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タイムトラベル×AED  江戸時代中期編 エレキテルと未来の光

はじめに

この物語はフィクションであり、実際の歴史や人物、そして科学技術に基づく部分と創作部分が含まれています。

たとえば、平賀源内(1728–1780)は江戸時代の発明家・博学者として知られ、エレキテルを用いた実験で「雷」の力を広めましたが、医療器具としての利用は行われていません。
また、蔦屋重三郎(1750–1797)は江戸の出版業の先駆者であり、浮世絵や文学の発展に貢献しましたが、物語内で描かれる出会いは創作に基づくものです。

さらに、AED(自動体外式除細動器)の使用に関する描写も、物語を盛り上げるための演出です。

現実のAEDは心停止状態の人を救うための医療機器であり、戦いや防御の道具として使用するものではありません。

正しい知識と使用法を学ぶことで、多くの命を救うことが可能です。

本作は、歴史や科学技術への興味を深めるきっかけとして、過去の偉人たちの功績や未来技術の可能性を考える手助けになればと願っています。この描写がフィクションであることをご理解の上、お楽しみください。


登場人物一覧

主人公たち

  • ユウキ
    小学5年生の男の子で歴史好き。特に江戸時代に興味があり、平賀源内や蔦屋重三郎といった偉人たちに会うことを夢見ている。どんなピンチでも冷静な判断力を発揮し、仲間とともに問題を乗り越える。

  • アヤカ
    ユウキの幼なじみでしっかり者の小学5年生の女の子。歴史にはそれほど興味はないが、ユウキに振り回されつつも一緒に冒険に参加。危機的状況でも行動力を発揮する頼れる存在。

江戸時代の人物

  • 平賀源内(ひらが げんない)
    江戸時代を代表する発明家・学者。エレキテルをはじめ、さまざまな発明や知識で知られる博識の人物。物語ではその知恵が重要な場面で役立つことに。ユウキたちと出会い、未来の技術にも興味を示す。

  • 蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)
    江戸時代のメディア王。江戸の出版業を牽引した文化人で、数多くの書物や浮世絵を世に送り出した人物。源内とも親交があり、物語中では重要な役割を果たす。彼の行動がユウキたちの冒険に大きな影響を与える。

謎の存在

  • タイムドクター
    未来の科学者で、ユウキたちを歴史改変者の陰謀から守るために助力する。江戸時代へのタイムトラベルを可能にする装置を持ち、子供たちに危機的な任務を託す。彼の存在が物語の鍵を握る。

  • 黒装束の男
    歴史改変者の一人。源内の発明や江戸時代の歴史に介入しようとする謎の存在。


第一章:雷の道標

「よっしゃー!源内先生に会いに行くぞー!」 下校途中、江戸時代の授業を終えたばかりの天野ユウキは拳を突き上げて叫んだ。隣を歩く幼なじみの佐藤アヤカは、相棒の熱さに笑みを浮かべる。

「もう、ユウキったら。でも、私も会ってみたいな。エレキテルってすっごく面白そうだもん!」

「だろ? エレキテルを作れる人なら、絶対AEDのことだって理解できるはずだってば!」 ユウキは勢いよくランドセルから教科書を取り出した。

その時、空気が歪んだような違和感が二人を包んだ。

「やあ、待っていたよ」

振り返ると、白衣を着た老人が立っていた。「タイムドクター」と呼ばれる謎の科学者だ。二人は以前、平安時代で道長を救った時に出会っている。

「博士!」アヤカが駆け寄る。「また何かあったんですか?」

「平賀源内の命が狙われている」 博士は深刻な表情で告げた。

「えっ!? でも歴史じゃ破傷風で…」 アヤカの言葉を遮るように、博士は首を振った。

「それは偽装された歴史。歴史改変者の仕業なんだ」

「よーし!」ユウキが握り拳を作る。「源内先生を守るのは、オレたちの番だな!」

「任せてください!」アヤカも負けじと声を上げた。「私たち、前だってちゃんと道長さんを守れたんです!」

博士が取り出した装置から青い光が放射され、二人は意識を失った。




第二章:歴史の陰謀

目を開けると、そこは江戸の町並み。瓦屋根が連なる商家、土でできた道を行き交う着物姿の人々、風鈴の音が心地よく響いていた。

「これが本物の江戸時代…」ユウキは目を輝かせた。
彼の視線は次々に現れる光景を追いかける。煙管をふかす商人、桶屋の店先、そして頭にちょんまげを結った侍。
「すげえ、ちょんまげだ!」と声を上げた瞬間、アヤカに腕を引っ張られた。
「そんなに騒がないで、目立つよ!」

