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大企業は”マニュアル主義”!?中小企業と大企業と渡り歩いた男が見た実態!

私は28歳で大企業に入社し、33歳で中小企業に転職、そして最近再び某大企業に転職しました。今回はその経験を基に、「マニュアル」をテーマに書きたいと思います。

① 定型業務はAIに奪われる?

ややニュース性は低下していますが、対話型AIをビジネスに応用する動きが激しくなっています。最近でもMicrosoftが「Windows Copilot」を発表しました。

これらAIの発達はホワイトカラーの仕事を奪うことが懸念されています。
何年か前、NHKの「欲望の資本主義」という経済番組で、フランス人経済学者のダニエル・コーエンは、それを以下の一言で表現していました。

「Be creative or you die」(創造的であれ、さもなくば死だ)

産業革命で肉体労働がロボットに置き換わったように、現在ホワイトカラーが行うルーティーン作業がAIに置き換われば、人間に残されるのは非ルーティーン作業だけです。人間は毎日を芸術家のように生きなければならず、常に創造性の欠如に怯えながら生きることになる。同氏は、能力を限界まで出し切ることを求められた人々が燃え尽きてしまう未来を懸念したのです。

同氏の懸念からもわかるとおり、AIが発達した場合、真っ先になくなる仕事はルーティーン作業(定型業務)だと言われています。

② マニュアルはあって然るべきだが・・・

よく大企業は”マニュアル主義”だと言われます。

しかし、考えてみればマニュアルというのはあって当然です。
資本主義の初期段階の概念とされる”マニュファクチュア”は「それぞれの工程を分業や協業をおこない、多くの人員を集めてより効率的に生産を行う方式のこと」(Wikipedia)と説明されていますが、分業や協業をするのには、一定のルールがないと成立しづらいものです。

なので、ルール(=マニュアル)はあっていい。
問題はそれに固執し、イレギュラーな判断・行動がとれないことが問題なわけです。

③ “マニュアルがある職場”=“よい職場”

私自身の経験では、大企業に付きまとう「マニュアル主義」というイメージと、実際の仕事現場には大きな乖離があります。

多くの職場は”マニュアルすらない”という状態なのです。

ここでは事務職(特にバックオフィス業務)に携わる現場を指していますので、工場現場ではマニュアルが存在すると思いますし、オフィス業務でもテレアポや受付など、アウトソーシングされる傾向が強い業務はマニュアル化されているでしょう。
(ベンダー側がマニュアル化することをウリにするケースも多い)

しかし、人事、経理、情シスなどのバックオフィス業務の現場では、まだまだ属人的な仕事が残っており、それらの多くはマニュアル化されていません。

④ マニュアル化を妨げる”プライド”

マニュアルがあることで、組織全体に好影響を及ぼすことはたくさんあります。作業自体がスピーディになることに加え、万が一社員が病気やケガに見舞われた場合でも、マニュアルがあれば別の人が代替することができます。また、作業の代替がしやすい環境ができることで、ジョブローテーションがしやすくなり、社員のスキルや見識も広がりやすくなるのです。

ではなぜ、オフィスではマニュアル化が進まないのでしょうか。

表面上の動機に目を向ければ、それは「それが評価されないから」だと言えそうです。上長が現場作業の効率化を評価しない、と。
そうなると、なぜ上長は効率化を評価しないか、という問題があります。

私はそこには”職業人としてのプライド”が影響していると考えています。

経理部門に所属していた時代に「部署の定型業務はすべてマニュアル化すべきだ」と強く訴えたことがありました。新人でしたが、外部研修に参加した際に”経理の作業はマニュアル化すべし”みたいなことを習ったからです。

しかし、周囲は非常に冷ややかな反応でした。
先輩は自分たちの仕事を指して

「この仕事は職人ワザだからね」

と言いました。

えっ・・・

私は絶句しました。当時の経理部門の作業は、私から見たら(おそらく客観的にも)大半が定型業務だったからです。
次に私は「局長ならわかってくれるはず」と考え、その思いを伝えました。

すると、、、

「マニュアルに頼ると”経理の勘”が鈍るからね」

と言われ、却下されました。

経理の勘・・・?

ちなみに、その経理部門で私は派遣社員から正社員登用されたのですが、私を正社員にしてくれた優秀な上長はすでに退職し、その人とは別の人です。

https://note.com/happy_quince292/n/n6c278e34bd8a

⑤ 背後にある”ちょっとした非定型業務”

却下されたこと自体は仕方がない側面もあります。組織全体ではタスクに優先順位を付けていく必要があるので、イチ若手が申し立てたことを、その度に飲むとキリがないですから。

一方で、この却下する過程で出た「職人」「勘」という言葉に、
効率化や自動化が阻まれる要素が隠れている気がしてなりません。

昨今、特にコスト部門とみられているバックオフィス業務の効率化は重要視されています。しかし、なかなかうまくいかない。それはホワイトカラーが携わる業務の大半にみられる、ある特徴が影響していると思います。

それは“定型作業”ではあるが”完全なる定型作業”ではない。

換言すると、

定型のなかに非定型がインクルード(包含)されている。

例えば給与計算をしようと思ったときに、計算自体は自動化できます。しかし、勤怠が正確に打刻されていなかった場合、「じゃあ本人に聞こう」と、微妙な非定型的な作業が発生します。

運用開始間もない業務システムで、一部手作業で処理を起動しないといけない手順が残っていたとします。カレンダー通りに処理を起動させることはマニュアル化できますが、エラーが出た場合の対応はできないかもしれません。これも非定型的な業務と言えそうです。

オフィスでやる定型業務は、進めていくとチラチラっと非定型的な業務が現れてくるのです。

実際にはこの程度のイレギュラーが発生しようと、仕事の難易度は急激に変化するものではありません。しかし、多くの会社では年収600万円前後の正社員がこうした仕事を担っているのです。

結果として働いている人たちは、自分たちの仕事を
「マニュアル化できない仕事」「マニュアル化すべきでない仕事」
だと認識してしまうのです。

⑥ 会社”人”としての究極の仕事

また、特にバックオフィス業務に携わる社員たち(特にルーティーン作業を主に担当する人)は自分たちの仕事が自動化されることを恐れているという側面もあるかもしれません。

会社において、バックオフィスの人件費は膨大です。表面上はお金を稼がないので、「コスト部門」だと、管理会計的には"会社のお荷物"的な見られ方をする場面もあります。経営層は口には出さないまでも、(特に株主に圧力がかかったりすると)これらのコストを「削減できないかなぁ」と考えているでしょう。

その場合(理論上)バックオフィス担当者が最も”やるべき仕事”は何か?

それは「自分(たち)の仕事をなくすこと」です。

担当作業をマニュアル化し、誰でもできるようにする。フロー化してシステムに乗っける。結果、毎月50万円かかっていた人件費が、サブスクよろしくシステム運用費1万円になるのが、経営的には最も望まれているのです。

しかし、そうなると仕事がなくなった”人”はどうなるでしょう。
当然、”別部署に異動or転職”かの選択を迫られることになります。

そう考えると、マニュアル化の推進は、会社としてやるべき仕事であると同時に、社会的には残酷なことのようにも考えられます。関連性はやや遠いですが、政府がリスキリングを推し進めているのも、こうしたテクノロジーの進化や産業構造の変化が影響してのことでしょう。
いつまでも同じことをしているなよ、と・・・

さて、今回はマニュアルについて書いてみました。会社組織で日々汗をかく方々の何かの参考になればと思います。

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