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17. シックスシグマ;現場での測定システムの限界とその克服法

シックスシグマにおける測定システムは、プロジェクトの成功を左右する重要な要素です。早速、例を挙げてみましょう。


あるプロジェクトの効果金額を算出すると、数百万円/月に及ぶことが判明しました。それは製品の強度を検査後、所定の強度に満たない製品の廃棄コストが算出根拠に挙げられていました。

各事業部門のブラックベルトが参集する会議でこのことが議題に挙がり、そのプロジェクトでは、製品の強度が低いことが問題なのではなく、測定の精度が低いことが問題であることが推定されました。実際、測定精度が低いため、カイゼン活動での成果もわかりにくく、問題が放置されていました。

本記事は、測定システムの話です。


シックスシグマにおける測定システムの役割

シックスシグマは、製品やプロセスの品質を向上させるための統計的手法を駆使した管理手法です。この手法では、「測定(Measure)」のステージが極めて重要で、プロセスのデータを正確に測定することで、問題点を特定し、改善策を導き出すことが可能です。

しかし、測定システムが不正確だったり不十分であった場合、その結果として導かれるデータは信頼性が低く、改善の方向性が誤る可能性があります。

現場での測定システムの限界とは?

多くの企業では、測定システムが直面する以下のような限界があります:

  1. データのばらつき:測定機器の精度や操作員の技量により、測定結果が一定ではなくばらつくことがあります。

  2. システムの老朽化:古い測定システムや機器を使用している場合、正確なデータ取得が困難になることがあります。

  3. 測定範囲の制約:一部のシステムは、特定のパラメータしか測定できず、複数の変数が絡む現場では対応できないことがあります。

測定システムの限界がもたらす課題

限界を持つ測定システムは、シックスシグマのプロジェクトに以下のような影響を与える可能性があります:

  • 改善策の効果測定の困難:限界を持つ測定システムでは、やはり統計解析でも限界があり、改善のために導き出した要因のピントがずれ、改善策の効果すら適切に評価することが難しくなります。

  • 誤ったデータに基づく意思決定:不正確なデータは、要因を見つけるための統計解析の目を濁らせ、問題の誤認識や、無駄なコストをかけた改善策を導く原因となります。

  • プロセスの安定性の欠如:測定システムが安定しない場合、プロセス自体の改善が困難になり、変動を抑えることができません。いや、そもそもそのプロセスが安定しないと言えるのか信頼が置けません。プロセスは、その測定対象の数値が高めであれ、低めであれ、安定させることが第一歩です。

では、精度としてはどの程度ならいいのでしょうか?すべてのケースに当てはまるとは限りませんが、以下のケースが参考になると思います。
*あまりに単純な例ですのでご容赦ください。

そのプロジェクトでの測定対象は、ペースト状の混合物で、質量は10.65±0.10gと規定されていました。有体に言えば、10.55~10.75gが範囲になります。

0.01g単位で測定できる電子天秤で測定しましたが、測定したデータに正規性は認められません。一見、測定システムに問題はなさそうですが、よくよくデータを見てみると、データは10.60~10.70gの範囲に高い頻度で確認されました。

お気づきの方もいらっしゃると思いますが、この場合、0.01g単位で測定しているので10.61g, 10.67g, 10.69g, など、実質小数点第2位の0~9までのデータを測定していることと同じこととなります。精度は高いかもしれませんが、分析するにはデータの離散が連続的とは言い難い状況です。

あくまで数学的なことは?ですが、経験的には、測定する場合、データが動く範囲は3桁程度でうまくいきました。どういうことかと言えば、より精度の高い電子天秤を用いて0.001g単位の測定を可能にし、10.597g, 10.691g, 10.721g, など3桁が動く程度にすると、統計解析の際に大きな問題がありませんでした。 

ここが、しっかりしていないと、工程能力の計算や、有意差検定においても支障がでてしまい、問題の原因、カイゼンの因子の効果も見逃してしまいます。

測定システムの克服法

限界を克服するための主な方法には、以下のようなアプローチが考えられます:

  1. 測定システムのキャリブレーション:定期的なキャリブレーションを実施することで、測定機器の精度を保ちます。日常点検の実施が該当します。

  2. トレーニングの強化:オペレーターに対する測定手法や機器の操作についての定期的なトレーニングを実施することで、測定誤差を最小限に抑えます。ISO取得企業でも日常的に行われている事項です。

  3. 新技術の導入:最新の測定技術やデジタルツールを導入し、測定のばらつきを減らし、リアルタイムのデータ取得を可能にします。

  4. Gage R&R(Repeatability and Reproducibility)の実施:シックスシグマにおいて必ず実施するGage R&R分析を用いることで、測定システムの信頼性を評価し、改良の方向性を見極めます。

測定システム改善の実際の事例を聞く

実際の改善事例を紹介することで、メンバーが具体的なイメージを持ちやすくなります。自身の所属する産業などで導入された最新の測定システムが、シックスシグマのプロジェクトでどのように活用され、結果として製品の不良率がどの程度改善されたか、などを具体的に示すとよいでしょう。

産業やプロジェクトの性質はあるかと思いますが、シックスシグマが流行していた当初、測定システムに何らかの問題があったプロジェクトは約6割に及ぶと聞いたことがあります(筆者が担当していた企業では、ここまで高くはなかったですが)。*これは教育を受けているコンサルタント企業に依頼すれば好適な例を示してくれるはずです。

そして、測定システムにこだわり続けたブラックベルトは、どこかのセクションで故意に作成されたデータ、都合の悪い箇所を削除しているデータ、規格内に入っているのにヒストグラムが歪なデータ・・・など、鋭く見抜くことでしょう。


さて、冒頭の「所定の強度に満たない製品」の測定システムは、まず精度を高めることを実施しました。すると、製品の強度は安定しており、製品の強度に問題があったわけではないことが確認できました。

こうなれば、シックスシグマは強みを発揮します。データを取得、解析、最適化することで、安定的に強度を高めることにも成功し、その効果金額を享受しました。

この例は、当該企業では、測定システムの確立がいかに大切かの教材となり、その後の教育にも反映されました。

結論

シックスシグマにおける測定システムは、プロジェクトの成功を左右する重要な要素です。限界を持つ測定システムをそのままにしておくと、誤ったデータに基づく改善策を導き出すリスクがあります。しかし、定期的なキャリブレーションやトレーニング、そして最新技術の導入を通じて、測定システムの限界を克服することが可能です。これにより、シックスシグマプロジェクトの精度を向上させ、継続的なプロセス改善が可能となります。

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