ユウキは背負っていたランドセルがAED収納ケースに変わっていることに気づいた。

「ユウキ、あそこ!」
アヤカが指さす先、平賀源内らしき人物の前で、一人の男が突然倒れていた。

ユウキは目を凝らしてその姿を見つめる。「あれって…もしかして、蔦屋重三郎じゃない?」

源内が驚きの声を上げた。「蔦重! どうした、しっかりせい!」
源内は慌てて男の元に駆け寄る。

「重三郎さん!」
アヤカも叫びながらその後を追った。

ユウキも急いで膝をつき、倒れている男の顔を覗き込む。目を閉じ、苦しそうに胸を押さえた跡がある。

「息をしてない…! 心臓が止まってるかも!」
ユウキの表情が一気に引き締まった。

源内は混乱しながらも必死に問いかける。「どうすれば良い!? 蔦重に何が起きたのだ!?」

「落ち着いてください!」
ユウキが叫ぶ。「僕たちに任せてください!」


AEDの準備と応急処置

ユウキは背中のランドセルを下ろし、収納されていたAEDを取り出した。それを見た源内は目を丸くする。

「なんだ、それは!? 見たこともない道具だが…」

「命を救うための機械です! 詳しい説明は後でします!」
ユウキはアヤカに指示を出した。「アヤカ、胸骨圧迫を頼む!」

アヤカはすぐに膝をつき、重三郎の胸に手を置いた。「1、2、3…」とリズムを取りながら心臓マッサージを始める。

ユウキはAEDのカバーを外し、起動させた。機械の電子音声が冷静にガイドを始める。

「患者の衣服を開いてください。電極パッドを貼り付けてください」

ユウキは重三郎の着物を素早く開き、パッドを胸の右上と左下にしっかり貼り付けた。

「心電図を解析します。患者に触れないでください」

「みんな離れて!」
ユウキの声で、アヤカと源内が重三郎から手を離す。

「電気ショックが必要です。充電しています…充電完了。ショックを行います。」

ユウキは深呼吸してボタンに手を置いた。「ショックを行います! 離れて!」

ボタンを押すと、重三郎の体が軽く跳ねた。

「再び胸骨圧迫を続けてください」

「アヤカ、もう一度お願い!」
ユウキが指示を出し、アヤカが再び心臓マッサージを始める。

「雷を封じ込めた箱か!」源内は感心しながら何かメモを取っている。

重三郎の回復

しばらくして、重三郎が苦しそうに息を吸い込んだ。「はぁ…」

「動いた! 心臓が動き出した!」
アヤカが顔を輝かせて叫ぶ。

「蔦重! 無事か?」
源内が彼の肩を支えながら声をかけると、重三郎はゆっくりと目を開けた。

「なんだ…この胸に感じる雷のような衝撃は…」
重三郎が弱々しい声で言う。

「重三郎さん、安心してください」
ユウキが微笑む。「未来の技術であなたを助けたんです!」

「未…来?」
重三郎が疑問の目を向けると、源内が驚きながらユウキとアヤカに目を向けた。

「お主ら…一体何者だ?」

「僕たちは…歴史を守るためにここへ来ました」
ユウキはそう答え、次の危機に備えるように辺りを見回した。その時、背後から不気味な声が響いた。

「これは驚いたな。未来の技術を使うとは…」

振り返ると、闇から黒装束の男が現れた。

「何奴!? 」
源内が声を張り上げる。

黒装束の男は不敵に笑い、手に奇妙な装置を持ち上げた。それは、源内のエレキテルを模した何かだった。

「この場で分からせてやろう。雷の力は命を奪うためにこそあるのだ!」

新たな危機が、彼らに迫っていた――。


歴史改変者の挑戦

黒装束の男が持つ奇妙な装置から、紫色の稲妻が走った。

「何だ!? この装置…!」
源内が驚愕の声を上げる。

ユウキとアヤカはとっさに源内と重三郎を庇うように立ち上がった。「アヤカ、準備して!」ユウキが叫ぶ。

「もちろん!」
アヤカはAEDを確認しながら、冷静に次の行動を待つ。

「これ以上邪魔をするな!」
黒装束の男が手元の装置を操作すると、より強い雷が装置から放たれた。それはまるで意志を持つかのように蛇のように曲がり、四人を狙って迫ってくる。

