12, 13, シックスシグマと他の改善手法の融合およびデータ分析ツールの課題と解決策
シックスシグマは、品質管理やプロセス改善のための強力な手法として広く知られていますが、他の改善活動、例えばカイゼン(継続的改善)との併用によってさらに効果を発揮することができます。そういった中で、シックスシグマのプロジェクトで使用されるデータ分析ツールには現場からの不満が多く、その解決策を考えることも重要です。本記事では、シックスシグマと他の手法をどのように融合できるか、また、データ分析ツールに関する現場の声とその解決策を探ります。
1. シックスシグマと他の改善手法の融合
シックスシグマは、統計的手法を用いて品質を向上させるアプローチですが、他の改善活動と組み合わせることで、さらなる成果を得ることができます。特にカイゼンのような文化に根差した継続的改善活動との併用は、現場での柔軟な対応や長期的な改善に寄与しますが、ここでは、より顧客領域に近い手法を紹介します。
1-1. C&D(Connect & Development), TRIZ, QFDとの融合 [1]-[3]
シックスシグマの強みを活かしつつ、他の手法も組み合わせることで、さまざまなプロジェクトでの効果を最大化できます。具体的には、以下の手法との融合が効果的と報告されています。
C&D (Connect & Development): 製品開発のプロセスにおいて、顧客のニーズを素早く取り入れることで、シックスシグマが目指す品質改善を強化できます。C&Dは、迅速な市場対応と改善プロセスをシームレスに結びつける役割を果たします。
C&Dについて:https://sites.google.com/site/techdmba/c&dTRIZ (Theory of Inventive Problem Solving): 創造的問題解決のための手法であり、シックスシグマのデータに基づいた改善活動に対して、革新的な解決策を見出すためのアプローチとして有効です。特に、新しい製品やサービスの開発において、TRIZは有用な手段です。
TRIZについて;TRIZホームページ:https://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/QFD (品質機能展開): 製品の設計から顧客ニーズに対応するための手法としてQFDを導入することで、シックスシグマプロジェクトの目標をより具体的に設定できます。顧客の要望を反映したデータ分析とプロセス改善に焦点を当てることで、より高い満足度を提供します。
QFDとは:https://www.i-juse.co.jp/statistics/product/func/process/qfd.html
1-2. 種々の手法と融合する際の課題
シックスシグマと他の改善手法を融合させる際には、いくつかの課題があります。特に、効果金額の算出方法が異なる点が一つの障害となることが散見されます。たとえば、シックスシグマ活動が応用研究を業務とするセクションへ展開された場合、効果金額が「統計的な手法を用いることで、試作の回数が削減された」では、手法を導入した期待ではないかもしれません。
実際、活動を進めていくと、この記事でも述べたように、ブラックベルトは「ネタ切れ」で疲弊しはじめます。するとどうしても、シックスシグマが取り扱う問題解決フェーズの前の段階に注目し始めます(応用研究段階など)。上記1-1)で紹介した手法は、研究開発、応用開発、もしくは設計段階の直前に相当します(TRIZ自体は手法が多岐にわたるのでこの限りではありませんが。。。)。
そうしてプロジェクトの活動の幅を拡大していくと、当然、効果金額の算出方法が異なるので、コンフリクトが発生し始めます。確かに、シックスシグマではDFSS(Design for Six Sigma)も展開されており、ここでは、NPV(正味現在価値)を算出し、指標として取り扱っています。
では、NPVを算出する際の割引率をどのように設定すればいいでしょうか?また、NPVでは、将来の不確実性を考慮しにくいという点で、プロジェクト(取り扱う事業)により、NPVでは不十分ではないでしょうか?
