「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」

　皆様、お仕事お疲れ様です。
　お仕事をお休み中の方もお疲れ様です。
　今回は、接客業の現場からホットなニュースをお届けします。

　ここ数年、お客様からお𠮟りを受けた際、皆様別々の方なのですが、共通して必ず言われる言葉があります。
「私はクレーマーじゃないんだけど」
「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」
　私が接客業として働き始めた頃、こんな事は言われませんでした。
　お客様から言われて、こちらの方が驚きました。

　接客業をしている友人知人からも、同様の意見がありました。
「私の対応がつたなかったので、お客様からお叱りのお電話を頂いたのは当然だけど、途中で『あんまり言うとさー、こっちもさー、クレーマーだ何だ言われちゃうでしょ？　昨今はそういうのもうるさいからさー』と言われてびっくりした。なんて返せばいいのか分からなかった。どんな人かって？　会社の偉い人っぽい。男の人。四十代か五十代」
「パートが対応を誤って『他の人いる？　上の人を呼んできて。責任者。いるんでしょ？』と言われたので行ったら、三十分くらい訴えられた。『私はクレーマーじゃないんだけど、それでも今のはどうかと思うからさ。私もサービス業やっているから、こんな雑なのは見逃せない。この後、親会社と、グループ内の別会社にも一応電話させてもらうからね』と。どんな人かって？　サービス業の、多分偉い人じゃないかな。男の人。四十代から六十代」
「テレビ観なよ。最近、クレーマー対策の法整備が進んでいるよ。それで予防線を張りたいんじゃないかな。クレームは言いたいけど通報はされたくないんだよ」

　ここで断っておきたいのですが、前述のお叱りはクレームではなく正当なものです。本人がそう認識しています。
　しかし、「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と言われて、思わず「へ？」となったそうです。
　私も「もし私なら、なんて返せばいいんだろう」と考え込みました。
　お客様は「正当な意見」として店員を叱る。
　店員は「正当なお叱りの意見」として受け止める。
　しかし、そこで「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」という言葉が入る。

　何だか不思議だと思いました。
　店員側は「あなたをクレーマーとして訴えます！」なんて言っていません。
　お客様も、「これは伝えなきゃ」と思うから、店員や責任者に「これこれこういう事が不快に思いました」と伝える。
　それでいいはずです。
　でも、そこに「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と付け足す。
　決してクレーマーではないお客様が、「お前のせいでクレーマーになりそうだけど、そうじゃないからね」と言ってくる。

　不思議です。
　数年前のように「俺はお前の言動が不快に思ったぞ！」と単純に言ってもいいはずです。
　お客様の方から「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と言い出したら、お客様がお客様自身の事を「俺はクレーマーだ」と認めるような響きに聞こえてしまいます。
　お客様が「これは正当な意見だ」「店員のせいで本当に困った」と思うのなら、「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」なんて言葉は思い付かないし、言わないはずです。
　クレーマーとして認識されるのが怖いなら、お客様にはまだ他の選択肢もあります。
「あとで企業のホームページのお問い合わせ欄から伝える」
「店員には直接言わないで、あとで本社に電話で伝える」
「他の店員に伝える」
　特に本社に言うのは効果が抜群です。
　本社から現場の責任者へお叱りが来て、責任者から店員本人にお叱りが来るからです。

　それでも、こういった選択肢を思い付けず、御自身で「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と言うくらい、店員に直接、ややきつめに十分以上話し続け、クレーマーっぽい言動をしてしまったのなら。
　さすがにそこまでは店員の範疇や責任には負えないと思います。
　もちろん、正当なお叱りは重要です。現役の接客業として、日々真摯に受け止めています。
　しかし、「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と発言してから、「これでクレーマーとして通報されないはずだ」と一抹の安心を得て、残りの不安を払拭するべく「俺は店員のこういうところが不快だったんだ」と話し始める。
　その「俺はクレーマーになりたいわけじゃないんだけど」と、御自身の行動の責任を押し付けようとする言葉は、とても斬新でした。

　以上、ホットなニュースでした。
　ちなみに私個人の体感でも友人知人の体感でも、社会的に上位の立場に就いている方からは、特にお叱りを受けるパターンが多いようです。
　職場で地位を得ている分、よそで働いている店員の事も部下のように認識してしまう、だからこそ自分の思う通りにいかない事が気に食わない……のかもしれませんね。
　もしかしたら「俺の職場ではこんな仕事はすぐに終わるのに、何でこの店は同じようにできないんだ？」とも、思われているかもしれません。

　もう一つだけ。
　私の知っているだけでも、常に完璧な接客をする人が三人います。
　いつも明るく朗らかで、お客様の笑顔が絶えず、その店員目当てで来るお客様もいらっしゃるくらいです。
　しかし、三人とも三回以上クレームを受けた事があります。
　途方に暮れる思いです。
　どうすればいいのか、考え続ける日々です。