7. シックスシグマがもたらす現場の「疲弊感」とその対策
シックスシグマは、業務の効率化や品質向上に非常に有効な手法です。しかし、シックスシグマのプロジェクトが長期化するにつれ、現場やプロジェクトチームに疲弊感が広がることがあります。本記事では、シックスシグマが現場にもたらす疲弊感とその対策について詳しく解説します。
1. プロジェクト疲れーブラックベルトに漂う疲弊感
シックスシグマプロジェクトのリーダーであるブラックベルトやグリーンベルトは、プロジェクト管理や改善活動に大きな責任を持っています。しかし、プロジェクトが複数にわたったり、長期に及んだりすると、リーダーをはじめとするメンバーに疲弊感が生じることがあります。この「プロジェクト疲れ」は、特に高い期待や成果を求められるブラックベルトに多く見られます。
この疲弊感の最も有力な原因は、「ネタ切れ」です。シックスシグマではCTQ(Critical To Quality)と呼称する「顧客が明示的な形で要求しているものを定義」することが第一の作業とされています(下記邦訳本p31参照)。
ここで、導入企業がコングロマリットで全社的に展開されていると仮定した場合、各事業所ではCTQが定義され、取り組むべき課題が、効果金額(シックスシグマ場合COPQという指標で算出される)や当該製品特有の何らかの指標でまとめられ、パレートチャートで優先順位が示されます。
プロジェクトが進行していけば、優先度の高い項目は時間とともに改善されていき、シックスシグマ導入当初の効果は望めなくなります。
導入当初のインパクトがなくなってくると、シックスシグマ運動は、当初のCOPQから目をそらしー
「何人のブラックベルトが誕生したか」
「何人のグリーンベルトが誕生したか」
「間接部門も含め、展開部署は広がったか」
など、手段が目的化していきます。ブラックベルトには、所属部署から離れ専任のブラックベルトとなっている場合や、所属部署の業務を継続する兼任のブラックベルトの場合がありますが、いずれの場合においても、周囲には疲弊感が漂い始めます。
対策:おそらく、適切なリソース配分や休息期間を確保する、また、現場の声を反映しながら、プロジェクトの進行を柔軟に調整することでは疲弊感は解消することはできないでしょう。長い目で見れば、シックスシグマを展開する年限を決めることが好適ですが、それでは、導入当初から従業員の協力を取り付けることは困難になりますので、当該組織のブラックベルトの新陳代謝を早めることが次善策と言えます。
2. プロジェクト方式の弊害
シックスシグマはプロジェクトベースで進行しますが、この方式にはいくつかの弊害が存在します。特に、ISOなど他の改善手法と比較した際に、アプローチ、改善速度、目標設定の違いが明らかになります。
2.1 アプローチの違い(ISO取得企業を前提とした場合)
シックスシグマは統計的手法を用いた問題解決に重点を置いていますが、ISOは品質管理の全体的なフレームワークを提供します。シックスシグマは個別のプロジェクトに集中し、特定の問題を解決するアプローチを取る一方で、ISOは組織全体の品質管理システムを構築し、定期的な監査や標準化を通じて長期的な改善を進めます。
2.2 改善速度とフォーカスの違い
シックスシグマはプロジェクトごとに具体的な問題を特定し、迅速な改善を目指すため、短期的な成果を重視する傾向があります。しかし、この短期的な改善を求める結果、現場に過剰な負担がかかる場合もあります。一方で、ISOは全社的な品質基準の向上にフォーカスし、長期的な視点で持続可能な改善を重視します。
2.3 目標の設定方法
シックスシグマの運動を続けると、年々COPQ(不良コスト)によるムダなコストは減少します。そのため、年度ごとにCOPQを基準に目標を設定すると、シックスシグマ推進部門の予算は次第に縮小せざるを得なくなります。一方で、生産部門や生産技術、設計部門は、解決すべき課題に対して「シックスシグマとの連携」という表現を使って、予算を獲得しようとすることがあります(これは望ましくない状況です)。
以上を踏まえると、シックスシグマ推進組織がISO取得企業の一部であれば、両者の親和性が失われやすいことがわかります。また、専任のシックスシグマ推進組織の存在に関わらず、ブラックベルトはシックスシグマと時に通常業務の両方で成果を求められることもあるため、長期間にわたって役割を担わせることは避けるべきです。
まとめ
シックスシグマは強力な改善手法ですが、プロジェクト進行に伴う疲弊感や現場への負担が大きくなることがあります。持続的な改善活動として定着させるのは、組織文化との融合が欠かせません。
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