涌井学
小学校・中学校の道徳の時間に使用するための読み物教材(主に涌井創作)をまとめています。
涌井が創作した小説(短編・掌編)をまとめています。
涌井(わくい)学(まなぶ)といいます。小説家です。作品は映画やアニメなどのノベライズが多くなっています。(プロフィール) このnoteでは、主に「創作小説」と「道徳教材」を扱っていきたいと思っています。 ■道徳 涌井は、十数年「道徳の読み物教材づくり」に関わってきました。「読んでおもしろい道徳の読み物」を目指して、涌井が創作・収集した教材を、学習指導要領の内容項目に沿ってまとめています。 ※ご意見等ありましたらぜひコメントなどお願いします! ■小説 涌井が創作した小
対象学年:小学校(3・4年) 内容項目:公正、公平、社会正義 (13)誰に対しても分け隔てをせず、公正、公平な態度で接すること。 教材の種類:創作 ずるいぞ! 森にくらすみんなはなかよしです。 今日は、みんなでいっしょに森の中を歩き回って、たくさんの木の実を見つけました。 クルミにどんぐり、野イチゴまで―― 木の実はみんなの大好物です。 からだの大きなくまが言いました。 「ぼくは大きいから、たくさん木の実をもらうね」 きつねやうさぎ、それにたぬきは「
ホーミー チムニーは目を覚ますと、まずさいしょに葦の茎でできたカーテンを目いっぱいに開き、外でチムニーを待っているお日様の光をからだ中に浴びました。毎日の習慣ですから、チムニーはこれをしないことには一日がはじまった気になれないのです。 「今日はいい気分だから、パンにつけるバタを多くしなくちゃ」 チムニーはいそいそとテーブルにつくと、バタをたっぷりとつけたパンをかじりました。今日はホーミーが家にやってくる約束の日です。ホーミーはめったに群を出ないので、チムニーはホーミーに
涌井が創作した小説(掌編・短編)を、まとめています。 ■連載 ○麻子とアキ ・第一話 トラブルメーカー(1回) ・第一話 トラブルメーカー(2回) ・第二話 詐欺師(1回) ・第二話 詐欺師(2回) ・第二話 詐欺師(3回) ・第二話 詐欺師(4回) ■読み切り ○ホーミー ○外に出ようとする男と女 ○あのころ ○横浜元町エレクトリカル・パレード ○声 ○電話病 ○飛びミミズ
(はじめから「麻子とアキ 第二話 1」へ) (前「麻子とアキ 第二話 詐欺師3」へ) 4 ぼくのスマホにポンちゃんから着信があったのは日曜日の午前十時。ぼくと麻子が遅めの朝食を取ろうと出かける寸前のことだった。ポンちゃんは押し殺した声でボソボソとしゃべる。どうやらトイレかどこか、狭い室内にいるみたいでただでさえ小声で聞き取り辛いのに、それが反響してなお聞きにくい。ぼくはスマホを顔に貼り付けるみたいにしてポンちゃんの話を聞き取った。 〈央太さん、ヤバイよ。エーちゃんが乗
(はじめから「麻子とアキ 第二話 1」へ) (前「麻子とアキ 第二話 詐欺師2」へ) 3 その日からひと月。ポンちゃんは相変わらず超自己中心的な思考パターンで生きている。麻子経由で状況を聞いたり、ポンちゃん本人と話をしたりする限り、二人の奇妙なお付き合いは継続しているらしかった。ポンちゃんは相変わらず商売熱心でエーちゃんと会うたびに何らかの商品購入を迫る。エーちゃんは快くそれに応じる。二人は食事をして前回と同じ会話をくり返して、次回また同じ轍を踏むために別れる。 そ
(前 「麻子とアキ 第二話 詐欺師」1へ) 2 「何でおれまで」 「探偵みたいで楽しいじゃん」 麻子の付き添いで池袋西口のバス停にたたずみ、ぼくはふてくされている。時刻は午前の十時。天気は快晴。バス待ち客用のベンチに腰掛けて、体を捻ってポンちゃんを見ている麻子はなぜかサングラスだ。下品な太縁と薄いオレンジのレンズ。麻子の視線は昔丸井があったビルの方向に向かっていて、その途中、正面に見えるマックの前には客待ち顔のポンちゃんが立っている。今まで見た事もないかっちりしたスーツ
1 ------------------------------------------------------------ < Eisuke Nakamura 8/10 今日はありがとうございました! 玉石(たまいし)杏子(きょうこ)様 今日はほんとうに、信じられないくらい楽しい一日でした。今でも信じられません! こんな冴えないぼくに、あなたみたいな素敵な人が声をかけてくれるなんて……。ほんとう、奇跡だと思いました。それに、あなたがデザインしたという宝石、どれもセンス
