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15. シックスシグマ活動で他部署との協力を得るためのコミュニケーション戦略、18. シックスシグマが現場のコミュニケーションに与える影響
シックスシグマ活動を成功に導くには、他部署との協力が欠かせません。しかし、他部署から理解と協力を得ることは、多くの現場で課題となることが多いです。この記事では、他部署との効果的なコミュニケーション戦略について考察し、シックスシグマ活動を円滑に進める方法を紹介します。
筆者がブラックベルトとして(当時候補生)プロジェクトを担当していた時、最初に招集した会議には誰も集まりませんでした。メンバーは現場の主任クラス、設計担当などクロスファンクショナルな構成で、生産現場でも喫煙が可能、かつ自販機もある休憩所兼打ち合わせスペースでざっくばらんに話ができればと考えていましたが、筆者は、そこでひとり苦いコーヒーを飲むことになりました(その後、会議は無事行われましたが・・・)。
やはり、最初は、プロジェクトはどこへ向かっているのか、そして、それはどのようなメリットがあるのかをチームプラス構成メンバーの上司で共有しなければ、プロジェクトは、通常業務に加わるボランティア業務的な色合いが濃いため賛同は得られません。以下にいくつかの点について述べていきます。
15. 1) 共通のゴールを設定する
シックスシグマ活動を効果的に進めるためには、プロジェクトの目的を他部署と共有し、共通のゴールを設定することが重要です。他部署にとって「なぜこのプロジェクトに参加する必要があるのか」を理解してもらうことが協力を得る鍵となります。シックスシグマの取り組みが全体的な業務効率やコスト削減にどのように貢献するのかを明確に説明することで、他部署の理解と協力を促進できます。
共通のゴールを設定する際には、他部署のニーズや期待にも耳を傾けることが大切です。プロジェクト全体の成功には、全員が納得し、共通のビジョンを持つことが必要です。各部署が抱える課題を理解し、それらに対してどのようにシックスシグマが解決策を提供するかを示すことで、協力の意義を伝えることができます。そして、プロジェクトによりどのような関連部署のメンバーで運営していくのかも大切な一面となります。
さらに、プロジェクトの初期段階で目標を具体的に設定し、それを段階的に達成することで成果を示すことが重要です。小さな成功を積み重ねることで、他部署のメンバーにもシックスシグマの有用性が伝わり、協力が得られやすくなります。
15. 2) 信頼関係の構築
他部署との信頼関係を構築することも、効果的なコミュニケーション戦略の一部です。信頼関係を築くためには、定期的な情報共有やオープンな対話が不可欠です。シックスシグマ活動に関連するデータや進捗状況を透明に共有することで、他部署のメンバーもプロジェクトの成果に対する理解が深まり、協力意識が高まります。シックスシグマでは、各フェーズごとにコミュニケーションを図ることが一般的です。
また、構成メンバーで言えば、通常業務でもつながりのある方の見極めは重要です。ブラックベルトに任命されている方は、通常業務にも精通していることが多いため、人材面の見極めは問題ないかと思われます。
筆者がお世話になったシックシグマのライセンサー、もしくは経営幹部は「ブラックベルトは、どのようなセクションであれプロジェクトのリーダーを遂行できる」との考えがありました。極端な例で言えば、営業出身のブラックベルトが製造プロジェクトを担当し、製造出身のブラックベルトと同様の成果を享受できる、というものです。
この考え方には筆者は懐疑的です。余程、そのプロジェクトに精通したグリーンベルトに協力していただかない限り、成功裏に運営できません。当時、当該企業では、最初のプロジェクトだけメンバーの出身をシャッフルしてプロジェクトが遂行されましたが、やはり、以降はシャッフルしませんでした。
最後に、チームミーティングやワークショップを活用して、他部署との交流の機会を増やすことも有効です。これにより、部署間の壁を取り払い、協力的な雰囲気を作り出すことができます。定期的なフィードバックセッションを設けることで、問題が早期に発見され、迅速に対応することが可能になります。
当該企業では、筆者を含め多くのブラックベルトは、例えば、製造出身のブラックベルトは営業のプロジェクトへ参画したりと、他のセクションへのプロジェクトの参画により「事業」としての感覚を養うことを求められており、ヒトの交流は積極的に実施されていました。
15. 3) ウィンウィンの関係を強調する
他部署がシックスシグマ活動に参加することで得られる具体的なメリットを強調しましょう。例えば、業務負荷の軽減や品質向上、顧客満足度の向上などは、どの部署にとってもプラスの要素です。プロジェクトがもたらすポジティブな影響を明確に伝えることで、他部署からの協力を得やすくなります。
シックスシグマのメリットを伝える際には、具体的な数字や実績を用いると効果的です。例えば、過去のプロジェクトでどれだけコストが削減されたか、品質がどの程度向上したかなど、具体的な成果を示すことで、他部署もその取り組みに対する価値を実感しやすくなります。
