5. シックスシグマプロジェクトの選定基準はどうする?
筆者が転職活動をしていた時の話です。ある企業の面接でシックスシグマの話になりました。
「シックスシグマではどのような活動をされていましたか?」
との質問に対し、一般的な回答;ブラックベルトとして、対象製品は〇〇、工程では△△を対象に、□□の効果を得ました、と答えたところ;
「そんなことは聞いていない、もっと具体的なことを言ってください」
と、いわゆる圧迫系の面接がしばらく続きました。
後で伺ったところ、シックスシグマを導入していたX社に在籍していたとのことで、その方の言葉を借りれば「あんなもの全く効果がなかった」と吐き捨てます。よっぽど腹に据えたことがあったのでしょう。X社も面接を受けていた企業も誰もが知っている有名企業です。
かつてシックスシグマは、製造業を中心に品質向上やコスト削減を目指す強力な手法としてフィーチャーされました。本記事では、シックスシグマプロジェクトの選定基準や導入事例から得られる教訓、そして成功だけでなくリスクに関しても解説します。
1. シックスシグマ導入の成功と課題
シックスシグマを導入することで、多くの企業が品質改善とコスト削減を実現していますが、成功には課題も伴います。典型的なケースを見てみましょう。
当時、GE、モトローラの事例を参考にシックスシグマを導入した企業は、一時的に大きな成果を上げました。品質改善と生産効率向上を達成し、コスト削減にも成功しました。しかし、初期の成功に満足せず、継続的な改善を目指してシックスシグマを組織に定着させる「自社化」が求められました。これがうまくいかないと、成果が一時的なもので終わり、長期的な改善には結びつきません。
実際に、多くの企業ではシックスシグマで生産効率を改善しましたが、経営環境の変化など外的要因でいくつかの工場を閉鎖せざるを得ない企業も散見されました。このことは、シックスシグマの成功が企業全体の長期的な成功を保証するわけではないことを示唆しています。
筆者が在籍していた企業でもこのケースは経験しました。在籍していた企業ではシックスシグマは全社運動だったので、閉鎖が決まっている事業でさえ残酷にもテーマを求められます(「決まっている」と表現したのは、経営判断の段階で、この時点ではブラックベルトや当該事業の部長クラスでもこの事実を知らされていない段階)。全社のブラックベルトが参集する会議では、その事業のテーマの選定が報告されるのですが、担当ブラックベルトは「いい加減にしてくれ、人件費しか削るものがないじゃないか」と語気を強めます。
シックスシグマを長期的に成功させるには、経営戦略と一致した改善活動を企業文化として根付かせる必要があることは言うまでもありません。
2. シックスシグマプロジェクト選定の重要性
シックスシグマの効果を最大限に引き出すためには、取り組むべきプロジェクトを慎重に選定することが重要です。すべての課題がシックスシグマに適しているわけではないため、次の要素を考慮する必要があります。
経済的インパクト:コスト削減や利益拡大に大きな影響を与えるプロジェクトを優先します。経済的なインパクトが大きいプロジェクトほど、組織全体に好影響をもたらし、経営層の支持も得やすくなります。
顧客の重要要件(CTQ):CTQ(Critical to Quality)とは、顧客にとって重要な品質要件です。顧客満足に直結するプロセスを選定することが効果的です。CTQを満たすことで、顧客ロイヤルティの向上や長期的なビジネス成長に繋がります。
データの利用可能性:シックスシグマはデータに基づく手法です。そのため、選定するプロジェクトで十分なデータが取得可能であることが必要です。データがなければ、問題の特定や改善の効果測定が難しくなり、プロジェクトの成功確率が下がります。
適切なプロジェクトを選定することで、リソースを有効活用し、最大の成果を得ることができます。また、選定の際には、組織の戦略目標と一致させることが重要です。
3. CTQ(Critical to Quality)の重要性
プロジェクト選定において重要な要素の一つがCTQです。CTQは顧客にとって重要な品質要素を指し、顧客ニーズを正確に理解するための鍵となります。顧客からのフィードバック、クレーム、マーケット調査を参考にし、品質の要件を特定することで、最も効果的な改善プロジェクトを選定することが可能です。
CTQを明確にすることで、組織全体が一貫した目標を持ち、全従業員が同じ方向を目指して取り組むことができます。これにより、シックスシグマの導入効果を最大限に引き出し、顧客に対して一貫した高品質のサービスや製品を提供することができます。
ただ、このCTQは誰が選定するのでしょうか?経営課題を把握している経営幹部が選定しているのであれば、その課題を解決するにはシックスシグマは最適解なのでしょうか?シックスシグマがQC活動と異なる点は、ここにあります。QC活動の様に、ボトムアップ的に話は進んでいきませんので、経営幹部の関わりは成否の成否のキーファクターとなります。
4. シックスシグマの負の側面を理解する
シックスシグマは効果的な手法ですが、導入にはリスクも伴います。短期的な成功に満足して、シックスシグマを継続的に展開しないと、効果は持続しません。一度きりのプロジェクトに終わってしまうと、組織の成長に繋がらない可能性があります。
さらに、シックスシグマの導入には大きなコストと時間がかかります。シックスシグマがフィーチャーされた頃、ライセンサー(外部機関)へ支払う教育費用は、一人のブラックベルトあたり数百万円の費用が必要でした。加えて、教育期間中、ブラックベルト(この時点では候補)が従事していた業務は進捗が鈍ります。導入には多くの人員の関与が必要であり、通常の業務に対する負担となる可能性もあります。そのため、無理のない範囲でシックスシグマを導入し、リソース分散による業務効率の低下を防ぐことも求められます。
5. 適切なプロジェクト選定で成功を引き寄せる
シックスシグマを成功させるためには、適切なプロジェクト選定が不可欠です。CTQをしっかりと把握し、顧客にとって重要な要素に焦点を当てること、そしてデータが利用可能であることが成功のカギです。また、過去の事例に学び、導入当初の成功に満足せず、シックスシグマを自社文化として定着させることが求められます。
経営幹部のリーダーシップもシックスシグマの成功において非常に重要です。強力なリーダーシップがあれば、従業員全体が目標に向かって一体感を持って取り組むことができます。プロジェクトを選定する際には、組織の長期的ビジョンと一致する取り組みを選び、持続的な成長を促進しましょう。
さらに、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、プロジェクトの進捗と成果を評価することで、シックスシグマ活動の効果を可視化し、必要に応じて迅速に改善策を講じることができます。
まとめ
シックスシグマプロジェクトの選定は、経済的インパクト、顧客の重要要件(CTQ)、データの利用可能性といった観点から行うことが重要で、加えてこれまでの記述をまとめると、組織の高い階層のメンバーが以下を把握しているかが成否の鍵を握ると言えます。
「品質に与える致命的な要因をシックスシグマレベルに押し上げることが必要なのか?必要であればどの品質か?」
また、シックスシグマの成功を長期にわたって維持するためには、自社化を図り、継続的な改善を目指す必要があります。過去の事例から、一時的な成功に終わらせず、改善活動を企業文化に根付かせることで、真の成果を達成できることがわかります。
シックスシグマのプロジェクト選定と運用においては、成功の側面だけでなくリスクや負の側面も理解し、バランスの取れたアプローチを取ることが求められます。適切なプロジェクトを選べば、シックスシグマは企業に大きな変革と成長をもたらす強力なツールとなるでしょう。また、強力なリーダーシップと従業員の協力を得て進めることで、戦略的な視点を持ち、持続的な改善文化を構築し、企業全体での成長と成功を実現することが可能です。
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