幸村 VS 手塚! 新テニスの王子様最高の瞬間、ドイツ戦を振り返ろう!【中編】
前回の記事はこちら!
第三戦 雪村精市 VS 手塚国光
高校生代表と中学生代表が混ざり合う(謎ルールの)テニス世界大会準決勝。その第三戦は、中学生同士の対決となった。
コート上に立ち、対角線上の対戦相手を見据える二人。
我々はこの二人を知っている。
片方は中学テニス界の王者、立海大付属中学の中でも最強と謳われる男。『神の子』幸村精市。
そしてもう片方はその立海大付属中学を破り全国大会優勝を成し遂げた青春学園テニス部の部長。手塚国光。またの名をメガネメガネ@油断せず行こう
無印テニスの王子様を読んできた読者にとって、これ以上に胸躍る対戦カードがあるだろうか。いや、ない、かも。
立ち合いは強く当たって、後は流れで試合を進めていく二人。しかしその様子をベンチから眺めている中学生選手たちは、ある違和感に気づく。
幸村精市のテニスが、今までとは明らかに違う……!!
どうして彼のテニスがこうも迷いなく、晴れ晴れとしたものに変化したのか。その答えは試合前にあった。
中学テニス界最強の男、『神の子』幸村精市。しかし彼は難病を患っており、長い間入院生活を送っていた。もう以前のようにテニスをすることは難しいだろうと、一度は選手生命に対する死刑宣告にも似た評価を下されていた。
世界大会が始まり、海外の医療機関の手を借り自身の病気を完治させる方法を探していたのだが、ドイツ戦の前日、重々しい表情のキミ様(日本の高校生)に呼び出され、こう告げられる。
「幸村くん、ドイツ戦の直前に申し訳ないが君には伝えておかなければならない事があります」
「かくかく……しかじか……!!」
「それは、本当ですか?」
「ええ。君の血液サンプルをアメリカの医療機関に送ったところ——」
手塚国光が打ち返したボールがコート上をふわりと舞い、幸村精市が飛翔する。一切の迷いは断ち切られた。ここに、『神の子』完全復活である!!
手塚国光を象徴する手塚国光による手塚国光のための技『手塚ゾーン』。そして『手塚ファントム』。相手の打球を意のままに操るはずのこの技たちが、この試合ではまったく発動されていない。
それは幸村精市が対手塚用に身に付けた、ショットを打つ手をランダムに打ち変え、なおかつ左右で寸分たがわぬショットを打ちやる新技。
『蜃気楼(ミラージュ)の鏡(ミラー)』によるものであった。
これにより、手塚の手塚技は封じられていたのだった。
このまま幸村がゲームの主導権を握るのか。
そう思われたのも束の間、手塚国光の体が突如として光を放ちだす。
あ、終わった……。
天衣無縫の極みを惜しみなく発動する手塚。しかし幸村精市は、天衣無縫の極みが使えない……!! 天衣無縫の極みは天衣無縫の極みでしか倒せないというのに。
あのテニスの神ですら天衣無縫の極みに対してはそれを超える天衣無縫の極みを発動することでしか対抗できなかったのだ。しかも幸村精市は無印テニスの王子様ラストバトル、全国大会決勝戦にて、この天衣無縫の極みを発動した越前リョーマに「まだまだだね」されている。
今回も「油断せずに行こう」されてしまった以上、もう成す術はないのか……。
本来であれば『五感を奪う』能力を持つはずの幸村も、天衣無縫が相手ではその能力を活かすことができない。
どういう計算式で0.3%という数字が導き出されたのかは謎である。
誰もがこれは厳しい展開になってきたと感じていた。観客席にいる、手塚のの後輩であるはずの堀尾なんて、ドイツ代表として日本の世界大会優勝を邪魔する手塚を売国奴扱いし始める始末である。
誰もが日本の勝利を邪魔する手塚に対して黒々とした感情を抱き始めた頃、かすかに、いや、確かに、幸村が手塚に食らいつき始めていた。
以下、幸村の独白。
「『天衣無縫の極み』とやり合うには、相手の輝きにのみ込まれない事が絶対条件だ」←?
「その光やオーラにのまれた時点で、委縮してしまい自分本来のプレーすら出来なくなってしまう」←そういうメカニズムだったの!?
「自陣に返ってきた打球にのみ精神を研ぎ澄まし、一球一球返す事だけに集中するんだ!!」
気づけばいつの間にか、手塚と幸村は互角に打ち合っていた。
なぜ天衣無縫相手に、こうも臆さずに戦えているのか……
そう、何故なら彼は、幸村精市は——
いくら出来るからって、奪っちゃいかんと思うけど。五感って。
忍足が『心を閉ざす』能力を持ってるけど、そのくらいで抑えといた方が良いと思うのだが、とにかく自身の五感を奪った幸村はそれにより、テニスに必要な感覚のみに集中することが出来(テニスに五感は必要ない?)、能力を極限まで高めることに成功しているようだった。
これが幸村精市が編み出した、天衣無縫の極みを使わずに天衣無縫の極みに対抗する手段。
『零感のテニス』
しかし忘れがちだが、幸村の『五感を奪う』能力は、圧倒的実力を見せつけ相手にトラウマを植え付けることでイップスに陥らせ、自らの手で五感を放棄させるというものだった。
つまりこうして幸村が自身の五感を奪えているということは、幸村もまた、『天衣無縫の極み』に対してトラウマを抱えているということでもあった。
全国大会決勝。自らの前に立ちはだかった天衣無縫の男、越前リョーマ。
幸村が戦っている相手は手塚国光だけではなかった。あの日超えられなかったトラウマの中の越前リョーマに勝つためにも、彼は必死にもがいているのだ。
ついに手塚から1セット奪いリードした幸村。「スッキリした」と清々しそうに伸びをする彼の姿に、立海大の面々もニッコリ。
病気治って良かったね、精市くん……!!