より具体的には、プロジェクトのどのような成果を通常業務の成果としてカウントしていいか、です。
組織の構成上、プロジェクトの成果はシックスシグマ運営室では受け入れることができません(例えば、歩留まりの改善は、当該工場の成果としてカウントされます)。プロジェクトの成果は、構成メンバーのセクションでうまく分配することで、通常業務へのプラスとなります。
そうすることで、構成メンバーにとってもメリットのある関係を築くことができます。これにより、プロジェクトへの参加意欲が高まり、積極的な協力が得られるようになります。
次に、シックスシグマ活動における、現場のコミュニケーションの影響について詳しく述べていきます。
18. 1) データに基づく対話の促進
シックスシグマ活動では、データに基づいて問題を分析し、解決策を導き出します。このプロセスを通じて、現場のメンバーは感覚や経験に頼るのではなく、データに基づいて議論する文化を育むことができます。これにより、コミュニケーションの質が向上し、根拠に基づいた意思決定が可能になります。
データに基づく対話は、感情的な議論を避け、客観的な視点から問題を解決するための基盤となります。これにより、意見の対立があっても、論理的な根拠に基づいて議論を進めることができるため、建設的なコミュニケーションが促進されます。また、データの透明性を高めることで、全員が同じ情報を共有し、一貫した方向性で議論を進めることができます。
さらに、データに基づく対話は、意思決定の迅速化にもつながります。現場のメンバーは直感や経験に頼らず、データを基にした分析結果をもとに迅速に行動することができます。これにより、プロジェクト全体の効率が向上し、成果を早期に得ることが可能になります。
18. 2) チーム間の連携強化
シックスシグマの取り組みは、多くの場合、異なる部署やチームからの参加を求めます。その結果、普段はあまり関わることのない部署同士でのコミュニケーションが促進され、部門横断的な連携が強化されます。異なる視点を持つメンバーが協力することで、新たなアイデアや解決策が生まれやすくなり、全体的な業務改善が期待できます。
部門横断的なプロジェクトでは、各部署の専門知識が活用されることで、より包括的で効果的な解決策が生まれます。また、異なるバックグラウンドを持つメンバー同士が協力することで、各自のスキルセットが補完され、チーム全体の能力が向上します。これにより、部署間の壁を越えたコラボレーションが生まれ、組織全体としての成長が期待できます。
シックスシグマの導入を決めている経営幹部は、成果ばかりに気がいっているわけではありません(もし、そうであれば見限ってください)。シックスシグマに限らず、このような何らかの全社運動の展開は、リトマス紙であり、何らかの投影機です。それは、従業員を見極めるものかもしれませんし、筆者の所属している企業では将来の管理職の適正なのかもしれません。経営幹部だけではなく、実際のメンバー間でもいつもとはことなる面、あるセクションの種々の事情も見えてきます。
プロジェクトも数をこなしていけば・・・いや、通常業務でも仕事はできる人に集まります。彼らとコミュニケーションを図ることは、通常の業務でも大いに役立ちます。反対に、有力部署の看板を背景に業務をしていたメンバーの能力も白日の下にさらされます。プロジェクトは能力の結集ですので、ある意味残酷かもしれません。
18. 3) 問題解決スキルの向上
シックスシグマの手法を活用することで、現場のメンバーは問題解決スキルを向上させることができます。これにより、日常的な業務でのトラブルにも迅速に対応でき、コミュニケーションもより円滑になります。問題解決に対する積極的な姿勢が共有されることで、現場全体に前向きなコミュニケーション文化が根付いていきます。
シックスシグマの手法は、問題を段階的に分析し、根本原因を特定して解決策を導き出すプロセスに重点を置いています。これにより、現場のメンバーは単に表面的な問題を解決するだけでなく、問題の根本にある要因に対処することができるようになります。このスキルは、日常業務でのトラブル対応にも応用可能であり、組織全体の問題解決能力を高めます。
また、問題解決スキルの向上に伴い、メンバー同士の協力意識も高まります。各自が持つ知識やスキルを共有し、チーム全体で問題に取り組むことで、より効果的な解決策を見出すことができます。これにより、チーム全体が一体となって課題に立ち向かう文化が醸成され、職場全体のコミュニケーションがよりオープンで建設的なものになります。
まとめ
シックスシグマ活動は、単なるプロセス改善にとどまらず、他部署との協力関係を築くための重要なコミュニケーション戦略を提供し、現場全体のコミュニケーションにも大きな影響を与えます。共通のゴールの設定、信頼関係の構築、データに基づく対話の促進を通じて、チーム全体の業務改善と生産性向上を目指しましょう。
シックスシグマ活動を成功させるためには、他部署との協力が不可欠です。これらのコミュニケーション戦略を活用し、現場のコミュニケーションを強化することで、シックスシグマがあなたの職場に新たな変革をもたらすきっかけになるでしょう。
シックスシグマ展開による、組織・人材へのリトマス紙、投影機を通して、あなたの所属している組織の査定も大切な活動の一つです。