溜池山王にあるプルデンシャルビルで働いている人とお茶をした。
「なんか体調が悪いんだ・・・」
と苦しそうな顔をする。そりゃそうでしょ。背中に凄いのが乗ってます・・・と思っても言うわけにはいかない。
「いつから具合悪いんですか?」
と聞くと、そのビルで働くようになってからだそうだ。夜は幽霊が出ることもあるらしい。その場でネットで調べてみると、昔、ホテルニュージャパンというのが建っていて、大火災が起こったそうだ。その跡地に建てたビルらしい。そりゃ、いろいろ居そうだな・・・と思った。今、私が、それを外してあげても、また、職場に行くと、また、こういう幽霊を拾いそうだなと思った。丁度、持っていた、京都のお土産やさんで買った和風のしつらえの小鏡を手渡した。
「私の曾祖母は昔、お姫様だったんです。直接会ったことはないけど、言い伝えで、小さい鏡の鏡面を胸にあてて持ち歩くと幽霊系のものが防げるみたいですよ」
と言うと、後ろの凄いのが嫌だという顔をして、こちらを睨む。私は鏡面を彼女の胸に向けて、スーツのポケットに入れてあげた。正直、そんな言い伝えは無いし、鏡の所持だけでは心もとないが、取り敢えず、その時に彼女に憑いていたものは取れた。その幽霊が彼女に対して恨みがあるとかではないので、取れやすかったみたいだ。根本的な解決は出来ないけれど、彼女の命を取るとかいうほどの強さでは無かったので、それ以上は話さなかった。

 しかし、とても気になったので、後日、そのビルに行ってみた。入口の前を通るだけでも、地面から手がにょきにょき出て来て、私の足を掴んでくる。参ったなと思って、その日は入り口の辺りを廻って退散した。近くに日枝神社があったので、参拝して、そのビルとの境を探した。目視できるのに、霊的なバリアが白く大きな壁のような形で貼られていてエネルギーを飛ばすことが出来ない。どういうバリアが張られているのか、よく分からなかった。バリアの様子を確認するために、改めて別の日に、近くのアパホテルの日枝神社が見える部屋を予約してもらい、そこから見てみた。私は日枝神社がバリアが張られているのかなと思っていたけど、実際、上から見てみると、プルデンシャルのビルを白い繭のような網状のもので固められていたのだ。護るためなのか、閉じ込めるためなのか分からなかったが、嫌な感じはしなかった。

 改めて他の日に、自分の体調を整えて、天気の良い昼間に、プルデンシャルのビルに入ってみた。入り口から沢山の手に足を掴まれた。動けないというわけでもないので、中に入り、ベンチに腰かけた。隣には品の良い老夫婦がスタバのコーヒーを飲みながら座っている。目が合ったので軽く会釈すると、ご婦人が近づいてきて小さな声で
「あなたは浄化する人ね」
と言ったので、びっくりしながら頷いた。
「びっくりしなくていいの。私たちもそうだから」
と言って微笑んだ。
「パートナーはどこ?」
と聞かれたので、
「一人で回ってます」
と言うと、驚いた顔をして
「それは大変ね」
と言ってから、自分のことを話してくれた。
「私たちは、このビルの担当。昔、大火事があって、沢山の方が亡くなって、まだ成仏出来てないわ。その方たちが自分が亡くなったということを理解して受け入れるようにお手伝いしているの・・・あなたは、また違う仕事をしているみたいだけど・・・」
なんて返事したらいいのか戸惑いながらも
「姫神様たちと旅をしているんです」
と返事したら、大笑いされてしまった。
「あなた、面白いわね・・・確かに、せっかちな方々とご一緒みたいだから、あちこち行かされて大変なんでしょうね・・・それもいいわね」
と言われた。
「お二人は、ずっと、このビルを担当されているのでしょうか? 顔が割れて、警備の人とかに警戒されないんですか?」
と聞くと、また、笑って
「あらら。私たち、毎日、違う外見で歩いているから大丈夫。あなたはシェイプシフトしないの?」
と聞かれたので
「しないのでなく、出来ません」
と返事すると、また大笑いされた。それまで黙っていた旦那さんのほうが、こちらを向いて
「シェイプシフトの必要はないよ。物凄くエネルギー使うし、君はやらなくていいと思う・・・それより、一緒にいる、姫神様じゃなくって、男性の神様が、ぶどう寺に行って欲しいって言ってるよ」
と言った。
「私、イマイチ、その男性の神様とコンタクトが上手に取れなくて、どこか行って欲しいところがあるのかなと思ったけど、メッセージが拾えなかったので、・・・ぶどう寺と仰っているんですね?」
と聞くと
「うん、そう言ってる。男性の神様のメッセージは男性を使って聞き出せばいいんじゃない?良い悪いとか、相性がとかいうことでなく、受け取りにくいだけだよ。頑張ってね・・・
あと、ここは、私たち以外にも沢山の人がコミットしてるから、心配せず、自分の担当の仕事をしなさいね」
と励まされた。私は、どうしても気になったので、
「このビルが繭みたいなものに包まれているように見えたんですが・・・何なんでしょう?」
と聞くと、旦那さんが
「まあ、工事中の建物のカバーみたいなものだよ。工事中、ビルの外の人が安全であるようにかけておくと考えて良いと思う」
と答えてくれたので
「中の人の安全は難しいですか?」
と聞くと、苦笑いしながら
「まあ、ちょっと難しいね。出来たら、あんまり入って欲しくないかな・・・」
という返事だった。