「いのち」について考えてみよう
中学校 内容項目(19)「生命の尊さ」
「あじさい」を使って考えてみる。
小路:はい。ウラさん、上辺さん。「あじさい」読み終わったかな? どう思った?
上辺:人間ってめんどくせーなーって思った。
小路:ええ……。上辺ってあれだよね。基本的に人間のこと嫌いだよね。
上辺:たりめーだろ。人間はウラを勝手に悪者に仕立て上げて殺したんだから。敵だ敵。人間は悪魔の生まれ変わりだと思ってるくらいでちょうどいいんだよ。それによう、この話読んでて思ったんだけど、このじいさん幸せ者じゃねーか。
小路:え。なんで? 病気になって死んじゃったんだよ?
上辺:死に方を選べただろ。おれやウラがいた時代なんかあれだぞ。いきなり死ぬからな。道歩いてたら物盗りが襲ってくるとか崖が崩れて下敷きとか作物取れなくて飢え死にとか戦に駆り出されるとかふっつーに起こるからな。そんであっさり死ぬからな。死に方を選べるってのは幸せなんだよ。ぜいたくだっつーの。
小路:シビアだなぁ……。ウラもそう思う?
ウラ:おおむね上辺に同意じゃのう。
小路:ええ……。なんか怖い。命の価値がすごく軽いっていうか……。
ウラ:命そのものに価値などありはせんじゃろ。
小路:ええ!? それはないでしょ! 「ひとりの命は地球より重い」んだよ! 命はかけがえのないものなんだから!
ウラ:…………。
上辺:…………。
小路:だからさ、おじいちゃんが「病院じゃなく家で最期を迎えたい」って言ったとき、家族が反対したり、(ぼく)が何も言えなくなったりする気持ちはよくわかるよね。だっていのちは尊いんだから。少しでも長く生きられるように大切にしなきゃいけないもんね。
ウラ:…………。
上辺:…………。
小路:もしかしておじいちゃんは「自分の命なんだから自分の自由にしていい」って思ったのかもしれないけどさ、命はたった一つしかないんだし、世界でいちばん大切なものだから、精一杯使い切らなきゃいけないと思うんだ。そりゃあ辛いことも多いと思うけど、それでもさ、「大切な命」なんだから、がんばってそれを守っていくのが本当で……
上辺:小路、ひとつ質問があるんだけど。
小路:え、あ、うん。上辺さん、どうぞ。
上辺:あなたはアホですか?
小路:ぐ! なにその直訳的罵倒……! AIにバカにされた感があって心にくる……。
上辺:逆だっつーの。ウラが言ったみたいに命そのものに価値なんかねーよ。
小路:ええ……(理解できない)
上辺:「命」ってのは器だろ。大事なのは「中身」だろが。
小路:ええ……? 命の中身……?
上辺:おれにとっちゃ人間なんてどーでもいいけど、人間が生きることにもし価値があるんだとしたら、その「中身」だろ。からっぽの器に金を出す酔狂なヤツもいるのかもしれねーけどよ。
ウラ:……ウラもそう思う。小路は「自分の好きにする」と言うたが、その選択に「生き方」があるように思うのじゃ。そういうふうに生き方を選ぶ心……。それは大事じゃと思う。そうして選択を続けてきた命であれば、たとえ心が弱ってしまっても、その積み重ねそのものにも価値が生まれよう。それはよう理解できる。
ウラ:ウラは……、自分の存在に迷って二千年もこの世をさまよってしもうた。ウラの命の器がからっぽだったせいじゃ。
小路:そんなこと……。
ウラ:ウラは、「自分で生き方を決める」という心の強さがほしい。それは尊いと思う。そういう「尊さ」をもった心が宿っておるなら、きっと「命」は尊くなるのじゃと思う。
小路:尊くあろうとする心の持ち様……、かぁ。
上辺:どうよ小路。わかったか?
小路:うん……。確かに、「尊厳」っていうのには、そういう要素も含まれてるのかもしれないね。
上辺:ちげーよばか。基本的に生き物じゃねえおれとウラに「命の尊さ」を説かれてんだ。自分の薄っぺらさがわかったかって聞いてんだよ。
小路:なんか今日、二人ともぼくにキツくない?
まとめ
ウラ:「生きて」おることそのものが尊いのではないような気がしてのう……。自分の命を雑に扱わず、真正面から受け止めて生きてゆこうとする、そういう人の心の持ち様が尊い――ような気がするのじゃ。そういう心をもった人間は無下にはできん。「尊厳」とはそういうものではないのか?
小路:(はたしてぼくに尊厳はあるのか……?)
【参考】「中学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編」より
(19)生命の尊さ
生命の尊さについて,その連続性や有限性なども含めて理解し,かけがえのない生命を尊重すること。
(小学校)[生命の尊さ]
〔第1学年及び第2学年〕 生きることのすばらしさを知り,生命を大切にすること。
〔第3学年及び第4学年〕 生命の尊さを知り,生命あるものを大切にすること。
〔第5学年及び第6学年〕 生命が多くの生命のつながりの中にあるかけがえのないものであることを理解し,生命を尊重すること。