りの「日常」があります。
見る人によっていろんな感じ方ができる「余白」を感じ、本好きさんだけでなく、どなたにも楽しめると思います。
1時間24分と短めの作品。
秋の夜長に、温かい飲み物を用意して。
心も体も温かくなれる映画、おすすめします。