*この点は、この議論だけで論が立つほど議論の余地があります。
結局、プロジェクトの幅や奥行きや幅を広げると、活動は総合的になっていき、通常の業務での活動と差異がなくなっていきます。
この頃・・・ある程度活動が進んできた組織で活動の分析が行われると、カイゼンに関連するプロジェクトは、つつがなく実施、終了している反面、上記のようなプロジェクトは中止が目立ってきます。理由のほとんどは事業環境の変化や顧客の都合によるものです。
組織(または企業)は、この時点がシックシグマに変わる運動を展開するか、継続するかを決めるタイミングです。
2. データ分析ツールに関する現場の不満と解決策
シックスシグマにおいて、データ分析はプロセス改善の基盤となります。しかし、現場で使用されているデータ分析ツールに対して不満が上がることが少なくありません。その主な理由と解決策を見ていきましょう。
2-1. 現場での主な不満とその根本原因
現場での不満の多くは、データ分析ツールの使い勝手や機能性に関するものです。プロジェクトが始まり、データを測定することが決まるとすぐに、測定システムの確認:GageR&Rが実施されます。例えば、IATF16949の認証を受けている企業であれば慣れているかもしれませんが、そうでない企業では実施に時間を要するかもしれません。
ツールの複雑さ: 上述のように、シックスシグマでは多くのデータ分析ツールは高度な統計知識を必要とし、非専門家には難解な面があります。ブラックベルトの研修では、分析フェーズでの研修は重厚で、どのようなプロジェクトでも統計的に解析ができるように教育されますが、現場の担当者がツールを効果的に使用できないため、結果的にプロジェクトの進行が遅れることがあります。
また、前項のように活動に広がりが出てきた場合は、ブラックベルト自身も習得しなければならない事柄が発生します。
コストの問題: 高度なデータ分析ツールは高価であり、特に中小企業にとっては導入コストが大きな負担となることがあります。基本的には、企業には主流とする(品質保証、管理部門が通常使用する)ソフトウェアがあると思います。シックスシグマが流行した当初、統計ソフトはMinitabがよく使用されていました。ただ、伝統的な日本の製造業では、日科技研のJUSE-StatWorksが使用されていることが多いと思います。シックスシグマにも対応しているので、コスト面ではMinitabに比べるとこちらの方が好適です(Minitabはスタンドアロンではなく、年間サブスクリプションですので高額になるのも理由です)。
2-3. 効果的な解決策
これらの課題に対する解決策として、いくつかのアプローチが考えられます。
使いやすいツールの導入: 筆者が経験した企業では、シックスシグマ導入には、担当のコンサルタント企業がMinitabをパッケージにして教育が始まりましたが、従来、品質保証部門では日科技研のJUSE-StatWorksが使用されており、組織としては2本立てになってしまいました。やがて、シックスシグマを止めた際、「Minitabはシックシグマ」という変なレッテルが張られ、統計ソフトとしてはMinitabは他のソフトウェアにも劣らないにも関わらず、また、解析した統計解析の内容に関わらず、「シックスシグマは終わったんだよね」のニュアンスを込めた意見を頂戴することが続きました。シックスシグマは、統計ソフトが必須ですので組織の事情に沿ったソフトウェアを選択することが薦められます。
教育とトレーニング: ツールの使い方に関する定期的なトレーニングを実施することで、現場の担当者が自信を持ってツールを使えるようになります。また、ツールに精通したエキスパートをプロジェクトチームに配置することも効果的です。
3. 結論
シックスシグマは、データに基づいたプロセス改善を可能にする強力な手法ですが、他の改善活動と組み合わせることでさらに高い効果を発揮します。一方で、データ分析ツールに対する現場の不満は解決すべき課題として存在しており、適切なツールの選定やトレーニングの実施が重要です。これらを考慮し、シックスシグマプロジェクトを成功に導くための総合的なアプローチを採用することが求められます。
参考文献
[1] Johnson, A., “Six Sigma in R&D” Research Technology Management, 45, pp. 12-16, 2002.
[2] Smith, L., “Six Sigma and the Evolution of Quality in Product Development”, Six Sigma Forum. Magazine, pp. 28-35, Nov 2001.
[3] Hipple, J., “The Integration of TRIZ with Other Ideation Tools and Processes as well as with Psychological Assessment Tools”, Creativity and Innovation Management, 14, pp. 22-33, 2005.
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