「させるか!」
ユウキは手にしたAEDを盾のように構えた。先ほど重三郎を救った際に、装置が紫色の稲妻を吸収する仕組みがあることに気付いていたのだ。

雷はAEDのパッドに吸い込まれるようにして静かに消えた。

「なるほど…未来の道具というわけか」
黒装束の男は不敵に笑う。「だが、それだけでは私の計画は止まらない!」

ユウキは必死に考えた。「アヤカ、源内先生に頼もう! 僕たちだけじゃ、この暴走を止めきれない!」



第三章:エレキテルの真実

「源内先生!」
ユウキが振り向いて叫んだ。「この雷の力を制御する方法はないですか? 先生のエレキテルなら何かできるはずです!」

源内は一瞬考え込むが、すぐに顔を上げた。「確かに、予の発明が役に立つかもしれぬ。しかし…時間が必要だ」

「それなら、僕たちが時間を稼ぎます!」
アヤカが毅然と答える。

源内は急いで近くの荷車から自分のエレキテルを取り出し、何やら装置を改造し始めた。彼の手は止まることなく動き続ける。

「アヤカ、もう一度胸骨圧迫の要領でAEDのパッドを抑えて! 男の攻撃を吸収する!」
ユウキが指示を出すと、アヤカも即座に動いた。

「お主ら…本当にただの子供ではないようだな」
源内が作業の合間に呟いた。

「僕たちは、未来から歴史を守りに来たんです!」



逆転の一手

黒装束の男はイライラした様子で手元の装置をいじり、さらに大きな稲妻を放った。だが、ユウキとアヤカが必死に守る間に、源内の改造はほぼ完成していた。

「できたぞ!」
源内が声を上げると、彼が作った新たなエレキテルが金色の光を放ち始めた。

「源内先生、どうすればいいですか!」
ユウキが聞くと、源内は言った。「この装置を使えば、やつの雷を逆に無力化できる。さあ、使うのだ!」

ユウキは装置を受け取り、アヤカとともに黒装束の男に向き直る。「これで終わりだ!」

エレキテルから放たれた金色の光が紫色の稲妻を包み込み、次第に消し去っていく。

「まさか…こんな子供たちに…」
黒装束の男は光に包まれ、その姿が徐々に薄れていった。

「ふう…」
アヤカがほっとしたように息をついた。


平賀源内と蔦屋重三郎の感謝

「お主ら…」
源内が目を輝かせながら二人に近づいた。「雷の力をこんな形で使うとは、予には想像もできぬことだった。しかし、これで確信したぞ。未来には、さらに素晴らしい理(ことわり)が広がっているのだな」

源内は「この箱の仕組みをもっと知りたい。未来ではこれが当たり前なのか?」と尋ねた。

ユウキは「未来ではこれがどこにでもあるんです。でも、まだ足りない場所もあって…」と答えた。アヤカは続けて「だから、今いる人たちにも伝えたい。命を救う方法を。」と言った。

源内は「この時代でも役に立つかもしれないな」と言い、二人に手を差し伸べた。「この技術を伝えよう。」

「未来でも、源内先生の発明は役立っています!」
ユウキが笑顔で答えた。「だから、もっとたくさんの人を救う発明を続けてください!」

「もちろんじゃ!」
源内が力強く答える。

「助かったぞ、子供たちよ」
重三郎も微笑んでいた。「今度はわしらが、この時代を変える新たな知恵を作り出さねばならぬな」


終章:再び現代へ

その時、再び空気が歪み始めた。タイムドクターが現れる時の前触れだ。

「もう、戻らないと」美咲が歩の袖を引く。

「源内先生!」去り際、ユウキは叫んだ。「先生の発明は、きっと未来でも人々の役に立ってます。僕たちが証人です!」

源内は静かに頷いた。「予に教えてくれたな。雷の力は、人を殺めるためでなく、人を生かすためにこそある、とな」

光が二人を包み込む。気がつけば、また現代の街角。下校途中の風景が、まるで何事もなかったかのように広がっていた。

「ただいま戻りました」
タイムドクターが現れた。「よくやってくれた。歴史改変者の企みを阻止し、正しい歴史を守ることができたよ」

「博士」アヤカが尋ねる。「源内先生は本当に…その後…」

博士は穏やかに微笑んだ。「歴史の教科書を見てごらん。でも、きっと君たちの知っている源内先生は、これからも人々の命を救い続けているはずだよ。」

しかし、その時ユウキが突然叫んだ。

「くっそー! 蔦屋重三郎に会ったのに、もっと話をしたかった!」
アヤカが呆れたように笑った。「本当、ユウキはいつもそんな調子なんだから。でも、また次があるかもね」

ユウキは胸を張って言った。「次は、もっといろんな人に会って、歴史を守ってやる!」

夕暮れの街に響く二人の笑い声。その上空には、遠く雷が一瞬光る。まるで源内からのメッセージのようだった――。


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