(前 「麻子とアキ 第一話 トラブルメーカー」1へ) 2 〈シバさんと連絡とれたか?〉 本条の声だ。ぼくはジェスチャーで麻子を部屋から出し、心を落ち着けるために深呼吸した。本条は、例の「ん?」という耳障りな声でぼくの返事を促す。 「取れた。たしかに麻子はあんたの財布を掏ってた。すまない」 本条の声が甘ったるくなった。呟くような声でそおかあと言っている。 〈そおかあ。それじゃ話は解決や。三十万、今すぐに振り込んだってや。口座はな〉 「ちょっと待ってくれ。麻子はあんたの財
1 勝手な言い草なんだ。もし、彼女の口にした言葉を一言一句書き留めて、それを箇条書きにして相手に見せたらきっと裁判沙汰になるだろう。けれど、彼女がその薄い唇を震わせて雨に濡れた小犬みたいな声を搾り出してそれを言うと、それがまかり通る。道理が引っ込んで無理が通るんだ。麻子(あさこ)はひどい嘘つきだから。 最近は大人しかった。今朝、出社前に見た彼女はぼくがローンで買ったソファに足を投げ出して、ソファからはみ出した爪先でスリッパをブラブラさせていた。口に体温計を咥えて、基礎体
対象学年:中学校(3年) 内容項目:礼儀 (7)礼儀の意義を理解し、時と場に応じた適切な言動をとること。 教材の種類:菊池寛「死者を嗤う」を部分的に省略・語の置き換えをしたもの 死者を嗤(わら)う 二、三日降り続いた秋雨がやんで、からりと晴れ渡った快い朝であった。 江戸川の近くに住んでいる啓吉(けいきち)は、いつものように十時ごろ家を出て、東五軒町の停留所へ急いだ。彼は雨の日が致命的に嫌であった。だから、こうした秋晴れの朝は、何か良いことが自分を待っているような気
飛びミミズ 腕に小さな水ぶくれができた。ちょうど肘の少し上のあたり、シャツの裾で隠れるところで気付かなかった。シャツを捲って左腕を掻いていると、隣で噛み煙草をクチャクチャやっていたマサァラが呟いた。 「ああ、そいつはエアワームの食事の痕だ。あんた、やられたな」 よく日焼けして人種が分からない顔がニンマリと口元を歪めてそう言った。僕は不可解な顔をしてマサァラのニヤついた顔を見返した。マサァラはニヤニヤしたままで僕から視線を外して森の奥の方を指差す。腰掛けた倒木に右足をかけ
電話病 電話の鳴った音がした。 俺はそのときようやくやってきた眠気にうつらうつらし始めたところだったから、真夜中も真夜中、午前三時の非常識なコール音にむかっ腹を立てるのも、まあ、当然のことだと思うのさ。 ところがスマホを耳に当てた俺の表情はすぐに、怒りどころか困惑のそれに変わっちまった。だってそうだろう? 半分眠ったままの頭で最初に聞いたのが、「助けてくれ。死にそうだ」なんて物々しいセリフだったんだから。安物の刑事ドラマじゃあるまいし、もちろん俺は本気にしなかった。ま
中学校 内容項目(8)「友情、信頼」 「あずさちゃんごめんね」を使って考えてみる。 上辺:おれこの話きらいだ。 小路:(ばっさり……!) 上辺:登場人物みんななんかムカつく。それによー。なんつーか人間の残酷さがダダもれ。 小路:え……? どこが? どういうところが……? 上辺:これ、なんとなく「いい友達だったのに私は気づかなかった。ごめんなさい」的にまとめてるけどよー、そもそも原因は「まわりのみんな」なんじゃねーのか? だからこんなやるせない結果になったんじゃねーの
対象学年:中学校(3年) 内容項目:感動、畏敬の念 (21)美しいものや気高いものに感動する心をもち、人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深めること。【関連:生命の尊さ】 教材の種類:創作 白丸の死 父からはよく、「お前は優しいのではなく、甘いのだ」と叱られたことを思い出します。昭和三十年代の中ごろ、私はまだ十二、三歳の子供でした。 その頃、私の暮らしていた村では、ほとんどの家が畜産と農業を生業としていました。私の家もご多分に漏れず、米と大根、小松菜などの栽培で
小学校 内容項目(6)「真理の探究」 「エウレーカ!」を使って考えてみる。 ウラ:これは……、「腑に落ちる」よろこびなのかのう。 小路:すっごくうらやましい……。だいぶ前にぼくが失った「何か」を感じる……。なんかキラキラしてる……。輝いてる……。 上辺:聞きたくねええ……。疲れ果てた大人の愚痴の予感しかしねえ……。 小路:なんかね……。大人になるってことは、わからなかったことがだんだんわかっていくことだと勝手に思ってたんだよね……。でもちがうの。この世界、わからないこ