十川ジャンマリ

音楽ライター(フリーランス) シャンソン・日本歌謡を中心にコラムを書いております。

十川ジャンマリ

音楽ライター(フリーランス) シャンソン・日本歌謡を中心にコラムを書いております。

最近の記事

シャンソンが時々演歌に聞こえる理由

秋にはシャンソン教室の発表会が盛んに行われる。 偶に招待されて出向くこともあるが、時々演歌のようなシャンソンに出逢うことがある。(特にアマチュアの場合がそうだ。) シャンソンらしい歌詞やメロディであるにもかかわらず、どうして一部の人が歌うと演歌になってしまうのか? 今回は、その理由を考えてみたいと思う。 演歌歌手が歌うシャンソンは? 極めて逆説的な言い方かもしれないが、演歌歌手が歌ってもシャンソンは演歌っぽくはならない。 理由は、演歌歌手が演歌とシャンソンは共通点もあるが

¥100
    • もう一つの「愛の讃歌」

      エディット・ピアフが歌う「愛するって素晴らしい」”Il fait bon t'aimer” が1950年のリリースだと気付き、私は驚愕した。 その理由は、前年の1949年にある。 それは、ピアフの人生にとっておそらく最も重要な年だったからだ。 その年の10月28日に彼女の最愛のマルセル・セルダンが飛行機事故で亡くなったのだ。 ピアフにとって人生で一番衝撃を受けた出来事、その傷がまだ癒えない翌年に、「愛するって素晴らしい」という名のシャンソンを歌うとはどういうことなのだろうか?

      ¥100
      • 丸山明宏が再構成したメケメケの物語

        丸山明宏(美輪明宏)の最初のヒット曲は、「メケメケ」だ。 この曲はシャンソンで、シャルル・アズナヴールが作詞し、ジルベール・ベコーが作曲し自ら歌った。 アズナヴール版と丸山版では、ストーリーが異なる。 どこがどう違うのか、丸山はどういう意図で物語を書き換えたのか、について考察してみたい。 元歌はどんなストーリー展開なのか? マルティニークの港で埠頭に大型船が停泊している。 若い男の腕の中で娘が泣いている。その船で彼が航海に出てしまうからだ。 「あなたがいなくなると、さびし

        ¥100
        • 「実存主義」を軽々に扱うことなかれ!

          シャンソンについてブログを書いている或る人が、「実存主義」について触れていたのだが、その扱いがあまりにも軽すぎて驚愕してしまった。 彼によると、「実存主義」は戦後すぐのパリで流行した一つの考え方で、既存の社会的枠組みにとらわれない自由な生き方を示すものだったということになっている。私は、呆れて批判のコメントもする気になれなかった。 世代の差もあるだろうが、少なくとも団塊の世代の人たちまでは、実存主義にかなりの影響を受けて生きていた。それに従うか、それに反発するか、それを無視

          ¥100

          ブラッサンスの「幸せな愛はない」

          もともとはレジスタンスの… フランス人にとって、フランス革命、五月革命とともに重要な歴史的出来事は、レジスタンスだ。第二次世界大戦中のナチスドイツ占領下において、その軍事的支配に抵抗した人たちは英雄である。 ルイ・アラゴンは、まさにナチス・ドイツがパリを占領していた最中の1943年に、"Il n'y a pas d'amour heureux" (幸せな愛はない)という詩を書いた。当時出版物は全てナチスの検閲を受けるので、この詩は暫く秘匿され、翌1944年(パリ解放の年)に

          ¥100

          ブラッサンスの「幸せな愛はない」

          ¥100

          シャンソンが哲学的なのではなく...

          シャンソンの哲学性の有無について切り込む前に、まずフランス映画の話から始めたい。 5時から7時までのクレオ アニエス・ヴェルダのこの映画 "Cléo de 5 à 7"(1961年)のことを「哲学的」だと評する人がいるが、私にはその趣旨がまったく理解できない。 女優で歌手のクレオが精密検査を受けて、その日の午後7時に担当医に結果を訊きに行くことになっている。午後5時頃からの彼女の様子を街の実際の様子を織り交ぜながらドキュメンタリー・タッチで追いかけて行くという映画だ。上

          ¥100

          シャンソンが哲学的なのではなく...

          ¥100

          「枯葉」というシャンソンは続く

          秋になると、日本では必ずと言ってよいほど「枯葉」が歌われる。 ジャック・プレヴェールが作詞し、ジョゼフ・コズマが作曲した名曲だ。 最初から大ヒットしたように思われるかもしれないが、実は、難産の末にリリースされた。その経緯から、まず説明したい。 日の目を見ないところだった このシャンソンは、映画「夜の門」の挿入歌として作られたものの、監督のマルセル・カルネが好きではなかったと言われている。 初めは映画の中で出演女優が歌うシーンがあり、その吹き替え録音をコラ・ヴォケールがして

          ¥100

          「枯葉」というシャンソンは続く

          ¥100

          傷ついた鳥のようだったアラン・ドロン 

          フランス語で "l'oiseau blessé" (傷ついた鳥)という言葉は、「人が触れることが難しい繊細で壊れそうな存在」という意味で用いられる。 デビュー間もない頃のアラン・ドロンは、そうした印象を人々に持たれていた。映画館の観客だけではない、実際にコミュニケーションしたことのある映画関係者も同じように感じていたと言う。 この「傷ついた鳥」をコンプリートに表現するとすれば、"l'impression de l'oiseau blessé, de désespoir et

