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傷ついた鳥のようだったアラン・ドロン 

フランス語で "l'oiseau blessé" (傷ついた鳥)という言葉は、「人が触れることが難しい繊細で壊れそうな存在」という意味で用いられる。
デビュー間もない頃のアラン・ドロンは、そうした印象を人々に持たれていた。映画館の観客だけではない、実際にコミュニケーションしたことのある映画関係者も同じように感じていたと言う。
この「傷ついた鳥」をコンプリートに表現するとすれば、"l'impression de l'oiseau blessé, de désespoir et de solitude" (傷ついた鳥、絶望、そして孤独の印象)となる。
今回は、この印象について少し書いてみたい。

愛されなかった幼少期

「傷ついた鳥」のイメージは、彼の子供時代の心情が色濃く反映されたものではないだろうか?
アラン・ドロンの父は小さなシネマ(映画館)を経営し、母は美人で薬剤師だった。ところが、彼が4歳の時に両親が離婚し母方に預けられたが、母は朝から晩まで忙しくアランは一人家に残され、母が再婚した豚肉加工品専門店を営む義父とはそりが合わなかった。さらに、異父妹のエディットだけを可愛がったためにアランはのけ者扱いとなった。一方、実父の方も再婚し腹違いの弟・ジャン=フランソワが生まれていた。アランは、寄宿学校に預けられた。
こうした家庭不和による愛情不足によって、アランはひねくれ、度々問題を起こして寄宿学校を転々とすることになった。

テレビ映画関係者の証言

アラン・ドロンが主演した "Le chien"(犬)というテレビドラマシリーズを企画したフランソワ・シャレの妻(現・映画プロデューサー)は、若き日のアランのことを以下のような言葉で表現している。

C'est quelqu'un qui n'a jamais été épanoui.
それは、決して晴れやかな表情をしたことのない人物だった。
Il n'avais jamais en hors de lui une souffrance sur lui.
彼は、その苦悩を決して外見には見せなかった。

哀しみや苦しさを心の内に秘め、人には見せない。と言って、明るくほがらかな外見を作ることもしない。いつも無口で堅苦しく、にっこりしても目は笑っていない、そんなタイプだった。

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