映画の感想 「シモーヌ」を観て
1 映画のテーマ
この映画のテーマは、主人公シモーヌが彼女の生涯を通じて取り組んだ人権問題であると思う。
映画は冒頭に、1974年のフランスの国会の様子が現れる。フランスは大部分がカトリック教徒であり、しかも男性ばかりの国会において、シモーヌは「人工妊娠中絶」の合法化のために次のように向けて訴えた。「喜んで中絶する女性はいません。中絶が悲劇だと確信するには、女性に聞けば十分です」この場面から、主人公のシモーヌが女性の諸権利獲得のため奮闘する姿がテーマであるのだろうかと一瞬思った。しかし、映画の進行と共に、シモーヌがその生涯をかけて取り組んだのは、様々な人権問題であるということが次第に分かって来る。
2 シモーヌとは
なぜそこまで一生かけてシモーヌは人権問題に取り組んだのか、それには彼女の生い立ちが背景にあると思う。シモーヌとはシモーヌ・ヴェイユ(1927年~2017年)という女性のことであり、欧州諸共同体欧州議会議長(1979年7月~1982年1月)に初の女性議長として就任した人である。
3 シモーヌが生きた時代とその環境
彼女はフランスのニースでユダヤ系の家庭に生まれている。父は建築家であり、母は化学を学んでいたが結婚を期に学業を断念している。映画の中で、ナチスがフランスを支配する前、兄と姉2二人と共に、この家族が睦まじく暮らしている様子が描かれている。
1943年9月にはドイツ国防軍がニースでユダヤ人を一斉に検挙を始めた。シモーヌと父、母、兄、姉の一人マドレーヌは検挙され、1944年5月ドイツ占領下のバルト諸国に向かう列車に乗せられた。映画ではこの時の様子が詳しく描かれている。
シモーヌは母とマドレーヌと共にアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に送られ、父、兄とは途中で生き別れになっている(結局消息不明のまま)。また、もう一人の姉ドゥニーズはフランスでレジスタンス運動に参加し、検挙されたがユダヤ人であることを隠し戦後生還している。
強制収容所において家畜以下のような扱いを受けた心的外傷(トラウマ)は、戦後になってもシモーヌを度々襲った。そんな中でもシモーヌは司法試験に受かると、その後治安判事の仕事を始めた。そして、司法省刑務局の勤務時代には、刑務所における女性の問題やフランス領アルジェリアの刑務所などの様々な人権問題に取り組んでいる。
刑務所というと、そこに暮らす囚人にとって、環境はあまり良くなくても
いくらか止む得ない面があるのではないか。そんな考えを持つ人がいるかもしれない。しかし、シモーヌが実際に視察した当時の刑務所は、あまりにも環境が悪く、シモーヌ自らが体験した強制収容所の生活を連想させるものであったのだろう。このように人間が人間らしく生きるために、「人権」に対する思いは大変強い信念があったのであろう。
4 この映画が私に訴えたこと
この映画は2022年制作であるが、この映画を観るとウクライナでの戦争やイスラエルにおけるパレスチナの人々の置かれた状況を連想して、大変複雑な気持ちになる。イスラエルの人々はこの映画を観てどう思うのだろうか。この映画で描れた深刻な人権問題は、過ぎた過去の出来事ではなく、21世紀の現在において今もなお進行している人権問題でもあると思う。
5 監督・キャスト
監督 オリヴィエ・ダアン
キャスト エルザ・ジルベルスタイン
(シモーヌ・ヴェイユ役 1968-2006)
レベッカ・マルデール
(シモーヌ・ヴェイユ役 1944-1965)
オリヴィエ・グルメ
(アントワーヌ役:シモーヌの夫)
エロディ・ブシェーズ
(イヴォンヌ役:シモーヌの母)
6 資料
上記の文章作成のために、以下の資料を参考にしました。
映画シモーヌ HP
https://simonemoviejp.com/
シモーヌ・ヴェイユ ウィキペデイアより
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A6_(%E6%94%BF%E6%B2%BB%E5%AE%B6)