見出し画像

戦争で引き裂かれた恋人達

シャンソンは大衆の気持ちを歌うというその特徴から言って、時折戦争の影がつきまとう。J'attendrai(待ちましょう)のように、当初は恋人が自分に振り向いてくれることを望む内容で書かれたが、時勢に影響されて戦争に召集された夫や恋人を待つ女性たちが愛唱することになったものもある。
一方で、Seule ce soir(今宵ひとり) のようにパリを占領していたナチスドイツ公認のラジオ放送で度々流され、ヒットしたシャンソンもある。歌っていた Léo Marjane はナチス司令官の愛人だったという噂もある。
まあ、それは良しとして、今回は、戦争によって引き離されてしまった恋人達をテーマにしたシャンソンの歌詞に迫ってみたいと思う。

ドイツ兵との禁断の恋

ダリダのレパートリーに Mein Lieber Herr(私の愛する人) というドイツ語の題名のシャンソンがある。

Elle lui disait "mein lieber herr
S'il devinait que c'est vous qui m'avez sauvé
Ne partez pas mein lieber herr
Vous voyez bien je n'ai plus rien que vous sur terre"
Il répondait "surtout n'écoute plus ta peur"
Avec un peu d'espoir le monde sera meilleur
彼女は彼に言っていた。
「私の愛する人。あなたは私を救ってくれた人。
だから私のもとを離れないで。
私にはあなたしかいないの。」
彼女の心配には聞く耳を持たず、彼はこう答えていた。
「少しの望みを持っていれば、世界は良くなると。」

この歌詞だけでは事情はよくわからないが、フランス人の孤独な女性をドイツ兵が救って、二人は愛し合うようになったに違いない。女性の方が「私のもとを離れないで。」と言っているのは、彼がやがて戦争に旅立つことを暗示している。

Auf Wiedersehen lieber
Bientôt je reviendrai
De Berlin à Paris
La guerre sera finie
Les arbres seront en fleur
Les hommes auront du cœur
Je te promets, je reviendrai
Auf Wiedersehen lieber
愛する君、近いうちに帰って来るよ
ベルリンからパリに 戦争は終わるさ
樹々に花が咲き、男たちは心を取り戻すよ
きっと帰って来ると誓うよ、愛する君

ここから先は

2,421字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?