私もニッコリである。
形勢逆転、2セット目は終始手塚を圧倒し始める幸村。
しかし追い込まれている手塚の表情は、過去最高に晴れやかなものだった。
ずっとテニス部部長として、そして大切な仲間のために戦って来た男、手塚国光。そんな彼が初めて、『世界一のテニスプレイヤーになる』という夢を叶えるため、他の誰でもない自分自身のためにテニスをしている。
『手塚ファントム』を繰り出し始める手塚。しかしそれは幸村の『蜃気楼の鏡』によって封じられ無効化されてしまう。だが、そこで観客たちは気づく。
手塚はいつの間にか、その場から一歩も動くことなくプレイしている!
これはまさしく『手塚ゾーン』!
そう、ドイツへ渡り成長した手塚は、『手塚ファントム』と『手塚ゾーン』両方の回転を兼ね備えた複合回転の打球を放つことが出来るようになっていた。
手塚の手塚による手塚のための手塚。
名付けて——
いや手塚〇〇シリーズじゃないんかい。
手塚国光が至高国光になった瞬間であった。
その後調子に乗った手塚は思わず禁止技まで繰り出してしまう始末。
それだけはやっちゃいかんというのに。
またもや形成逆転し、今度は『至高のゾーン』に手も足も出ない幸村。それでも必死に食らいつくことで、長い長いラリーが続く。
ある時、スイングと共にラケットが手からすっぽ抜けてしまう手塚。手塚でもそんなおっちょこちょいするんだ、と思ったら、どうやら手の感覚を奪われてしまっていたらしい。
しかしすぐさま天衣無縫を発動し五感を取り戻す手塚。再び始まった長いラリーの末、今度はふっと目の前が真っ暗になり手塚はポイントを取られてしまう。視界を一瞬奪われたようだ。
『零感のテニス』で『天衣無縫の極み』を無効化しながら五感を奪い、それを『天衣無縫の極み』を再発動することで更に無効化する。そんな綱渡りな駆け引きをしながら、激闘は終幕へと向かっていく——
幸村の返したボールがふわっと宙に浮かぶ。絶好のスマッシュチャンスを逃さず撃ちに行った手塚の脳裏に、とあるイメージが過る。
それは自身の撃った打球がネットに当たり、ポイントを奪われるイメージ。
手塚はとっさにスマッシュの姿勢を崩し別の打ち方で返球、それを更に打ち返す幸村。
それを更に更に返球した手塚のボールは、ネットに当たって、ポイントを奪われてしまう。
さきほど手塚の脳裏を過ったイメージ通りに。驚愕する手塚。
「ネットに掛かる映像が君には見えた様だね……」
「手塚……」
かっけええええええええええええ!!!!!!!
そのキメ顔、見ただけで腹上死不可避!!!!!
『神の子』のテニスはどこまでも進化する。『五感を奪う』能力を使いこれまで戦って来た彼は、この世界大会を通して『未来を奪う』領域にまで至った。
その後ラリーを続けるたび、手塚の脳裏には自分がポイントを奪われるイメージが何度も過る。ついにはプロプレイヤーになる自分。優勝トロフィーを手にする自分。そんなイメージまでもがひび割れ、崩れていくかのように錯覚された。
様々な対策を講じて打破しようとする手塚だったが、その先にあるはずの未来は、全て幸村精市の手により奪われてしまうのだった。
それでも手塚から焦りの感情は見て取れない。
会場からは手塚を応援するドイツサポーターの声援が響く。
ドイツに渡り部長の責務から離れ、初めて自分自身のためにテニスと向き合って来た手塚。しかし本当は分かっていた。プロプレイヤーになるということは、それまで以上に多くのものを背負うということなのだと。
彼は誰よりも、そのことを分かっていた。
未来を奪う者と未来を塗り替える者。勝負は再び五分と五分に。
これまで絶対強者として君臨し続けた二人が、お互い全てを出し切り汗を輝かせながらボールを追いかける。
長い駆け引きの末、最後の零式ドロップを撃つ構えを見せる手塚。
しかしそれはフェイクであり、手塚が撃ったのはスライス回転のロブだった。それでもその先の未来を奪いに走る幸村は打球に追いつき、そのスライス回転のロブを撃ち返し――
スライス、回転?
無印からの読者感涙必至の激闘は、こうして幕を閉じた。
でも彼らってまだ中学生なんすよねえ……
高校生になったら何を奪い、何国光になるのか。
彼らの今後が楽しみである。
ではまた次回。