          ¥100

          傷ついた鳥のようだったアラン・ドロン 

          ¥100

          アラン・ドロンとジュリー

          はじめに 安井かずみと阿久悠には接点が見いだせない。二人が仲が良かったというのも聞いたことがない。 だが、二人とも別々に、沢田研二のことを「アラン・ドロンに似ている」と言っているのが興味深い。 今回は、二人の作詞家が沢田研二という素材を使い、どのようにアラン・ドロンを表現しようとしたかを検証していきたい。 安井かずみの場合 安井かずみは、1968年7月にザ・タイガースに「シー・シー・シー」で作詞をし、初めて沢田研二(ジュリー)に絡む仕事をしていたが、本人と直接係わったわ

          ¥100

          アラン・ドロンとジュリー

          ¥100

          私のアンチ「出羽守」宣言

          皆さまは、「出羽守(ではのかみ)」という俗語をご存知だろうか? 出羽守とは、本来出羽国の国司を表す役職であるが、国名の「出羽(でわ)」と、「海外では」や「欧米では」のような連語の「では」を掛けて、主に揶揄を込めて使われている。 私は、いわゆるシラケ世代に属するが、その上の団塊の世代、そしてさらに上の戦後派(アプレゲール)と呼ばれる世代の人に、「出羽守」が多かったと思う。 イレブンPMと大橋巨泉と 真偽のほどは定かではないが、僕らが思春期の頃、こんな噂があった。 大橋巨泉の

          ¥100

          私のアンチ「出羽守」宣言

          ¥100

          心を痛めたパリオリンピック開会式

          どうしても看過できないこと たぶん、私は、日本ではかなりの少数派なのだと思う。 「最後の晩餐」のシーンなんてありましたっけ?なんて言う人もいるくらいだから、日本では心を痛めた人は少ないに違いない。 パリオリンピック開会式を演出したトマ・ジョリー(Thomas Jolly)は、「あのシーンは、ギリシャ神話のオリンポス山の神々に対する異教徒の祝祭のアイデアに基づいており、だれかを馬鹿にしたり侮辱したりする意図は無かった。」と記者会見で弁明していたが、100歩譲ってそのとおりだと

          ¥100

          心を痛めたパリオリンピック開会式

          ¥100

          市川森一の愛したシャンソン

          1993年2月に2話完結でNHK土曜ドラマ「私の愛したウルトラセブン」が放送された。脚本を書いたのは、市川森一だった。 リアルタイムで何気にテレビで観ていた私は、途中から目が釘付けになった。ウルトラセブン製作の舞台裏を描くテレビドラマで、なんとシャンソン歌手が登場したからだ。 新宿のちっぽけなピアノバー このドラマの登場人物は、ほとんど実名で登場する。 モロボシダン役の森次晃嗣は、下積み時代に同居して面倒を看てくれたシャンソン歌手の冬木直子と結婚届けを一緒に出そうと、そ

          ¥100

          市川森一の愛したシャンソン

          ¥100

          花の都・パリの四季とシャンソン

          最初に少し変な話をしようと思う。 「パリは素晴らしい。もう一度行きたい。」とおっしゃる方もいれば、「もう二度とパリには行きたくない。」と言う人がいらっしゃる。 パリに対する好き嫌いの線引きは、トラブルに巻き込まれた経験の有る無しに拠ると思われる。 そのトラブルの多くは、スリで財布やパスポートを失ったとか、デモに巻き込まれて移動できなくなったとか、不親切な店員に不当な扱いをされたとか、詐欺に引っ掛かったとか、日本では頻繁に起こらない類いの出来事だ。 美しく華やかな街の落とし穴と

          ¥100

          花の都・パリの四季とシャンソン

          ¥100

          ジェーン・バーキンとフランソワーズ・アルディ

          2024年7月19日金曜日に新宿三丁目のる・たん あじるでトークライヴを開催した。来れなかった人のために、披露したエピソードの一部をここに書き残したい。 アンニュイとノンシャラン フランソワーズ・アルディの歌は、憂いがある。それに比べて、ジェーン・バーキンの方はあっけらかんとしている。 どうしてなのか? それは、二人の生い立ちが大きく影響していると思われる。 フランソワーズの父親は一つの家庭に安住するタイプではなかった。どこかへ行ってしまい、彼女は、母子家庭(妹との3人

          ¥100

          ジェーン・バーキンとフランソワーズ・アルディ

          ¥100

          主客転倒する昭和の名曲

          あなたは、日本の歌についてどこかに違和感があって、それを長い間ずっと引き摺っていることはないだろうか? それが後になって謎が解けると、かなりスッキリする。 今回は、そんな体験を皆さまと分かち合いたいと思う。 かぐや姫の「神田川」 地下鉄丸の内線・中野坂上の駅を上がって、西新宿の方に少し歩くと、小さな橋がある。それが淀橋で、中野区と新宿区の境目となっている。その橋の上から北側を眺めると、かぐや姫の「神田川」や「赤ちょうちん」の舞台となったような古いアパートがまだ少し残ってい

          ¥100

          主客転倒する昭和の名曲

          ¥100

          シャンソンは、そもそも下世話なもの

          かれこれ10年ほど、シャンソンについて、どんな内容なのか、何を意味しているのか、講座や講演会で解説をして来た。 歌詞の意味するところを解説する上で、フランスの社会的、文化的、宗教的な背景に触れる必要がある。 幸い私は教会学校に通い洗礼を受けたので、カトリックの教理や聖書の話は詳しい。そして、フランスの大学に留学して1年間文明講座の年次コースを受け、かつ通算5年間フランスで仕事をしていたので、ある程度フランスの社会制度や文化の特徴も知っている。だから、自分の理解している範囲で、

          ¥100

          シャンソンは、そもそも下世話なもの

          ¥100