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花の都・パリの四季とシャンソン
最初に少し変な話をしようと思う。
「パリは素晴らしい。もう一度行きたい。」とおっしゃる方もいれば、「もう二度とパリには行きたくない。」と言う人がいらっしゃる。
パリに対する好き嫌いの線引きは、トラブルに巻き込まれた経験の有る無しに拠ると思われる。
そのトラブルの多くは、スリで財布やパスポートを失ったとか、デモに巻き込まれて移動できなくなったとか、不親切な店員に不当な扱いをされたとか、詐欺に引っ掛かったとか、日本では頻繁に起こらない類いの出来事だ。
美しく華やかな街の落とし穴とでも言うことができるだろうか? 初めて訪れてそのプチ地獄に陥ってしまうと、非常に悪い印象を持つことになる。
11月から4月まで続く長い冬
ジョルジュ・ムスタキに "Les amours finissent un jour(ある日恋の終りが)というシャンソンがある。
恋人たちは、ずっと愛し合い続けることはできない。夏の恋は終わってしまった。ほら、直ぐそこに冬がやって来ている。失恋の痛手よりも重苦しい雲が空を覆い始める。
パリの冬は、朝起きて窓を開けても薄暗い。太陽の日差しが射すことはほとんどない。ずっと曇り空だ。12月・1月はとにかく寒い。野外を長時間歩けない。3月・4月は寒さは和らぐが雨が多く、時々冬の嵐もある。
そんな時期にパリを初めて訪れた人は、きっと以下のように思うだろう。
「何が花の都だ。花なんて何も咲いていないじゃないか。灰色の街だし、みんな地味なジャンパーやコートを着ていて、華やいだ雰囲気などまったく無いじゃないか。」
これは、旅行する時期を間違えている。出張なら仕方ないが、観光するなら、春か初秋をお薦めしたい。
春はある日突然やって来る
パリの冬は長いので、当然春は待ち遠しい。
3月下旬くらいになると、今日か明日かと心がそわそわし始める。
我慢してずっと待っていた春が、その足音が遠くから聞こえてくる予感がする。実際には何も聞こえないのだが…
ところが、何の前触れもなく、ある日突然、青空になり太陽が顔を出す。天を見上げると、昨日までが信じられないくらい空が高く澄み切っている。この唐突感が驚きでもあり、喜びでもある。
私たちは、自分達の気付かぬところで、実は春が忍び足で近づいて来ていたのだとその時わかる。
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